第4話 相棒って?

 ゴン!!


 突然、家の入り口から男のダミ声が聞こえると、何かがぶつかった音が響く。


「痛ッ!!」


 俺は音がした入り口を振り向くと、扉に変な物体が生えているを発見した。


「ん? ケツ??」


 その物体が何なのか考えていると、今度はハッキリとそのケツから声が聞こえる。


「いてぇなバーロー! ババァ、この入り口低いんだよバーロー!」


 そして入り口から見えていた謎のお尻が、その全貌をゆっくり現した。

 

 !?


「け……ケツアゴ。キショ……。」


 その声の正体は、身長2メートルくらいある、立派なケツアゴを装備したモヒカンの男だった。

 その男は痛そうに頭をさすると、そこにいたシンに気付く。


「お? お? お前誰だ? 何でここにいるんだバーロー?」


「初めまして、私はシンと言います。スズカさんのご厚意で本日泊めていただくことになりました、よろしくお願いします。」


 初対面なのもあるので、俺は丁寧な挨拶をする。


「おう、俺っちはブライアンだバーロー、よろしくな相棒!」


「あ、相棒? よくわからないけどよろしくお願いします。」


 そして、俺は重大な事に気付く。

 馬族とはスズカさんのように、顔が馬で体が人間なはず。

 しかし、このブライアンという男は、顔が馬ではないのだ……ギリギリ。


 目は離れてるがこいつの容姿はギリ人間よりだな。 

 これがハーフってやつか?


 俺はブライアンの容姿からそう推察した。

 だがしかし、まだ問題がある。

 そう、あの立派なアゴだ……。

 これも馬族の特性なのかな?

 どうでもいいが気になる。


 俺は不本意にも、自然にブライアンのけつアゴばかり見ていると、ブライアンが照れ始めた。


「おうおう、いくら俺っちがイケメンだからってそんなに見つめられると照れるぜ。」


 なんか勘違いしておられる。


「いや、立派なアゴですね……。」


 戸惑いながらも、俺がそう言うと


「アゴ? そうかぁ? 普通だと思うが、そんなに褒められると照れるぜバーロー。」


 ブライアンはなぜか喜んだ。

 俺には意味がわからない……。


 褒めたつもりはないんだが……。

 いや今のセリフは褒めてるのか?


「ところでブライアンは、馬族と人族のハーフですか?」


 何気ないこの言葉に、ブライアンは急に不機嫌そうな顔になった。


 あれ? 

 もしかしてハーフって気にしてたかな……。

 まずいなぁ、やっちまったか?

 

 俺は気づかぬ内にブライアンの地雷を踏んだと思い焦るが、それは見当違いであった。


「おう相棒、一度しか言わねぇぜ、丁寧なしゃべり方はやめてくれ、アゴがムズムズするぜ。俺っちはハーフじゃねぇ。親父がハーフでお袋が人間だから……お? おう! ハーフ&ハーフだバーロー!!」


「お前はピザか! それはクオーターだ。」


 流石に初対面の俺も、これにはつっこんでしまった。


「おお! 相棒頭いいのな! そうか、くおーたーか、そうだなクオーター……クオーターってなんだ?」


 ダメだ……。

 こいつと話すの疲れるわ。

 無駄にテンション高いし。


 俺は異世界コミュニケーションの難しさを痛感していた。

 いや、ブライアンコミュニケーションに。


「あれ? ってことはお父さんとお母さんはまだ帰ってきてないのか?」


「おう、親父は鬼族の侵攻で俺っちを庇って死んじまったし、お袋は俺を生んで死んだから見たことねぇぜ。」


 突然の悲劇の告白。

 これは流石に焦る。


 あ、やば……。

 今度こそ地雷踏んだかも。

 悪い事を聞いちまったな。


 俺は下を向き、申し訳なさそうにする。


「すまない、悪い事を聞いちまった……。」


「お? なんでだバーロー。悪くねぇぞ、親父もお袋もいねぇけど、俺っちにはババァがいっからな! さみしくもねぇぜ。辛気臭ぇ顔すんなや相棒! 飯がまずくなるぜ! ほら沢山食えや相棒!!」


