第27話 移動日2日目

 いつもだったら人よりも早く起きることなどほとんどない俺が今日は他の人より早く起きた。寝る時はすんなり寝れたのだが、外での睡眠は全く慣れていないので地面の硬さ、テントの薄さ、自然の風などのあらゆるものに邪魔をされて早く起きてしまった。


「、、、ん?4時半か、、」


 

 もう一度寝付こうとしたのだが少しずつ日が昇ってきていたのと、寝心地の悪い寝袋のことを考えると、その考えは一瞬で消え去った。



「そういえば、ルナ姉は寝てる時に何もしてこなかったな。この世界に来てから1番接しやすい人かもしれないな。いや、実際全く気は使ってないけど。」




 そんなことを考えながら水分補給をして、俺は瞑想を始めた。

 寝心地はあまり良くなかったけど、自然の中だと瞑想時はかなり落ち着く。とても気持ちがいい。



 そうして瞑想を終えると時計の針は5時15分を指していた。まだ続けるか悩んだけど少し身体を動かしたいという気持ちが少しだけあったので俺は外に出た。

 すると、外には既に2人の人影があった。こちらからは誰か分からなかったけど俺は挨拶をしに行くことにした。



「おはようございます、朝早いですね。」


  

 そう言うと2人はこちらを振り向いた。1人はサラだった。もう1人は、、、誰だっけ?こんなエルフみたいな人いたっけ?

 そう思っているとこちらの思考を読んだように返事してきた。


「おはようございます、えっと、、、ローラン君。私はアンジュ、ファン・アンジュと言います。昨日は自己紹介できなくてごめんなさい。あまり人が多くいるところに行くのが苦手でして、、、」


 なるほど、俺が見覚えないわけだ。それにしても見た目若いな、、、

 気になったので俺は聞いてみることにした。



「アンジュさんってエルフっぽくてとても若々しく見えるんですけど、何歳なんですか?」

 流石に9歳の素朴な疑問に嘘はつかないだろう、、知らんけど



「私は今年で16になります。エルフっぽいって言ってた通り、私はエルフです。」


 あっ、マジなやつですか。それに16って若いな、、、俺9か、、それよりも16だったら今学校あるんじゃないんですかね?

 そう思ったので俺はアンジュに聞いてみた。



「16歳だったら学校はないんですか?」

「ありますあります。面倒だったので抜けてきました。」

「それ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫です!、、、多分。」

「あははは、、、」


 はい、それ絶対ダメなヤツ。まぁ、そんなことはどうでもいいけどね。というか、挨拶済んだし戻ろっかなぁ、、


 そう思っていたところサラに声をかけられた。


「今から2人でスパーリングやるところだったんだけどローラン君もやらない?」

「僕が、、、ですか。」

「そう、僕がです。」


 まぁ確かに身体を動かそうとは思ってたけど、、、良い機会だしやっとくか。


「それじゃあ、ご一緒します。」



 そう言って俺は2人のスパーリングに混ざった。

 今更だけど、俺の知ってるエルフってあんまり他の種族と馴染まないイメージあるんだけど、そのところ大丈夫なんだろうか?まあ、いまこうやってコンタクト取れてるから大丈夫か。


 そんなことを思いつつ準備をした。



「あれ?ローラン君、刀はいいの?」

「素手でもやっておきたいので。」

「そうなんだ、じゃあルールを説明するよ。」


 そう言ってサラはルールの説明をした。1vs1vs1で半径10メートルの円から出たら負け、過度なアタックも負け、リング内で倒れても負けというシンプルなルールだった。



「この距離、かなり肉弾戦有利じゃないですか?アンジュさんも思いますよね?」

「いや、私は魔法より身体を動かす方が得意だから、、」

「アッ、ソウデスカ」


 俺だけに不利なルール、、、まぁいいや。


 

「それじゃあ始めるよ、、よーいスタート。」


 そうサラかなり言ってスタートとした。なんかさっきの説明聞いてる感じだとスパーリングっていうよりただの遊び感あるけど、、



 そんなことを考えていると2人同時に俺の方に向かってきた。

 マジかよ、、普通は気が引けてこっちに来ないだろ。


 

 俺はサラの方に向かって走り出し、右に行くフェイクをかけてから左に避けたが、普通について来たので俺は一度止まり反対側から来るアンジュを待った。


 そのコンマ数秒後アンジュが俺の背後を取ったことを確認して俺はサラの方にもう一度向かう行動を開始した。

 その瞬間にアンジュが俺の右の横腹付近に蹴りを繰り出して来たので、蹴りの方向とは逆方向に蹴りを受け流しながら避け背後を取り返した。


「!、今の避けるの」


 アンジュがそう驚いているうちに次はサラがアンジュに連撃を繰り広げた。しかしアンジュは体勢を崩す事なくサラの連撃を全て躱した。


 うっわぁ、今の避けるの!この2人レベル高過ぎんだろ。


 そう思いつつも俺は2人同時に反撃を開始した。俺は自分の周りにだけ風魔法で防御壁を作り、その外側を水と火魔法の組み合わせで水蒸気を作り出し続けた。



「これって水蒸気、、?」

「目に見える効果は全くないけどストレス溜まるね。」


 そう、俺は相手の意識を逸らすために作り出した。ハッキリ言ってこの2人が本気でかかれば俺は10秒も耐え凌げないだろうから相手の意識を逸らすことを優先させた。


「その間に浮遊っと、、、」



 そうしようと飛んだ瞬間にアンジュに左足を掴まれた。


「ヤバっ!」


 アンジュは掴んだ俺をリング外に飛ばそうとしたが横から既にサラが2人まとめてリング外へと飛ばそうとしてるくらい勢いよく蹴りのテイクバックに入っていたためアンジュは俺の足を離し回避した。


「今のは2人まとめてリング外に出せると思ったんだけど。」

「サラさんの今のはテイクバックが少し大き過ぎです。」

「、、やっぱりそうだった?」


 サラとアンジュはそんな雑談をしながらお互いにまた怒涛の攻防が始まった。



「僕を忘れてもらっては困りますよ。」


 俺はそう言って土魔法でリング内の地面を凸凹にした。


「うわっ!」

「昨日も思ってたけど、嫌な手を使ってくるね。」

「それはどうも!」


 俺はそう言った後に2人の足下の土を一気に突出させて吹き飛ばそうと思ったが2人とも難なく対処した。

 

 



 そうしてそんな感じの攻防が15分間ずっと続いた。最初にダウンしたのは俺だった。


「もう、、、、無理、、、動けない。」


 俺はスタミナが切れたとこを2人に狙われてリングアウトした。その後、ギリギリの攻防に終止符を打ったのがサラだった。サラ曰くずっとギリギリを演出していたそうだ。


「サラさん、、今の、、ずっと、、私に、、合わせてたんですか、、?」

「かなり息が切れてるね。私はあと3段階くらいは上げられたよ。」

「うそでしょ、、、」


 いや、本当に嘘だと言って欲しいくらいのスタミナ馬鹿だな、、、


 そういえば試合前に疑問に思ってたエルフのこと聞いてみよっと。


「アンジュさんってエルフなのに人族と親しげですけどなんでなんですか?」

「エルフの中でもそういうのに敏感なエルフはいますが私はそっち側のエルフじゃないからね。」

「そうなんですね。失礼なことを聞きました。」

「いえいえ〜。」


 アンジュって外側は人見知り気質だけど内側は結構ゆったりしてて気さくなんだな、、

 


  


 そうして3人で戦って休憩して戦って休憩してを繰り返していると7時を過ぎていた。その頃ひルナ姉が起きてきた。


「早いな坊主、、ってなんでそんなにげっそりしてんだ?」

「朝から少しだけ身体を動かそうとしたらサラさんとアンジュさんに捕まって、、、」

「確かにアイツらスタミナ馬鹿だからな。でもあのアンジュと話せたんだな。」

「え?う、うん、そうだね。話したけど?」



 その後俺はルナ姉にアンジュのことを聞くと人と関わりはするのだが関わる人は結構選ぶみたいらしい。人とは関わっても気さくな部分を見れるのはごく一部だけなんだと。

 なんか得した気分、、




 その後、朝食の時間になった時に俺はアンジュとサラに誘われたので3人で朝食を取っていた。



「アンジュさんってなんで16なのにここに来ているんですか?」

「私は基礎総合大会というものでたまたまルナ様の目に止まってお誘いをいただいたから是非ということでこの仕事についてます。」

「ルナ姉ってそんなにすごい人なの?僕全然知らないんですけど?」

「ローラン君はずっと付き合いがあったのにルナ様のこと知らないんですか!」

「う、、うん、全く。」



 そう話していると、俺の後ろからルナ姉がやってきた。


「あたしの話してしてんのか?」

「はっ、はい!ローラン君はルナ様がどういうお方かよく知っておられないそうで。」

「まぁ、あたしはなんにも坊主に言ってないからな。」

「そうだったんですか。」

「あぁ。」

「では、私が代わりに説明します。」



 そう言うとアンジュは俺にルナ姉の凄さを長々と語ってくれた。聞き終えた俺の感想は「す、凄い、、、」だけだった。

 

 いや、本当にもう凄かった。


 まず最初に産まれてから勇者クラスのステータスといくつかのスキル。その後にいろんなことを飲み込んで行き、12歳時点で高等教育クラスまでは既にマスター。そして12歳で高等教育卒業資格を獲得した後に才能を認められて有名な企業に雇われたが1年で退職し自ら起業し多くの人に声をかけて自らで素材の調達まで行い最高品質の防具や服、アクセサリーの製作を行う天才少女と話題になりその後多くの人が支持して今に至ると、、、



 俺が真っ先に疑ったのは、、、ルナ姉って転生者なんじゃね?


 そう思いはしたが、流石に口には出せなかった。



 そのあとに俺はさっきのアンジュの話で気になっていたことを聞いてみた。


「さっきアンジュさん基礎総合大会?って言ってたけどそれってなんですか?」

「それはですね、魔法力や身体能力をみんなで競い合う大会なんですよー。」


 あー、おれの苦手なやーつ。


「そしてそれは自分たちの学校だけじゃなくて近くにある10校くらいと競い合うバトルみたいな感じで校内戦のランキングが高い順に代表者として選ばれて行う大会です。」

「それって、、、毎年?」

「ですです。」



 校内戦は絶対手を抜こう。学校に入るのはまだまだ先だけど、俺はそう心に刻み込んだ。




 そうして朝食を取り終えると俺たちは昨日と同じようにまた移動を開始した。


 今日の休憩は昨日と違ってある程度休めたが、一回だけまたサラさんにバトルを申し込まれて戦った。2回目は俺の惨敗だった。それでも一矢は報いることはできた。


 そんな感じで移動を続けているとどうやら目的地に着いたみたいだった。


「今は、、、6時半か。」


 俺たちは着いた後に即座にテントを建てて、夕飯の準備をし終えた。夕飯前にルナ姉はみんなの前に立った。


「みんな、とりあえずは移動おつかれ。明日からは今日よりもハードワークが続くと思うが、一緒に2ヶ月間乗り切ろう。」



 そう言ってなんかちょっとだけ前夜祭っぽくなった。その後ご飯を取り終えて身体を洗った後に俺はすぐにテントに向かった。


 何故って、、、?サラのせいでクタクタなんだよ!朝は本当に生の人間もんじゃをリバースするところだったよ。まぁ、生しかないんだけど、、



 そうして俺は明日のためと俺の身体のためにすぐさま眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る