第30話 ブライアンvsヤンキー

「おら、もうへばったかアゴ割れ? もう終わりかよ、おい。」


「油断したぜ……バーロー。」


 バットを突き付けられているブライアンは、今にもやられそうであった。

 二人の周りには大きなクレーターや小さな穴が無数にできており、いかにこの場で激闘が繰り広げられていたかがわかる。


 ブライアンは戦闘において天賦の才能を有しており、簡単にやられるはずがない。

 二人の激闘に一体何が起こっていたのか……。


遡ること数分前……。


「おらぁ、いい加減くたばれやアゴ割れ!」

「きかねぇよ、バーロー」


 二人は一進一退の殴り合いをしているが、お互い一歩も引かない状況であった。


 ブライアンが殴れば、ヤンキーが避ける。

 ヤンキーが蹴るもブライアンは無傷。


 攻撃を食らっている回数は、圧倒的にブライアンの方が多いがお互いダメージはない。


「かぁー、このままじゃ埒があかねぇなアゴ割れ! 覚悟しろや本気出すからよぉ!」


「へ、俺っちも少しは本気だすぜバーロー。」


 そういうとブライアンはピコハンを創造し、ヤンキーに向けて一気に振り放った。

 ピコハンの破壊力は圧倒的であり、例え当たらなくても、その衝撃波によるダメージは軽いものではない。


「死んでも恨むなよバーロー!」


 ブライアンは敵が素早いため、その衝撃波をもって足を止めようと考えた。

 そしてピコハンを振りかぶり、ヤンキーの頭部に向けて振り落とす!


  ドーーーン!


 ブライアンの攻撃は、まさかのヤンキーへの直撃という結果を生んだ。

 その破壊力と衝撃波はヤンキーの存在そのものを破壊しつくしたが如く、大地をクレーター状に削る。

 砂煙が消えた後、ピコハンを上げた先には、ヤンキーの姿が跡形もなく消し去られていた。


「お? やり過ぎたかバーロー……?」


 ブライアンは当初は衝撃波で足を止めて、素手で攻撃を当てるつもりであった。

 しかし、そこまで行く前に戦闘は終わってしまう。


「そういや、相棒はあいつに何か聞こうとしてたっけか? まぁいっかバーロー。」


 早くも戦闘が終ってシンの下に行こうとしたところ、その油断が致命的なミスとなる。


  ドドン! ドン!


「うお! 熱! お? 体が燃えてるぜバーロー!」


 ブライアンの後方から無数に飛んでくる火の玉。

 それがブライアンに直撃した。


 火の玉のダメージは、ブライアンにとって大したことはないが、問題はその延焼能力である。

 体に着いた火が燃え盛っていく。

 流石に焦ると、横になって転がり、火を鎮火しようとした。


「なんだよバーロー。」


 ブライアンには何が起こったかわからない。

 実はさっきブライアンが消し去ったヤンキーは、ヤンキーが火の力で行使した陽炎とよばれる分身の術であり、ブライアンが圧殺したのはただの炎の残像であった。


 そしてヤンキーはブライアンの後方に移動すると、自らで作り上げた炎のボールをブライアン目掛けて金属バットで打ち飛ばし、無数の火の玉をブライアンに浴びせていたのだった。


「隙だらけだぜ! アゴ割れよぉ!!」


 そしてそのチャンスを見逃すヤンキーではなく、一瞬でブライアンとの距離を詰めると


「おら! これもくらえや! ファイヤーシュート!!」


 ブライアンの顔面目掛けて、炎を纏った足でサッカーボールキックをかます。

 当然避けることができないブライアンは、その爆発的威力のキックをまともに顔面にくらって吹き飛ぶ。


ーーがそれで終わりではない。


 吹き飛んだ先に、炎の爆心力で移動したヤンキーが更に顔面を蹴とばした。

 正に顔面サッカー。


 如何に耐久力の優れたブライアンをもってしても、この攻撃によるダメージは大きかった。

 だが、倒れながらもなんとか片膝を付けて立ち上がろうとする。

 

 しかし、ヤンキーはそんな隙を許すはずもなく、ブライアンに近づいて金属バットを突き付けていたのだった。


「ブライアン!」


 俺はブライアンを助ける為に走ろうとするが、その前に既にマリリンが詠唱していた。


「激しく吹き荒れる風の精霊よ、刃となりて、敵を切り刻め! ウィンドカッター!!」


 十字の風刃がヤンキーに襲いかかる。

 マリリンが放った魔法は、ヤンキーに直撃したかに見えたが、ヤンキーが持つ炎のバットによるフルスイングで、風刃はかき消された。


「おいアマ! 人のタイマン邪魔すんじゃねぇよ! 女に用はねぇ! すっこんでろ!」


「女だからって甘く見ない事ね!」


「そう……油断大敵……プルウォーター!」


 今度はヒヨリンが既に詠唱が完成した魔法を放つ。 

 すると、ブライアンの足元に水流が現れ、ブライアンを俺達の方に押し流して救出した。


「ち! 水魔法かよ! 少し厄介だな。おいスケども! 俺は女は殴ることはできねぇ! だから消えろ! 目障りだ!」


 ヤンキーは硬派であり、決して女に手は出さない。

 それが彼のプライドであった。


 更に、火の弱点とも言える水魔法はヤンキーにとって非常に厄介な相手である。

 逆に土の精霊は火の精霊にとっては相性がよく、ブライアンは相性が悪い関係もあって、劣勢を強いられていたとも言えた。


「ふん、誰が鬼族の言うことなんか聞くもんですか。卑怯なあんた達に何言われたって関係ないわ。あんたは必ずぶっ飛ばすわよ!」


 そして一連の流れを見ていた俺は、女は殴らないと宣言して卑怯な真似を取ろうとしないヤンキーを悪い奴に思えなくなるのであった。


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