第21話 地中に生えた化け物
真っ暗な森の中……。
昼の森も恐ろしいものがあったが、夜は夜でまた違う恐怖があった。
夜は、夜行性の虫や動物の時間であり、日中には姿を見せなかった動物達が獲物を探して動き始めている。
この森の中へ夜になって近づく者はいない。
例え鬼族であったとしてもだ。
しかし今夜だけは違う。
ドドドッ! ドドドッ!
静かな森に、地響きの様な激しい音が鳴り響く。
森に住む動物達は、今までにない音と振動に警戒し、近づいて来ない。
しかし、それでもその音の方に向かう勇敢な動物もいた。
巨大イノシシ
である。
ドガッ!!
全長5メートルはある猪は吹き飛ばされて、ピクピクしている。
森を駆け抜ける化け物を何人も止めることはできなかった。
そうブライアンを……。
俺はブライアンと森で合流すると、そのままブライアンに飛び乗って大樹の下に爆走していた。
初めてブライアンに乗った時は制御できず、ひたすら猛スピードで直線を駆け抜けるだけであったが、今は違う。
肉体能力が劇的に向上した上、重力操作で速度調整ができるようになった今、森の中でも木を避けながらひたすら大樹に向かう事が可能となった。
「ブライアン、疲れてないか?」
「おうよ! まだまだ余裕だぜバーロー。」
二人は会話して走れる位のスピードに落とす。
間もなく合流場所に到着するからだ。
「なぁブライアン、捕まっていたのはやっぱり人族だと思うか?」
「お? 俺っちにはわからねぇが、鬼族が狙うなら多分人族だと思うぜバーロー。」
「そっかぁ、アズはちゃんと助けられたかなぁ。まぁ行ってみればわかるか。」
俺は、この世界で初めて人族に出会えるかもしれないことに興奮していた。
この際、男でも女でもどちらでもいい。
早く、ジンガイ以外に会いたい!
「見えたぞ! あそこだ。あの葉っぱで隠されたところが穴になってるから、近くに着いたら降ろしてくれ。絶対落っこちんなよ!」
お笑い界であれば、これは完全なフリである。
「おうよ、相棒!」
二人は穴に被された葉っぱの近くまで来ると、俺はブライアンから降りた。
「おし! 到着!」
「お? 相棒、なんか変な葉っぱがあるぜ?」
「いやだから、そこが入り口だってば……っておい!!」
ズボ!
やっぱり落っこちるブライアン。
「お? お? おおおお!」
ブライアンは話を理解しておらず、不用意に葉っぱ上を歩いてそのまま穴に落下した。
「言わんこっちゃない……やると思ったよ。」
俺もブライアンに続いて、穴の中に飛び込む。
「そういや、ここかなり深いんだよな。ブライアンは平気か? まぁ平気か。」
俺は重力操作でゆっくりと落下できるが、ブライアンは重力に従って急降下していた。
「おお! おもしれえぇぇぜばーーろーー!」
ブライアンは高速フリーフォールを楽しんでおり、着地の事など全く考えていない。
ドーーン!
その結果、ブライアンは広場の中心に落下すると、体が埋まって顔だけ地面に出ている。
「キャーー! 化け物! ヒヨリン、逃げて! 化け物が来たわ!!」
広場に響き渡るマリリンの絶叫。
「んん? どうしたの?」
ヒヨリンは眠気眼を擦りながら、目の前に映る珍状に目を向けると……そのまま失神した。
ヒヨリンが見たもの……。
それは地中に生えている
アゴが三つに割れた化け物の顔
だった。
「ヒヨリン! ねぇヒヨリンしっかりして! なにしたの! この化け物め!!」
地中に生えている化け物を睨みつけて叫ぶ。
すると地面から今度は手が生えてきて、鼻をほじりながらその化け物(ブライアン)は言った。
「お? 土の中って温かくて気持ちいいな、このまま寝ちまいそうだぜバーロー」
「よくもぬけぬけとそんな事を! 何が狙いよ! もうすぐ強い人がくるんだからね!!」
マリリンは得体のしれない化け物に対し、牽制するように言い放つ。
「お? チビ助がいるじゃねぇか、お? そういえば相棒はどこだ? ふぁ~……。」
しかしブライアンはマリリンの言葉を全く気にする事なく、丸くなって寝ているアズを発見すると、そのまま寝てしまった。
トンッ!
「わりぃ、遅くなっちまった。ブライアン生きてるか? っておま。埋まってるじゃねぇかよ……きもちわる……。」
俺は、ふわりと広場に降り立つと、地中に埋まっているブライアンを見て笑った。
「あなたは……もしかしてシンさんですか?」
俺は、その声に振り返り、そこにいる美女を見つけて固まった……。
え、うそ!
めっちゃいい女じゃん!
この子が攫われていた子?
おっしゃあぁぁ神様!
グッジョブ!
俺は心の中で盛大なガッツポーズを決めていた。
「そうです、私が変なおじ……じゃなかった! シンです。」
俺は、興奮しすぎて変な事を口走りそうになる。
「そう、やっぱりあなたがシンなのね。まずは礼を言うわ。助けてくれてありがとう。私はマリリンよ。」
マリリンは助けてもらったとはいえ、初対面の人間に気を許すことはできず、若干話し方はきつめになっていた。
あれ? なんかちょっと怒ってらっしゃる?
美人だけどとっつきにくそうだなぁ。
マリリンね、なんかあだ名みたいだな。
「いえいえ、困っている人を見たら助けるのが人の道ってもんです。何があったか話してもらえますか?」
俺はとりあえず浮かれる気持ちをひとまず置いて、状況を確認した。
「えぇ……いいわ。そうね、私からも話そうと思ったの。それより、そこで埋まりながら寝ている化け物は何? あなたが使役している妖怪か何か?」
妖怪って……。
ブライアンどんまい。
だよなぁ…よかった。
俺の感性は普通だったか。
「こいつは俺の友人でブライアンです。こいつは馬族と人族のクォーターなんだ。見た目はこんなだけど、優しい良い奴なんで怖がらなくて大丈夫ですよ。」
「そう……。良かった、敵じゃないのね。あ! だとしたら滅茶苦茶失礼な事いってしまったわ! 後で謝らなくちゃ、本当はお礼言わなきゃいけないのに。」
マリリンは自分の失態に気付いた。
「多分ブライアンは、気付いてないと思うから平気だと思うけど……。でも今回、ブライアンが気付かなければ助ける事もなかったし、こいつがいなければ助けられなかったのは事実だから、お礼は言ってもいいかもね。俺が言うのもなんか変な話だけどさ。」
「そう。でも後で、お礼を兼ねて謝罪をするわ。あなた優しいのね。」
マリリンは俺に微笑みながら言うと、さっきまでの固さが無くなるのだった。
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