第3話 勇者!?

 俺達が辿り着いた馬族の村は、見渡す限り牧草地帯となっていて、ポツポツと藁葺き屋根の家が建ち並んでいる場所だった。


 何というか凄いのどかだ。

 だが、それよりも……。


「なぁ、馬族ってみんなあんな姿なの?」


 俺は改めて、ここが今までの地球と違うという事を感じている。


「そうニャ、純血の馬族は顔が馬ニャ。人間とハーフの馬族は人間に近い顔をしてるニャよ。そろそろ夜ニャ、あの馬族のおばぁちゃんに頼んで泊めてもらうニャ!」


「は? おばぁちゃんなの? 見分けつかねえ〜。」


「慣れれば、すぐわかるようになるニャ。」


 慣れてわかるものなのか?

 つか、それよりも……


「俺見知らぬ人間よ? 人族よ? いきなり泊めてもらえるかな?」


 いきなり見ず知らずの未確認生物に話しかける勇気は、俺にはない。


「問題ないニャ、馬族と人族は仲が良いニャ。ハーフやクォーターもいるニャ。」


「へぇ〜、そうなのか。てっきり俺は貴族と馬族が仲悪いのかと思ってたよ。」


「キゾクと馬族の仲は最悪ニャ! 一触即発ニャ。」


「え?ごめん、わけわからないわ……。なぁ貴族ってどんな人間なの? 悪徳貴族??」


「キゾクは鬼ニャ、ゴブリンやオーガだニャ。鬼族の国は力が全てで、力があればやりたい放題できるニャ。だからいつも周りの国と争ってばかりいるニャ。」


 ゲゲ! 何だよその国……。

 正に世紀末じゃないか!

 出会って3秒で殺されてしまうわ!


 俺は最初のエンカウントが鬼族でないことにホッとした。


「そんな事より早く声かけるニャ! 飯の確保にゃ!」


 アズは小さい前足で俺の足を叩いて催促する。 


 でもサァ、やっぱサァ、いくら温厚って聞いても怖いわけですよ? 

 想像してみてよ、いきなり馬人間に声をかけるわけよ?

 気さくな俺でもハードル高いわ!

 でも、やるしかないか……。


 俺はついに声をかける事を決心する。


「よし! 行くぞ! 今行く! さぁ行く! 行っちまうよ! 行くと決めた5秒前!4・3・2・1……決めただけで、行くのはこれから!」


 エンドレスな掛け声を続けるだけ続けて、一向に動こうとしない俺。


「いい加減ウザいニャ! 早く行けニャ! チキンニャロー!」


 痺れを切らしたアズは、遂に前足の肉キュウで俺を突き飛ば した。


 ドーーーン!!


「うぉーー!!」


 背中を勢い良く突き飛ばされた俺は、吹っ飛んだ。

 あの小さな体になぜこんな力が……。


 吹っ飛ばされた俺は、見事に着地出来ずに、馬族の方へ丸まりながらゴロゴロと転がっていく……。



 俺は転がりながら馬族の近くで止まると、頭に小さな星マークがたくさん浮かんでいた。


 正にピヨピヨ状態。


 しばらくして目の焦点が合い始めると、俺の目の前に馬の顔がドアップで映る。


「おやおやまぁまぁ、こんなところに珍しいじゃ。ダンゴ虫族かね?」


 そこにいた馬族は、丸まっている俺に近づくと、顔を俺に近づけていた。


 !?


「うぁーー! ちょちょ、待って! 食べないで下さい! 美味しくないです。美味しい猫はありますからそれで勘弁して下さい!」


 俺はいきなりドアップな馬面の接近で混乱した。

 そして、アズを生贄に差し出して生き延びようと命乞いを始める。


「ヒヒーン、おやおやまぁまぁ、そんな怖がらないでおくれよ、あたしゃ草やにんじんしか食べないよ。変な格好してるけど、人族のようだねぇ。だんご虫族なんて言って悪かったねぇ。とりあえず、家に上がりなさないな、あたしは晩ご飯のニンジン抜いたら戻るさね。」


 おばぁさん声の馬族は、それだけ言うとゆっくりと歩いて離れていく。

 俺は若干放心状態になるも、とりあえず身の危険が無いことに安心した。

 そしてビビりながらも、その優しそうな声を信じて家の中に入る事にした。


 

