第16話 帰ってきたバスケットマン

 一方その頃、大樹の下で待っていたブライアンはというと……。


「ごー、ろーく、なーな、よーん、お?よんの次はなんだったよバーロー……。」


 大樹の下では、両手で顔を隠しながら終わりのない10秒を数えているブライアンがいた。

 そして、いつまでも終わりそうもなかったので数を数えるのを諦める。


「おっしゃ、俺っちが秒で見つけてやんぜバーロー!」


 ブライアンは、顔を覆った両手を開けて気合を入れると、目の前にシンとアズが現れた。


「俺の桜アイスーー!!」


 丁度、元に世界に戻ってきた俺。


「お! 相棒とチビ助みっけ! やっぱ俺っち天才だぜバーロー。」


「あ、ブライアン。ただいま。」


 俺が現実に戻ると、ブライアンは異変に気付く。


「お? 相棒? なんかでかくなったか?」


 俺の体は前よりも筋肉量が数段アップしており、胸板も厚くなっている。

 この世界に戻った瞬間、肉体が精神体に馴染むように変化したのだ。


「確かになんか大きくなったかも。自分ではそこまでよくわからないけどな。」


「シンはパワーアップしたニャ。けど金髪にはなれなかったニャ。」


「やはり、怒りが足りなかったか……。ブライアンちょっと死んでくれ。」


「お? 俺っちが隠れる番ってことか?」


 ブライアンは今度こそ自分の力を見せつけようとやる気満々であった。


「すまんブライアン、かくれんぼは終わりだ。俺の負けでいいよ。これ以上遅くなると暗くなるし、目的も果たせたから家に帰ろう。」


「お? かくれんぼはおしまいか? まぁいっか。そういえば洞窟はいいのかバーロー?」


 ブライアンの切り替えは速い。


 そしてもう既に行っている事に、ブライアンは気づいていなかった。

 だがあえて説明はしない。

 何故なら、ブライアンには理解できないからだ。


「あぁ、それはもういいかな。んで、帰り道わかるのか?」


「にゃあは自信ないニャ。」


「俺っちは適当にまっすぐ進んで森を出たら、前は帰れたぜバーロー。」


 運ゲーかよ……。


 俺はどうにかこの嫌な思い出しかない森を最短で出ていきたかった。


「そうだ! 俺の新しい力で空から見渡せばいっか!」


 そう思い立つと、すぐさま思いっきり上空にジャンプする。


「おお! 相棒すげぇな。」


 上空にジャンプすると、森を抜けた先に藁ぶき屋根の家が集まっている場所を見つけた。


「あっちの方角か。しかしやっぱこの森でけぇなぁ……ん? なんだあれ? サムライ?」


 馬族の村と逆方向で、サムライのような和服のいで立ちをした者達が大名行列のように歩いているのを発見する。


「なんか籠みたいなの運んでるな、なんだありゃ?

まぁいっか、とりあえず戻ろっと。」


 俺は特に気にする事もなく、ゆっくりと地面に降り立った。


「村の方向がわかったぞ。あっちの方角だ。」


 俺は村が見えた方角を指し示す。


「やるな相棒。んじゃ行くぜバーロー。


 俺達は、村の方角に向かって歩きながら、さっき見た光景についてブライアンに聞いてみた。


「なぁさっきさ、サムライみたいな恰好した連中が籠をもって歩いてたんだけど、なんか知ってる?」


「お? サムライってなんだバーロー?」


「んー、和服って言ってもわからないか。なんていうかさ、一枚の長い布で覆ったような服装で、腰に剣みたいなもんをぶら下げてる恰好かな?」


 それを聞いたブライアンは突然立ち止まる。


「あ、ぶ。ちょっ! 急に止まるなよ!」


 ブライアンが急に止まったため、ブライアンの背中に俺の顔がぶつかった。

 そして振り返ったブライアンの顔を見て、俺は驚いた。


 眉間にはしわが寄り、馬なのに鬼の様な形相。

 ブライアンのこんな顔は見たことがない。

 明らかに怒っている。


「相棒……。本当に見たんだな? 籠を運んでいたんだな?」


 ブライアンは、珍しく低いドスの聞いたような声色で俺に聞いた。


「あ、あぁ…確かに見たよ。村とは逆方向に向かっていたけど……それがどうしたのか?」


「相棒……相棒が見たのは鬼族だ。その籠ってのは、どっかから攫ってきたやつを入れていて、鬼族の国に運んでるんだぜバーロ。」


 鬼族? 人さらい?


「なんだって!? 早く助けにいかなきゃ!」


「俺っちの仲間達も何人もあいつらに攫われたぜバーロー。んで、帰ってきた奴は一人もいねぇ。そいつらはどっちだ、相棒? 俺は、あいつらを許さねぇぜバーロー!」


 ブライアンは今にも走り出して向かおうとした。


「ちょっとまてよ。相手は500人位いるんだ。いきなり突っ込んでも返り討ちにあうかもしれないだろ。作戦を立てよう。」


「相棒……俺っちなら大丈夫だ。俺っち一人でやるぜバーロー!」


「ばかやろう!!」


 俺は大声で叫んだ。


「確かに俺は、今までなんの役にも立たなかったかもしれねぇ。けどな、大事な仲間を一人で危険な目に合わすなんてできねぇんだよ! 俺も一緒に行くにきまってんだろ!」


「お? 一緒に行ってくれるのか? 死ぬかもしれねぇぜバーロー?」


「やるだけやって、死んだら死んだだ。何もやらないで仲間が死ぬ方がよっぽど辛い!」


「相棒……ありがとよ。相棒が俺の相棒で俺っちは嬉しいぜ。」


 ブライアンは泣き始めてしまう。


「いいんだよ、ここまで来たら一蓮托生だ。絶対捕まっている人を助けようぜ。」


「おう! お? いちれんたくしょーってなんだ?」


 いい雰囲気は一瞬でぶち壊された。


「なぁ、俺たちがいきなり襲い掛かって奴らを撃退できてもさ、捕まっている人が殺されたら意味がないじゃん。だから、俺とブライアンで注意を引いている間にアズに救出をお願いするのはどうだ?」


 俺は簡単な作戦を立てる。


「任せろニャ、そこの馬面よりは上手にできるニャ」


「お? チビ助にそんな事ができるのかバーロー?」


「大丈夫だ、アズはこう見えてできるニャンコだ! 俺達よりうまく潜りこめるはずだ。」


「相棒がそういうなら信じるぜバーロー」


「おし、みんな無事に捕まった人たちを助けるぞ!!」

「おうよ!!」

「ニャア!!」


 こうして俺達は村に戻るのを中断し、人を攫っていると思われる鬼族のところに向かうのだった。

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