24

24歳。社会人2年目。


北関東での契約社員の生活に焦りを感じて、

東京版のタウンワークを読み漁った。

見つけた入れそうなところに履歴書を送った。

何のご縁か、東京タワーの近くにある大学の事務職として採用されて、もうすぐ1年が経つ。


1年といえば、同じく

もうすぐ1年になる彼氏がいる。


大学3年生、でも浪人しているから歳は2個違い。

周りの友達には、「将来有望だね」、なんて言われた。

私の人生設計は狂ってしまっていたのに。


若いママになるのが、ずっと持っていた夢だった。

自分が小さい時、「若いお母さんだね」と褒められるのが嬉しかった。

だから母が私と産んだ時と同じように、24で子供が欲しかった。20代前半には結婚をしていたかった。


中学、高校と憧れの生活をするために必死で勉強をした。割と名前のある大学にも入学した。

私の人生は、山もあったが、割と順風満帆だと思っていた。

でも大学に入って気づいた。

大学に入ると若いママにはなれないんだな。と。


叶えられなかった夢を別の方法で上書きしようと試みた。大学に入ったのだから、大学というフィールドで夢を叶えようとたくさん単位をとった。ボランティア活動にも参加したし、よくわからない学会に聴講に行った。バイトだって入れた。

そんなふうに、休む暇もなく忙しく何かをしていることが自分の存在証明だと思った。

そして忙しくしている間は、不安も寂しさも焦りも何も考えなくってよかった。

そんなことをしていたから、きっと燃え尽きたんだろう。

就職活動は、大学4年生の1月にやっとはじめた。

そもそも長年の夢が破れてしまったのだ。

新たに何になりたいか、私にはわからなかった。

そんな私を見かねた学務の人が、「大学で事務を募集しているから、年度契約だけどどうかな?」と声をかけてきた。

引越しもめんどくさかったし、こうやって声をかけるということは人がいないから、八割方採用してもらえるんだろうなと甘い考えで面接を受けた。結果はもちろん採用だった。


仕事は楽しかった。でも契約社員の身分を憂う周りの声が嫌だった。

私はずっとふらふらしていた。

それは人間関係もだ。


私を現実に戻したのは、実家からのSOSだった。

家族の1人が体を壊したのだ。

私もちゃんとしなくては、

そう思ってタウンワークを読み漁った。

現職場の採用面接以来着ていなかったスーツは、

なぜか穴が空いていた。

10社くらいに履歴書を送った。

就活という就活をせず社会人になった私は、正しい履歴書の書き方はわからなかったが5社から面接の案内が来た。

4社目を受けた次の日に、3つめに受けた大学から内定をもらい、5社目の面接は行かなかった。


職が決まると、人間関係を整理した。

付き合うでもなくだらだらつるんでいた男の子とは、

彼氏を作ることで縁を切ろうとした。

彼氏ができれば、きっと親も安心するし

一石二鳥だろう。その時はそう思っていた。

結局付き合うまでには半年かかり、東京への引越しのときは荷物置きとして使わせてもらった。


春になり、新しい職場での仕事がはじまった。

そして、彼氏ができた。

慣れないことばかりで、あっという間に夏が来た。

夏が来て、私は24歳になった。

親が私を産んだ年齢。

来年にはアラサー突入。

あまり意識しないようにしていたが、いざ年を迎えると少し焦る。

SNSでも結婚報告や妊娠の報告を見るようになっていたし、

誕生日を迎えた友達が口々にアラサーになってしまうと呟くことも私を焦らせた。

でも、私も彼氏ができたし子供は無理でも30までには結婚できるだろう。そう呑気に考えていた。


2022年2月24日。

ロシアがウクライナに侵攻した。


なんとなく人々の頭に第三次世界大戦の文字が浮かぶ。

高校の世界史の授業が頭を流れる。

北方領土、尖閣諸島、、、そんな名前がSNSのトレンドに入る。


この国は大丈夫なんだろうか。

明るい午後の日差し、それが核の光に変わってしまうことはないのだろうか。

この国が巻き込まれたとき私はどこへ行けばいいんだろう。

私は泳げない、船なんて出してくれるんだろうか。

船が標的になるかもしれない。じゃあ、ここに留まり続けるしかないのだろうか。

「30までに結婚したい。」が「結婚できるまで生きていられるだろうか」になった。

私はアラサーを迎えられるんだろうか。


東京で1人で死にたくない。

最後は好きな人の腕の中で死にたい。

どうして、世の中はこんな焦ってないんだろう。

どうして明日も仕事なんだろう。

日当たりの悪い、どこか薄暗いコンクリートに埋れて死ぬのは嫌。

仕事がなくならないかな。

でもね、君には世の中がこんな焦ってるってことバレてほしくないんだ。

だって、世の中が慌ただしくなったら君は親御さんのとこに行くだろうから。

多分私も家族の元に行かざるを得ないだろうし。

だから、焦るのは東京の私の周りだけ。

君はいつもみたいに、

「あれ?今日来る日だっけ?」

そんなふうに明るく言ってくれればいいから。


明日世界が終わるかもしれない。

好きなものを食べて、好きな人といたい。


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