俺はそろーりと家の中に入ると、予想通りではあったが中を見て戸惑う。


「なんつうかこれ、まんま馬小屋だな……。」


 そこは床一面にワラが敷き詰められた簡素な家であり、調度品等も見当たらない。

 とりあえずワラの上に座る事にするとシンの後ろから突然声がする。


「だから平気だって言ったニャ、随分アクロバティックな挨拶だったニャ。」


 アズだった。


「アズ、いつのまに! つかアズのせいだろ! 心臓止まるかと思ったわ!」


「でもすぐにニャアを売り渡そうとしてたニャ、幻滅ニャ。」


「それは……えっと、まぁいいやお互い無事でよかった。」


 痛いところをつかれて、後ろめたい気持ちで誤魔化していると、馬族のおばぁちゃんが入ってきた。


「おやおやまぁまぁ、人族だけでなく、精霊様も一緒かい。今日は珍しいお客が沢山来ることじゃ。」


「精霊? 猫族じゃなくて?」


 俺は、なぜこの猫型の自称神の使い(笑)を精霊と思ったのか尋ねてみると、すぐに答えが返ってきた。


「猫族はもっと大きいじゃよ、それにその神々しい姿は精霊様に間違いないですじゃ。何年ぶりじゃのぅ、まぁともかく孫もまだ帰ってきてないから、ゆっくりするといいのじゃ。すぐにご飯の支度するからのぅ。ヒーッヒヒ……ヒヒーン。」


…………。


 そのヒヒーンってのは笑ってるのか?

 表情がまるでわからねぇ。

 つか猫族もいるんか。


 まだ馬族の表情はわからないが、好意的なのはわかる。


「初対面なのにありがとうございます。私の名前はシンといいます。この猫型生物はアズです、よろしくお願いします。」


「猫型生物とは心外ニャ! 神の使いニャ!」


 何が神の使いだ!

 青色の猫型ロボットの方が100倍使えるわ!


「あたしはスズカですじゃ。昔はサイレントスズカの名で一目置かれていましたじゃ。見たところ、シン殿は人族の勇者のようじゃのぅ、その輝く黄色のパンツといい、汚れなき真っ白なシャツといい…」


 !!?


 ゆ、勇者だと?

 やっぱり俺は勇者なのか!?

 ふふふ、勇者ねぇ……俺が勇者か。


 なんか色々知ってそうなこの世界の住人に勇者と言われて、俺は浮かれ始めた。


「バレてしまいましたか……そうです。私こそ勇者シンです。勇者だからって気を使わなくていいですからね!」


 キリッ!


 勇者と言われて気が良くなった俺は、調子に乗って勇者を自称する。


「おやおやまぁまぁ、冗談で言ってみただけなんじゃが、ほんとに勇者じゃとは……。」


 え? 冗談?

 伝承で伝わってるとかじゃないの?


 馬族のギャグセンスを理解するには、経験値が足りてなかった。

 俺の妄想はやはり勘違いである。


「こんなチキンが勇者なわけないニャ、ただの雑魚ニャ」


「ちょっとぉ! 言い方! つか、勇者とかそういう設定あるの? 勇者とかいるの?」


 やはり勇者の存在が気になる。


「いると言えばいるニャ! 結構いるニャ!」


「え? そんなに勇者いるの? マジで?」


 俺は事実に驚愕する。


「人族には容姿が悪いのに、アイドルに玉砕覚悟で告白する奴がいるニャ。それが勇者と呼ばれてるニャ!」


 あほか!


「その勇者は違うだろ! ある意味勇者なのはわかるが……。って、そうじゃなくて。勇者って言えば圧倒的な力を持ち、魔法や剣を駆使してバッタバッタと敵を倒す英雄だろ。」


「おやおやまぁまぁ、勇者でも何でも、あたしは構わないですじゃ。そろそろ孫も帰ってくるから、ご飯の支度に戻るかのぅ。」


 俺達の漫才を見ていたスズカさんは、それだけ言うと奥に消えていく。


「しっかしまぁ、今日は驚く事ばかりだな。流石に今日はもうこれ以上驚く事はないだろう。」


 その時だった。


「おうババァ、今帰ったぞ!!」


 でかいダミ声が入口から聞こえてくる。

 この後俺は、今日1日で一番驚く事になるのだった……。

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