第15話 さらば、憩いの空間!

【24:00】


 果てしなく続く草原。

 そこにいる俺は、肩で息をしながら両手を膝につけ、息をあげていた。


「はぁはぁ……まじきつい。教官休ませて下さい!」


「OKニャ。やれることは全部やったニャ。残り1日は休憩ニャ。万全の体制で戻るニャ。」


「ふぃ~しんどかった。やっと終わったかぁ、鬼教官め……。」


 俺がアズと特訓を始めて間もなく1年が経過しようとしていた。

 何でも創造できるアズは、


  トレーニング器具

  仮想敵


から始まり、


  食事や飲み物

  娯楽品等


を創造していった。


 特訓は

 

  基礎訓練

  実践訓練


に分けて行われ、基礎訓練は


  身体訓練(ここでは精神体だが)

  能力訓練


の2種類であり、実践訓練はアズが創造した対戦相手(単体又は複数)との戦闘訓練であった。

 

 身体訓練は、体が能力に馴染むように


  ダッシュ

  ランニング

  筋力トレーニング


を中心に毎日行い、能力トレーニングは


  創造

  重力操作

  地形変化


をひたすら行うといったもの。


 身体訓練を毎日みっちりと1年間行った結果、俺の身体能力自体は当初の3倍から5倍まで伸びている。 

 今なら、この世界の他の種族にも負けないだけ力があった。


 能力トレーニングは精神的負担が大きく、かなり疲労したものであったが、使い続けることで能力行使の効率は格段に上がり、今では呼吸をするように能力を行使できるようになる。

 

 戦闘訓練では、最初は技の開発から始まるが、剣を使った技等は全く出来なかった。

 どうやら、俺に武器は使えないらしい。

 そして、結局はバスケットボールを使って戦うという摩訶不思議な戦闘技術を身につけることになる。

 

 だが、これが案外悪くない。

 むしろ、凄く強かった。

 そして、バスケの技術を応用した必殺技もいくつか編み出した。


 最後に、実践訓練だが、それは今まで俺が出会ってきた巨大蜘蛛やパンダやシロクマとの戦闘を


   対モンスター戦


とし、人型の剣士や銃器をもった人と戦う


   対人戦


と分けて行う。

 

 集団戦や一対一の戦いにも大分慣れた。

 当然、ブライアンも創造できるため、奴とも散々戦った。

 あいつが一番強敵だったわ……。

 特に乗馬はな……。


 こうして俺は、どうにかこの世界でただ食われるだけの存在から抜け出したのである。


  特訓を終えた俺達は、アズが創造で作った家の中へ入っていく。


「ただいまっと。」


 バッシュを脱いで家に入ると、さっそくソファで寛いだ。

 もうここは、慣れ親しんだ我が家同然である。


「いやぁ、終わってみればあっという間だったなぁ。アズ、俺は強くなれたか?」


「よく頑張ったニャ。シンにはシンにあった戦い方があるニャ。シンよりも強い存在はまだたくさんいるニャ。でも、すぐに殺される事はないと思うニャ。」


「でもなぁ……結局俺の武器ってボールでしょ? ちょっと想像と違ったなぁ。」


 俺はテーブルに置かれたクリームコーラをがぶ飲みする。


 ゴクっ! ゴクっ!


「ぷふぁぁ! 生き返るぜ!!」


「しょうがないにゃ、シンは剣や槍みたいな武器は下手すぎて使えないニャ。」


「それを言うなよ。まぁ、いきなり剣でぶっ殺せと言われても俺には無理だからいいけど。で、この後戻ったらどこ行く予定なんだ?」


「そうだニャ、鬼族の国にある火の輝石を取りにいこうと思ってるニャ。」


「鬼族かぁ……かなり野蛮な民族なんだろ? 大丈夫か? いきなり襲われたりしないか?」


「鬼族は戦闘民族ニャけど、自分より強い相手には敬意を持つニャ、今なら大丈夫ニャ。」


「本当かよ……まぁいざとなったら俺の必殺技でぶっ飛ばしてやればいっか。」


「そのいきニャ!」


「それより! 今は残り少ない快適空間での時間を後悔しないように遊ぶしかねぇな!」


「やるかニャ?」


「やるぜ! 今日こそクリアするぜ地球侵略軍5!」


 俺とアズはソファでコントローラーを手にし、プロステ4を起動させる。


「にゃあは怪獣使うから、シンは蟻使うニャ!」


「やだよ、なんで蟻なんだよ……。俺はやっと解放された蛙エイリアン使う予定なんだから。」


 地球侵略軍5……

 それはプロステーション4で発売されたゲームソフトで、プレイヤーが地球外生命体を操作し、地球を守る軍隊を倒していくゲームである。

 

 俺とアズは、休憩中ずっとこのゲームにハマっていた。


 【0:30】


「おっしゃクリア! 地球制圧! イエーイ!」


「やったニャ! イエーイニャ!!」


 俺とアズはハイタッチする。


「おっし、じゃあこの快適空間に思い残すことはねぇ! さっそく嫁探しに行くぜ!」


「やる気満々だニャ!」


 俺はまだこの空間で遊びたい気持ちが残っていたが、どっちみち消滅する世界。

 やれることはやりつくしたと自分に言い聞かせていた……はずだったが。


「アズ……最後のお願いだ。アイスを出してくれないか?」


「まだ未練バリバリニャ。相変わらず女々しいニャ。でもイイニャ、食べるニャ。」


 そういうと、アズはダーティーワンーのアイスクリーム店そのものを創造した。


「お前……分かってるな。最高だぜ相棒!!」


 興奮して、ちょっとブライアンがうつってしまう。


「当然ニャ、大盤振る舞いニャ。後、馬面と一緒にするニャ!」


 俺は店の中のアイスを次々と皿によそっては、がむしゃらに食べ続けた。


「ほれ、アズはバニラと濃厚ミルクな!」


 アズ用にアイスをよそって床に置くと、アズはそれをぺろぺろ舐めて食べ始めた。


「ミャー! うまいニャ。 ニャーー!」


「うめぇなぁ……全部の味を食べる俺の夢がだったんだ……。」


 こんなところで小さな夢が叶った俺。


 感動した!!


 そして二人はまるでアイス早食い競争のように1秒も無駄にはせん!


という勢いで食べ続けた。


 【0:00】


「くぅー! うめぇ! お? ちょま! 後2分まってぇ……桜味がまだ……あああ!!」


「時間ニャ……諦めるにゃ。」


 アイスを堪能していた俺の体が透明になっていく。


「サクラ味――!!」


 チュートリアルの世界にその悲痛な叫びが響き渡ると、全て消えていくのだった。

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