第29話 巫女が強すぎる件
「ブライアン、止まってみんなを降ろしてくれ。」
ブライアンは、目の前に立ちふさがるバイクを前に立ち止まる。
そして殺気だっていた。
「おう、相棒。あいつらは俺っちがやってもいいのか?」
「ああ、よろしくっと言いたいところだけど、その前に一つ確認することがある」
ブライアンから全員が降りると、ブライアンは馬化を解除する。
「シン、あのトサカ男、火の使い手ニャ。気を付けるニャ。」
アズが俺にそう伝えると、俺は無言で頷く。
なんとなくだが感じる。
あいつは強い!
すると、目の前のヤンキーは背中から金属バットを取り出して俺達に向けた。
「ごちゃごちゃくっちゃべってんじゃねぇよ! おめぇら、最近刀持ってた鬼族と喧嘩したか? ああん? 5秒以内に答えろや!」
「あ? それが人に聞く態度か、おい。そんなことよりも、お前らこそ昨日人族の村襲ったりしてないだろうな?」
俺も挑発的に質問を質問で返す。
「あんだとコラ? おめぇらの話なんざ聞いてねぇんだよ。俺が質問してんだよコラ、やんぞコラ?」
ヤンキー鬼は一歩づつ近づいて来た。
そしてブライアンもヤンキー鬼族に近づいていく。
二人は顔面を近づけると、ブライアンは見下ろすように、ヤンキーは顔を斜め上にあげて、メンチの切り始めた。
「お? やんのかチビ。頭に尻尾生えてんぞバーロー。俺っちは鬼族には手加減できねぇぞ。」
「あん? てめぇこそ、なんだそのアゴは? アゴで笑いとってんじゃねぇぞコラ?」
牽制し合う二人。
今にも戦闘が始まりそうだ。
だが、まだ早い。
「ブライアンちょっと下がってくれ。」
ブライアンの肩に手を置き、下げる。
「おい、そこのヤンキー。刀もってた奴らはお前の仲間か? そいつらなら、俺がぶっ飛ばしたぞ。文句あんならこいや、相手してやるよ。その代わり俺の質問にも答えろ、人族を攫ったのはお前か?」
「ああん? お前が? 随分と弱そうじゃねぇか。お前が倒したのは仲間じゃねぇ、舎弟だ。うちの若いもんがお世話になったみたいじゃねぇか。」
「質問に答えてないぞ、人族を攫ったのはお前かって聞いてんだよ。こっちは。」
「いちいちひ弱な人族のことなんざ覚えてねぇよ、まぁどうしても聞きてぇなら、力ずくで聞いてみろや。それが鬼族のルールっちゅうもんだ。それに俺はただ強い奴と喧嘩してぇだけだ。まずは、この馬からボコってやんよ。」
いきなりヤンキーはバットでブライアン目掛けてフルスイングするが、ブライアンは軽々とそれを片手で受け止める。
「なんだチビ。よわっちいな。おうちに帰ってババァの乳でものんでなバーロー。」
ブライアンはバットを受け止めた腕とは逆の腕で殴りかかるが、今度はヤンキーがバックステップで避ける。
「やるじゃねぇか、あご割れ。おいてめぇら、邪魔が入んねぇように周りの奴らをやっちまいな。」
「おう、おめぇら聞いたか? 総長がタイマンだ。誰にも邪魔させんじゃねぇぞ。」
そういうと、周りにいたゴブリン達は一斉に木製のバットやチェーン等を手に持ってシン達に襲い掛かってきた。
「おい、あご割れ。てめぇは俺とタイマンだコラ!」
「お? タイマンってなんだバーロー?」
「一騎打ちってことだよ! このカスが!」
そういうと、二人は正面からぶつかり合い、殴り合いを始めた。
一方俺は、
「マリリン、ヒヨリン! 下がってくれ! 俺が守る。」
「何言ってんのよ、私だってやれるわ! 見てなさい! シン、長刀借りるわよ!」
そういうと長刀を手に取る。
そしてヒヨリンまでも、服の中から水風船のヨーヨーを取り出し、両手に持った。
「シン、私も戦う。鬼族は……許さない!!」
二人は俺の前を駆け抜けて、ゴブリン達に向かう。
マリリンは駆け出すと同時に詠唱を唱えた。
「あまねく風の精霊達よ、我に纏いて、敵を切り裂け。ウィンドスラッシュ!!」
マリリンの持つ長刀に風が纏う。
「うりゃあ! あの世で殺した人たちに土下座しなさい!!」
マリリンは持っていた長刀を横一閃に振るうと、真空の刃がゴブリン達を襲った。
「プギャーー!」
「あにきーー!」
長刀から放たれた真空。
ゴブリン達は後方に振り飛ばされながらも、体中が刻まれていく。
そして次々に長刀を振るっては、ゴブリン達を切り刻んでいった。
「なんだあのアマ! 作戦変更だ、あっちのちっこい女を狙うぞ!」
ヒヨリンにターゲットを変えたゴブリン達は、今度はヒヨリンに襲い掛かる。
だがヒヨリンもまた、水風船ヨーヨーを両手でブンブン回しながら、ゆっくりとゴブリン達に近づくと、
「荒々しき水の精霊達よ、固まりとなりて、敵を屠るしぶきとなれ! アクアボム!」
ヒヨリンは襲い掛かってくるゴブリン達に向け、ヨーヨーをぶつけると、水風船はゴブリンにあたる度に盛大に爆発した。
「ゴブッ!」
「アベシィィ!!」
破裂した水風船の水は、すぐに元の水風船に集まり、再度膨らむと次々にゴブリンにぶつかり、ゴブリン達を爆破していく。
なす術なくやられていくゴブリン達。
まるで2人は行き場の無かった怒りと悲しみをぶつけているようだった……。
そして気づけば全てのゴブリンはマリリンとヒヨリンによって全滅させられている。
俺はその光景をただ茫然と眺めていただけだった。
「すげぇ……めっちゃ強いじゃん。あれ? あの時やろうと思えば自力で逃げれたんじゃね?」
つか、あんだけ格好つけて、俺の出番がないんですけど……。
「シン格好悪いニャ…」
隣にいるアズが、俺に辛辣な言葉を浴びせてくる。
「言うなアズ……穴があったら入りたい。あ、俺穴作れるわ……出来るだけ深い穴にしよう……。」
そんな事を1人でぶつぶつ言っていると、ゴブリンを全滅させた二人は、
「ふん! 大したことない連中だったわ。」
「だったわ……。」
と消化不良ともいえるような表情で戻って来る。
「マリリンもヒヨリンもすげぇつええじゃん。なんだよ、もう。心配して損したよ。」
「あたりまえでしょ。私もヒヨリンも村最強の魔法使いのおばぁ様と村最強の戦士のおじいさまに鍛えられてきたんだから! そこらへんの鬼族なんかには負けないわ。」
「私達は村で最強の風の巫女と水の巫女……。」
なるほどなぁ。
でも、俺的にはヒロイン的なかわいい子を格好よく守って、「素敵!!」って言われるのを期待してたんだけどなぁ……。
無理じゃんかこれ……。
つか、地中の時にどさくさに紛れてマリリンのお尻を触っていたら今頃、俺は……。
思い出すと身震いした。
「この調子だと、あっちの方も終わってるかな? 流石にブライアンが負ける事はないだろ。」
そういってブライアンの方を見ると、まさかのブライアンが片膝をついていて、体中に火傷を負っていた。
そしてブライアンを見下すように、ヤンキーは金属バッドをブライアンのコメカミに突き付けている。
俺は目を疑うのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます