赤とんぼ
胡瓜。
赤とんぼ
「赤とんぼって知ってる?」
お姉ちゃんが遠くを見ながら僕に聞いた。
視線の先にはゆっくりと沈み行く赤々と燃える日があった。
町は半分が影に包まれ、僕らのいる丘も瞬く間に飲み込まれるだろう。
「子守唄の?」
「そう、歌える?」
「夕焼け小焼けの赤とんぼ、だったっけ」
「そうそう、それって子守唄なんだって。その割に寂しい歌よね」
「そうだね。あんまり考えたことなかったけど」
「あれって、私と君みたいな関係の歌だよね」
お姉ちゃんは少しためらうように言った。
「関係? そうかなぁ」
お姉ちゃんは実の姉では無い。
僕が幼稚園にいる頃に僕の世話係として僕の家に迎えられた。
正直、僕の家の待遇はあまり良いものではなかった。
他の使用人のおばさんには影でいじめられているようだし、
高校にも行かせて貰えなかったみたいだ。小学生の僕にはわからないけど
きっと、相当な苦労をしているんだろなと思う。
けど、お姉ちゃんは僕に当たる事なく常に優しくしてくれた。
僕にとっては本当のお姉ちゃんだ。
影がお姉ちゃんの足を掴む。
気づけば寒くなってきた。
「お姉ちゃんそろそろ帰ろう」
「行けない」
お姉ちゃんは俯いたまま立ち上がらない。
「どうしたの」
「帰れなくなったの、今日でお別れ」
「そんな話聞いてないよ。帰ろう」
僕はお姉ちゃんの腕に触れると振り払われた。
「駄目、私は帰れない」
「お父様を殺したの。乱暴されて、抵抗したら………」
「えっ」
お父さんをころした? 乱暴? 帰れない?
何を言ってるか分からない。目の前が真っ暗になった。
寒くて、暗くて、怖くなった。
「大丈夫だよ、お父さんは死んでないよ。何か勘違いしたんだよね」
お姉ちゃんは振り返らずに首を横に振った。
「謝ろう、きっと生きてるよ」
今度は遠慮なく腕を引く。振り向いたお姉ちゃんの目には
涙が滲んでいた。
「ごめんね」
日が落ちた。
赤とんぼ 胡瓜。 @kyuuri-no-uekibachi
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