第19話 脱出

「それでいいニャ、もう時間ないニャ。扉から離れるニャ。」


   ドーーン!!


 アズがそう警告した瞬間、大きい衝撃音と共に駕籠が横転し、扉が破壊されて外に出れるようになった。


「きゃあああ!!」


 二人はいきなりの轟音と衝撃に、駕籠と一緒にひっくり返るがケガはない。


「それじゃ行くニャ! 走ってついて来るニャ。」


 二人は体を起こすと、すぐに立ち上がって駕籠の外に出た。


 ドン! ドン!! ドン! ドン!!


 規則正しく何かが落下する轟音が辺りに鳴り響く。

 外は既に暗くなっており、かがり火のお蔭で近くならギリギリ見えているが、遠くはほとんど見えない。

 

 外で何が起きているのかわからないが、とにかく急いで駕籠から脱出する。

 

  ムギュ

 

 駕籠から出たヒヨリンは何かを踏んだ。

 ヒヨリンは、反射的に自分が踏んだ物を見ると、駕籠を持っていた大柄の赤鬼の顔だった。


「キャア!!」


 びっくりしたヒヨリンは転びそうになるが、それをマリリンは受け止める。

 赤鬼は白目を剥いて気絶していた。


「ヒヨリンしっかりして、大丈夫気絶してるわ! 急いで猫ちゃんを追いかけるわよ。」


 駕籠の周りには赤鬼しかいなかったのもあり、誰にも気づかれることもなく、二人は鬼族の野営地から抜け出した。


「アズちゃん、どこに向かってるの?」


 マリリンは走りながら叫ぶ。


「このままついて来るニャ。そろそろニャ。」


「にゃーーーー!!」


 突然アズが大きな鳴き声を出す。

 すると、目の前を走っていたアズが消えた。


「え? 何? アズちゃんどこいったの!」


 二人は困惑しながらもアズが最後に見えたところまで走ると……


 二人は穴に落ちた。


「きゃあぁぁぁ!」


 二人は絶叫をあげて穴に落ちていく。

 そして二人が落ちると同時に、上の穴がふさがった。

 その穴はまっすぐ下に落ちると、すぐに傾斜が緩やかになり滑り台のように滑っていく。

 不思議な事に、壁はつるつるしていて摩擦を感じさせない。


 シューー!!


 滑り落ちていくマリリンとヒヨリン。


「ねぇマリリン、これいつまで滑るのかな?」


「私に聞いたってわからないわよ! 大分慣れたけど、これ早すぎない?」


 二人はジェットコースター並みのスピードで長い時間滑り落ちていった。


「ねぇ長すぎるよ! このまま地の底まで行ったらどうしよ? 出られないよ!!」


 ヒヨリンはさすがに不安になる。


「おばぁ様を信じるのよ! きっと大丈夫よ!!」


 マリリンも同じく不安であったが、ヒヨリンを不安にさせないために気丈に振舞う。

 すると、遠くに明かりが見えてきた。


「なんか見えてきたよ! あ! 猫ちゃん!」


 ヒヨリンはアズを発見する。


 シューー!!


 そして傾斜が更に緩くなっていくと、そのまま減速し、そして止まる。

 辺りを見渡すと、そこは松明が壁に設置された直径30メートル位の広間になっていた。


「やっと来たニャ、ここでしばらくシンを待つニャ。」


 アズは二人そうに告げると、その場で丸くなる。


「じゃあシンが来たら起こすニャ、もう眠いニャ。」


「ちょ! 待ってよ、アズちゃん! シンって言われても、私達会ったこともないからわからないわ!」


 マリリンの叫びが広場にコダマする。

 そんなマリリンをよそに、ヒヨリンは丸くなったアズに近づくと、アズを抱き上げた。


 「寝るなら一緒!」


 ヒヨリンは寝ているアズを抱き上げて、膝の上に丸くなったアズを置いて目を閉じた。


 その行動に茫然とするマリリン。


「もういいわよ! 私が起きてるわよ!」


 マリリンは意外に図太い神経を見せるヒヨリンを見て、不貞腐れながらもまだ見ぬシンを待つのだった。

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