 こいつ意外といい奴なのかもな。

 見てくれは完全に人外だけど……。

 つか飯まだ出てないし……バカなんだな。


 そんな会話を続けていると馬小屋の奥から声が聞こえてくる。


「おやおやまぁまぁ、ブライアン帰ったのね。さぁさ、ご飯の支度ができたからこっちにおいで。」


 丁度、ご飯の支度が出来たみたいだったので俺たちは食卓に向かう事にした。

 

 食卓といっても、ワラの上に大きな葉っぱが置いてあるだけの場所。

 そして、そこにあるのは…


 ニンジンしか入っていない鍋。

 ニンジンと謎の葉っぱのサラダ。

 色とりどりのニンジン本体。


 本日のディナーは、ニンジンのオンパレードだった。


「おう、ババァ、またニンジンかよ! 俺は馬じゃねぇんだぞ、たまには肉食わせろや!」


 いや、お前どっちかというと馬寄りよ?


「ウマ、これウマ! ニンジン、ウマ!!」


 文句を言いながらも、ブライアンは人参を手に取ると、凄い勢いで食べ始めるのだった……。


 こいつの思考回路が全くわかんねぇ!


「おう、相棒! ぼけっとすんなや! 飯が無くなんぜバーロー!」


 いやいや、お前が言うなよ。

 しかしまぁ、何となく予想はしてたけどさ。

 まさかニンジンがそのまま出てくるとは……。

 あんまニンジン好きじゃないんだよなぁ。


 しかし、アズは普通に食ってる。

 仕方ない、俺も頂くとするか。


 俺はやっと食べる事を決意すると、勇気をだしてニンジンを一本手に取り、そのままかじりついた。


  シャリ……


「え? 何これ、美味いぞ!!」


 出されたニンジンは今まで食べていた物とは全く違い、しゃりしゃりしていて、味はリンゴに近かった。

 スズカさんは、ニンジンを美味しそうに食べる俺を見て、嬉しそうに微笑む、

 実際には馬の表情がわからないため、微笑んでいるように感じただが。


「おやおやまぁまぁ、お口に合ったようでよかったですじゃ、そのニンゴだけで無く、こっちのバナジンも召し上がりなされ」


 ニンゴ?

 バナジンって、うがい薬かよ!


 スズカさんは、黄色い人参をシンに手渡した。

 今度は戸惑うことなく、それを受け取ると徐に口に入れる。


  !?


「んんん! やわらか! しかも甘いぞ!」


 思いもよらぬ美味に舌鼓を打つ。

 バナジンはとても柔らかく、甘く、そう……


 完全にバナナだよこれ。

 完熟バナナだよ!


 勢いづいた俺は他の人参達にも興味が湧き、色とりどりの人参を貪るように食べていく。

 どれも美味しくて感動した。


「こんな上手いニンジン食べた事ないや!」


 俺が感動の声を上げていると、スズカさんは嬉しそうに話す。


「ヒヒヒーン、そいつは何よりですじゃ。こんな賑やかな食事はいつぶりじゃのぅ、ブライアンも友達ができてよかったのぅ」


「おうババァ、俺っちにいつ友達が出来たんだ?」


 …………。


 一瞬時が止まる。


 うん、流石にいきなり友達はないだろ。


「ババァ勘違いするなよバーロー。」


 ほらね。


「俺っちと相棒は、友達なんて安い関係じゃないぜバーロー、俺たちは心の友と書いて相棒って関係だぜバーロー」


 は?


「それシンユウって言うんじゃ……。それよりいつの間に俺はお前とそんな関係になったんだよ!!」


「おやおやまぁまぁ、そいつはよかったのじゃ、シンさんや、こんな馬鹿な孫だけど仲良くしてやっておくれ」


「あ、はい。ところでブライアンは何の仕事してるんですか?」


「お? お? 俺っちか? 俺っちはジエイタイっつう組織で働いてるんだ。俺っちはそこで隊長をやってるぜ! すげぇだろバーロー」


 ジエイタイ?

 自衛隊か?

