第20話 メテオシュート!

【アズが駕籠に乗り込む1時間前】


 日が落ちかける時……。

 辺りは夕日に包まれ、青々しい草原は黄金色に染まっていた。


 そんな中、樹海の入り口の木の陰には2人と1匹のシルエットが浮かんでいる。

 鬼族に攫われている何者かを助け出すべく、隙を伺っているのは俺と愉快な2匹(あえてブライアンは動物枠)だった。


 俺が見る先には、袴姿の鬼族達が蟻の行列の如く、規則正しく列をなしてぞろぞろと北へ向かって歩いている。


「各員止まれ! ここで一旦休憩とする。者ども! 日が落ちる前に野営の準備を計れ!」


 偉そうなチョンマゲ頭の鬼が怒号を飛ばしていた。


「しめたニャ! 丁度いいところで鬼族が休憩するニャ」


「おうよ! 行くぜバーロー!!」


 ブライアンはすぐさま鬼族に向かって駆け出そうと立ち上がるも、その動きはシンの右手によって止められる。


「待てブライアン、まだだ!」


「お? いつ行くんだ? 俺っちはもう我慢の限界だぜバーロー!」


 ブライアンは珍しく気が立っている。


「焦るなよ。せっかく助けられるチャンスが来るんだ。うかつに出て行けば逃げられるか、俺達の損害が大きくなる。」


 俺は真剣な眼差しでブライアンを見つめた。


「お、お、おう……。わかったぜバーロー。我慢するぜバーロー……。」


「すまない、ブライアン。もう少しだけ待ってくれ。奴らの動きや指揮系統を把握したい。」


「相棒がそこまでいうなら信じるぜ、だけどあいつら相手に俺っちは手加減できそうもねぇ。そこんところだけは忘れねぇでくれよバーロー。」


 ブライアンは、鬼族に対する深い憎しみから、鬼を見るだけで激しい怒りにかられてしまう。


 さて、どうしたものかな。

 せっかくの好機だ、失いたくはない。


 しばらくすると、鬼族の野営の準備が整い始めて、駕籠を守備する部隊と指揮官の部隊が二つに分かれ始めた。

 更によく観察していくと、駕籠を守備するのは鎧を纏った2匹の鬼族だけであり、一人は横になり、一人は駕籠の近くで警戒している。

 どうやら駕籠の守備は2名で行うようだ。


 駕籠の周りを囲むように野営の陣が出来上がっており、陣の先頭には先ほどの指揮官と思われる鬼が座っている。


 ふむふむ、これなら注意を引けば、なんとかなりそうだな。


 見晴らしのいい草原に陣を張っているからか、守備が若干ザルになっていた。

 日が落ちると鬼達は陣の中心で焚き火を始め、徳利のようなお酒を注ぎあっている。

 それはまるで、誰かが助けやすいように仕向けてくれているようにさえ思えた。

 そして俺はそのチャンスを見逃さない。


「アズ、ブライアン! 鬼族達が油断している今がチャンスだ! 作戦通り行くぞ!」


俺が立てた作戦は、


 最初にアズが駕籠に乗り込み、乗り込んだのを確認してから数分後に、俺が鬼族が集まっている場所に範囲攻撃を仕掛ける。

 そして、敵が慌てたところを馬化したブライアンが駕籠に向かって突撃し、駕籠を壊す。

 その後、ブライアンは俺の逆側から攻めて、一気に挟撃をする。


 アズはブライアンが駕籠を壊わした瞬間に、囚われた者達と一緒に駕籠から離脱して、予め俺が土の精霊の力で作った穴に飛び込んで逃げる。


 その穴は、みんなが合流する場所に繋がっていた。


 最後に俺とブライアンは、アズの叫び声が聞こえたら一斉に離脱し、森へ逃げ込んで大樹の下に作った洞窟で合流だ。


 ちなみに、ブライアンには、もっと簡単に要点だけ説明しておいたが、多分大丈夫なはずだ。

 ダメなら、俺がどうにかするしかない。

 後は、信じるのみだ。


 そして決行の時が来た、アズが先行してから10分後、俺はブライアンに合図を告げる。


「作戦開始だ!」


 俺は闇夜となった草原を一気に駆け抜けて、鬼族の近くまで行くと、ジャンプしながらバスケのシュートモーションを取る。


「メテオシュート!!」


 俺の手の平からバスケットボールが上空に放たれた。


 これは俺とアズがチュートリアルで対集団戦を念頭に練り上げた必殺技である。

 コントロールの難しさから、長距離から放てないのがネックであるが、中距離攻撃としては、絶大な威力を発揮する必殺技だ。


 俺の手から放たれたボールは、重力を感じさせずに上空にまで飛ぶと、今度は鋼鉄の硬さと重さに変化し、地面に向かって一気に着弾する。


 そして、地面に着弾すると、再度上空に舞い上がり、また落ちる。

 ようは、空爆だ。


 ドン! ドン! ドン! 


「ギャーーーーー!!」

「グエ!!」


 鬼族の陣内では、衝撃音と悲鳴が鳴り響き、付近の鬼族は片っ端から吹っ飛ばされていく。



「敵襲!! 敵襲!!」


 陣内では鬼達が慌てながら、戦闘態勢に入った。

 鬼族達は、戦闘民族といわれるだけあって切り替えが早い。

 広範囲に散りながらメテオシュートの範囲から外れ始めてきた。


 奇襲を仕掛ける事で大部分を削れたが、それでもまだ半分は生き残っている。

 だが、これは想定内。


 ドーーン!!


 次の瞬間、今度は奇襲のあった逆方向からどでかい衝撃音が発生した。

 馬化したブライアンが全速力で駕籠に衝突し、駕籠を横転させたのだ。


「ええーい、次から次に! 何者か! 出てきて正々堂々と勝負せい!」


 いら立ったチョンマゲ指揮官は叫ぶ。

 衝突音を聞いた俺は、更に散り散りとなった鬼を狙って攻撃を仕掛ける。


「ドリブースト!!」


 俺はバスケットボールを地面に強くつき、ドリブルを始めた。

 やっている事は、ただのドリブルのように見えるが、ボールが地面にバウンドすると、質量のあるボールの反発で爆発的に加速する。

 その瞬間速度はブライアンの全速力をもってしても全く追いつくことができない速さとなった。


 俺のバスケットボールのテクニックと能力があって、初めて成し得る技である。

 だが、そのままの勢いで突っ込めば当然自爆してしまうし、ブライアンのように無傷とはならない。


 だからドリブルチェンジをして、敵との衝突を躱す。

 そして更に躱す際に、


「ロールターンボム!!」


という、体を翻しながらボールを相手に叩き込む必殺技で各個撃破をしていくのだった。


 ロールターンボムとは、鋼鉄のボールをラリアットでぶつけるような技である。

 これも俺が特訓で編み出した対人戦における必殺技の一つだった。

 流石の鬼族も、覚醒した俺の超速についていくことができない。


  だがしかし、チョンマゲ指揮官は優秀だった。


「奴は直線の動きしかできないぞ! 集団で壁になってぶつかれ! そうすれば奴は止まる!」


 俺の動きを見て、一瞬でその法則を看破し、適格な指揮をとる。

 鬼達は横列になって、俺の進行方向を抑えようとした。


「奴がぶつかって止まったら、一斉に袋叩きにしろ!」


 チョンマゲ鬼はそう叫ぶが、うまくいかない。

 確かに俺だけであれば、線に対して面で対抗すれば止めることはできる。


 だが、ぶつかっても決して止まることがなく、逆に吹き飛ばすことができるもう一つの線があった。

 俺の直線上にまとまる鬼族であったが、その後方から凄い勢いで何かが迫ってくる!


「オラオラオラオラ!!」


 その名も暴走特急ブライアン。


「なに!? なんだあれは? 化け物か!!」


 暗闇の中、鬼族が燃やしているかがり火の光で見えるのは、ブライアンの生首だった。

 アゴが3つに割れた生首が、もの凄い勢いで近づいてくる。

 流石の鬼族達も恐慌状態に陥った。


「ヒャーー! 生首だ! 化け物がくるぞ!」


 鬼達はせっかく集まって面になっていたが、一斉に逃げ出そうとする。

 しかし、ブライアンの速度の方が早かった。


 ドドーーーン!!


 一ヵ所に集まっていた鬼達は盛大に吹き飛んだが、それでもブライアンは止まらない。

 ブライアンは目に映る鬼族目掛けて、ひたすら突っ込んでいく。

 各地で、鬼族が上空に吹き飛ばされた。


「あれは……なんだ? まさか!? あれが噂の化け物馬族か!?」


 チョンマゲ指揮官は、何度か戦場でブライアンと遭遇している。


 馬族は鬼族と力が拮抗しているも、馬族の方が若干劣勢であった。

 しかし、戦闘の局面を覆すような飛びぬけて強い馬族がいた。


 そう、ブライアンである。


「けつアゴの悪魔……。いや、違うか。今いるあいつのアゴは三つに割れている。」


 本当は正解であったが、チョンマゲ指揮官はアゴの割れ目から別人だと考えた。


「くそ……馬族のアゴ割れは化け物か!」


 チョンマゲ指揮官は、このままだと軍が崩壊すると考え、駕籠の番人に命令する。


「相手は人族と馬族だ! 駕籠の人族を連れだせ! 人質にしろ!!」


 チョンマゲ指揮官が叫ぶも返事はない。

 なぜなら最初のブライアンアタックで、駕籠もろとも、赤鬼達は気絶していた。


「ええーい! 使えん奴らめ!」


 仕方なく自ら駕籠の下に行き、人族を連れ出して人質にしながら逃げる目算を考える。

 だがしかし、チョンマゲ指揮官が駕籠の中に入ってみると、そこは既にもぬけの殻であった。


「やってくれたな! くそ、逃げられたか。 まずいぞ。このままでは兄者に殺される!!」


「ニャーーーー!」


「猫? 今度はなんだ! 一体何が起きてるんだ! くそ! 大失態だ!!」


 チョンマゲ指揮官が大声をあげながら駕籠から出ると辺りは静かになっている。

 既に俺とブライアンは、その場から離脱し、残っていたのは30人位の鬼族と倒れ果てた同胞達だけであった……。


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