第28話 ヤンキー
俺達を乗せたブライアンは森を迂回し、馬族の村に向かっていた。
くそ……。
パイオツが全然あたらねぇ……。
なんで傾斜もなにもないんだ!
森を通るか?
森の中ならアップダウン決められるはずだ!
いやダメだ……。
あそこはできればもう行きたくねぇ……。
現在進んでいる道は平坦な道。
特に障害物もなく、短めの草が生えているだけだった。
故に、いきなり速度を上げたり下げたりする、地獄のアップダウンによるマシュマロアタック作戦が実行できない。
そんな生殺しの状況にヤキモキする俺。
俺がそんな事をずっと考えているとは露知らず、ずっと黙って移動している事に耐えられなくなったマリリンは尋ねた。
「そういえば、シンの事何も聞いてなかったわね。シンってどこで生まれたの? 馬族の村?」
声をかけられた事で、ハッと我にかえる。
「え……あ、ん~。いや俺は日本っていう人族の国で生まれて育ったんだ。知ってる?」
「聞いた事ないわね、ヒヨリンは知ってる?」
「ん、昔……本で見た事ある。古代文明が栄えていた時代にあった国の一つ。」
「嘘でしょ! それってどんだけ前の話よ。まぁシンが自分の事話したくないなら、無理に言わなくてもいいわ。」
古代文明?
やっぱりこの世界では俺が住んでいた世界は昔に滅んだ事になってるのか……。
その話を聞いて少し落ち込む。
もしかしたら、まだどこかに日本があって、家族もそこで暮らしているかもしれないという淡い期待が心の隅にあったのだ。
逆にマリリンはそんなあり得ない事を答える俺に対し、何か言いたくないことがあるのかもしれないと思い、気を遣って深くは聞いてこない。
「そっか……古代文明か。もう日本はどこにもないんだな……。」
「え? 本当にシンは日本で生まれたの? どういうこと?」
マリリンは悲しそうに呟く俺を見て、さっき言ったことが本当かもしれないと思い直す。
「うん……本当だよ、嘘つく程の話でもないしね。ただまぁ、正直に話しても信じられないと思うよ。」
自分でさえ、今の状況を信じられないのに、他人がそれを信じるとは思えなかった。
「いい、信じる。シンの事……知りたい。話して。」
ヒヨリンが俺の話に興味を持った。
昔から知識欲が強く、未知の事について最初から否定せずに自分で調べないと気が済まない性格のヒヨリン。
わからないことがあると一日中本を読んでいるような子であった。
だがしかし、その言葉は俺には違った意味で聞こえる。
確かにヒヨリンのセリフは聞きようによっては、
「あなたの事がもっと知りたいわ……私はあなたを信じるわ……」
とも捉えられた。
自分の話を無条件で信じると直球で言われたからなのか……なぜか胸がキュンキュンしてしまう。
「お……俺の事が知りたいだと? まさか……俺にホの字なのか?」
後ろを振り返ってヒヨリンを見つめると、心の声のつもりが、突然の胸キュンフラグ的な言葉に無意識に声が漏れていた。
「うん、知りたい。聞かせて。」
否定しないヒヨリン。
そもそも、ホの字の意味がわからなかった。
普通に話を聞きたいだけ。
ヒヨリンが真剣な眼差しで俺の目をジッと見つめてくる。
おい、こいつ可愛すぎやしないか?
高まる性欲がときめきに押され始めてるぞ!
おっぱいはどうした! 俺!
目を見つめられる俺は、胸をドキドキさせながらも、自分のいた世界の事、突然この世界に来てアズに出会った事等を話し始めた。
「凄い話。でも……信じる……もっと知りたい。」
ヒヨリンは俺の話を黙って聞き続け、少し頭を傾げながらも自分なりに考察していた。
もっと俺の事が知りたいだと?
フラグか?
これはフラグなのか!?
つい昨日、自分は絶対勘違い系にはならないと誓っていたのだが、悲しい事に人の心とは自分の思いとは別にすれ違うものであった。
「ふーん、よくわからないけど凄い話ね、じゃあシンも家族に会えないんだ……辛いわね……。」
マリリンには突拍子もない話よりも、自分の境遇に当てはめて、シンも家族にもう会えないというところに共感し、俺に同情した。
「お? 相棒なんか難しい話してんな、俺っちにはさっぱりだけど心配すんな相棒、俺っちがいるぜ! いつか相棒に日本を食べさせてやるぜ!」
ブライアンはわけわからない勘違いをしている。
「お、おう。ありがとなブライアン。でも日本は食い物じゃねぇぞ。あと、マリリンも心配してくれてサンキューな。」
「べ、別にあんたの事なんか心配してないわよ! ただ、少し可哀そうに思っただけだわ、勘違いしないでよね!」
顔をツンっと横にそらせて言う。
出たツンデレ!
わざとか?
こいつわざとやってんのか?
かわいいじゃねぇか、くそ。
さっきまでヒヨリンにときめいていたはずが、マリリンにもドキドキしてしまう。
これが、ハーレム系主人公か……。
遂に来たな、俺の時代!
もうみんなお嫁においでぇ~。
しかし突然、そんな幸せ空間に不吉な声が届いた。
「お? なんだありゃ? 相棒! 変な物がこっち来てるぜバーロー。」
ブライアンの声で、幸せな妄想の世界から戻る。
「砂煙……なんだあれ? え? 嘘だろ! なんでこの世界に……?」
思いもよらぬ光景に目を見開く。
「あれは? バイクと自転車……というより暴走族?」
パラリラパラリラ
すると、昭和の時代の暴走族のような音が聞こえてくる。
「あれは……鬼族! もしかしてあいつらが村のみんなを!」
マリリンは怒気の篭った声で叫んだ。
「鬼族……ゆるさない……仇!」
ヒヨリンは静かに怒りを表す。
「え? 鬼族って和服じゃないのか? 確かによくみると角が見えるな。もしあいつらが村を襲った連中なら、ただではすませねぇぞ!」
俺も怒りの闘志が滾った。
互いに近づくにつれ、その集団がよく見えてくる。
その集団の先頭には、ファイアーボール模様の赤い単車に跨がる白い特攻服を着た鬼族がいた。
そいつは、襟足の長い金髪リーゼントに角が生やした男。
その後ろには、中学生が無理してヤンキー仕様に変えたような自転車に乗っているTHEゴブリンといった緑色の体をした小鬼が50人程連なっている。
「おう、おめぇら! ちっと止まれや! あん? 聞いてんのかコラ! 止まれっつてんだよ!」
先頭のヤンキー鬼が単車を横に滑らせて止まり、ブライアンの進行を妨げる。
後に、この出会いが俺達の運命を大きく変えるのであった。
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