 つまり軍隊の隊長って事か。

 いや、待てよ、こんな馬鹿に隊が纏められるものなのか??


「自衛隊って鬼族からの侵攻を守る部隊か何かか?」


「お? 相棒良くわかったな。やっぱり相棒は頭いいなバーロー、俺っちの次にな」


 おい、ふざけんな。

 お前のどこに知的な部分があったんだよ。


「しかし、隊長だと隊員の統率とか大変だろうな、ブライアンって凄いんだな。」


「お? 大変じゃないぞ、俺の部隊は俺だけだ! 最初は結構いたんだけど、なんか遺跡にいっちまって帰ってこねぇからな」


 シンは可哀想な目でブライアンを見つめる……。


 それって遺跡じゃなくて移籍じゃないの?

 そら、帰ってこないわな。


「それで相棒はこれからどうすんだ?は一緒に暮らすか? お?」


 それだけはやめてくれ!

 クオーターの美女と暮らすならまだしも、こいつとだけはない!


 ブライアンのとんでも発言を俺の心は拒絶する。


 普通さ、こういう異世界系って最初に会うのって大体美少女ヒロインじゃん。

 なんで俺、馬なの?

 こいつがヒロイン枠とかだったらもう俺のストーリーは打ち切りだ!

 どうにかしてくれ神!

 流石にこれは酷いぞ!


 俺が何とも言えない神への怒りに黙っていると、アズが会話に入ってきた。


「この村から離れたところにある大きな森かあるニャ。そこに洞窟があるニャ。まずはそこに行くニャ。」


 アズは自然の流れで今後の予定を説明するが、ブライアンにはどうやら理解できなかったようだ。


「お、ババァ。今日は珍しく粋がよさそうな飯があると思ったが、飯がなんか喋ってるぞ。もう食っていいか?」


 そういうと、ブライアンはアズの首根っこを掴み上げ口に持っていこうとした。


 こいつ……本気で食いにいってる。


 だが俺は、ブライアンの奇行を止めない。

 さっきの復讐だった。


「アズ……短い間だったけど楽しかったぜ、来世で会おうな。」


「ちょっとやめるニャ、早く助けるニャ!」


 アズは慌ててブライアンの顔を引っ掻きまくり、ブライアンの魔の手から逃れる。


「うお! イタ! イタタ! 元気いい飯だなバーロー!」


 逃げるアズ。

 追うブライアン。


 それをスズカさんが割って止めた。


「あらあらまぁまぁ、ブライアンや、よしなさい。精霊様に失礼じゃよ。ほんに、すまない事をしてしまったじゃ。ほら、ブライアンもちゃんと謝りなさい!」


「お? なんだ、飯じゃなかったのか。悪かったなチビ助」


 ブライアンはやっとアズが晩餐ではなくて、客人だと気付く。


「にゃあはチビ助じゃないニャ、アズニャ! この馬鹿面、次やったらその顎引っ掻いて3つにしてやるニャ、覚悟するニャ。シンは後でお仕置きニャ!」


 アズはプンプンと怒っているが、後にこの怒りはとある復讐をする事で解消する事となる。


「すまないアズ、あまりにお前が可愛いから見惚れてた。許してくれ。でも面白いから、ブライアンの顎は三つに割って欲しい。」


 俺は白々しく謝罪をしつつも、真剣な眼差しでそう言った。

 そして、何とも賑やかな晩餐が終わると、馬族の就寝は早く、みんな寝る準備に入ったのだった。

 俺は、今日という不思議な一日を振り返り、今後について色々考える。


 そうか次は洞窟かぁ、そこ行けば強くなれるのかな?

 やっと冒険っぽくなりそうだなぁ。

 アズも飯食ったらすぐ寝ちまったし、詳しい事は明日聞くか、もう眠いや……。


 俺は、そのまま睡魔に襲われてワラの上で寝たのだった。



 夜も更ける深夜。

 その闇の中で動く者がいた。


「グオーー! お? イテ! グオー!」


 ブライアンのイビキに異変が……。


そして数時間後


 俺が寝返りを打ち、何かにぶつかった感触で目を開けると


 そこには三つに割れた顎があるのだった……


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