第27話 マシュマロ
「さぁ、行こうか! でも本当に良かったのか? 村を襲った鬼族を探しに行かなくて。攫われた人も沢山いるだろうし……。」
俺は長老が亡くなった後、攫われた人たちを探しに行くと伝えたのだが、それを二人が強く拒絶した。
特に強く反対したのはヒヨリンだった。
ヒヨリンは、
今回襲った鬼族は山や森を越えて来たと推測した。
村の燃え跡からも相当時間が経っていると判断し、既に鬼族達は森や山の中を抜けていると考えた。
そして、例えシンが空から見ても見つけるのは容易で無いと思ったのだ。
責任感の強そうなシンを一人で行かせたら多分見つけるまで無理をすると思うし、それは危険過ぎた。
それゆえに、強い拒否をしたのだった。
「えぇ、村を襲った鬼族は絶対許さないし、攫われた人たちは必ず助けるわ。でも、敵の戦力もわからないし、今無理をしたら逆に助けることができなくなってしまうわ。」
「そう、だから一度シンの拠点に戻る。馬族の村に一緒に行く。そこでササミを見つける。」
最後のヒヨリンのセリフはよくわからなかったが、二人が大分冷静を取り戻したように見えて少し安心した。
三人はお墓参りを終え、山を下りて村に戻ると、村の入り口にはアズを肩に乗せたブライアンが立っている。
「おう、相棒。墓参りは済んだかバーロー?」
「あぁ、待たせて悪かった。それじゃあ、一旦馬族の村に戻るぞ。」
「おぅ、俺っちも早く帰ってマドンナちゃんのお墓を作らねぇとな……。」
ブライアンは悲しそうな顔で涙を流している。
あ、やべ……。
そういやマドンナちゃんがここにいることになってたわ……。
「なぁ、ブライアン。マドンナちゃんは足が速いから村に逃げ帰ってるかもしれないぞ?」
「お? そうだな相棒! そうでなくても可愛いすぎて鬼族の野郎どもに掴まってるかもしれぇなバーロー! 待ってろマドンナちゃん、俺っちが直ぐに助けにいくぜ!」
そう言うとブライアンは直ぐに立ち直り、険しい表情のまま馬化する。
俺はブライアンのサイドにバッグパックと長刀を付けて、ブライアンの背に乗った。
「にゃぁも乗るニャ。」
その際に、アズはすかさずいつもの定位置である、Tシャツの中に潜り込む。
まぁブライアンの事は後でどうにでもなるだろ……。
ん?
マリリンが乗ろうとしない。
「どうかしたかマリリン? なんか村にやり残した事があったか?」
「いえ、違うの……ただ……なんでもないわ。ごめん、ヒヨリン先に乗って……。」
マリリンは今日一日の事があって、シンを異性として意識し始めてしまった。
そのせいで、後ろに乗ってシンに掴まるのが恥ずかしくなる。
ヒヨリンはそれを何となく察し、黙って俺の後ろに乗り込んだ。
「ひゃっ!」
ヒヨリンは若干乗る時にバランス崩し、落ちそうになって俺にしがみ付く。
モニュ……。
あれ? これは……。
まさか……嘘だろ!
マリリンよりデカい!
しかも柔らかいぞ……。
なんてこった!
こんなに素敵なマシュマロがあったとは!
思いもよらぬ幸運に俺は興奮した。
俺は大も小も愛する平等主義者であったが、これは……。
大よりになってしまうぞ!
そんな俺の心情とは別に、突然落ちそうになったヒヨリンを見て、マリリンは慌った。
「大丈夫!? ヒヨリン!」
「ん。大丈夫。任せて。」
ヒヨリンは俺にしがみ付きながら、全く問題ないといった風に、親指を立ててサムズアップする。
……が、その際に押しあてられたパイオツが揺れて、背中にコリっとした突起が擦すれた。
「おぉ!」
やばっ!
咄嗟に声が出ちまった!
おさまれ! 息子よ!
まだ覚醒の時ではないぞ!
「ん? シンどうした? 変な声出して? 痛かった?」
ヒヨリンは怪訝そうな目で確認する。
痛いはずがない!
いや、ある意味息子が悲鳴をあげているか……。
「あ……いや……ヒヨリンが落ちないようにと気合を入れていまして……。」
必死に誤魔化す俺。
だが、子供扱いされたと思ったヒヨリンは、少しふくれっつらになる。
「むう、大丈夫だもん。しっかりしがみつくもん!」
ヒヨリンは頬を膨らませて、不満そうに言った。
マジっすか!?
しっかりしがみ付いてくれるんですか?
このチャンスの逃したら男じゃねぇ!
地獄のアップダウンを見せてやるぜ!
待ってろ息子! 今日はお前を寝かせないぜ!
二人のやり取りを見たマリリンは少し不機嫌になって、勢いよくブライアンに飛び乗った。
ドガっ!
「お? どうしたバーロー?」
「なんでも無いわ! 早く行くわよ!」
「お……おう。んじゃブライアン、よろしく!」
なんで怒ってらっしゃる?
もしかして下心バレたか?
いや、そんな事はないはず……。
ははーん、さては嫉妬したのか?
俺も罪な男だぜ……。
君のパイオツも嫌いじゃないぜ?
最低な事を考える俺。
いつかバチが当たるであろう。
しかし男はスケベ。
これは自然の摂理である。
「おう、飛ばすからちゃんと掴まれよバーロー!」
こうして4人と1匹はマリリン達が育った村を出発した。
それぞれの悲しみと決意と下心を胸に秘めながら……。
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