第37話 四天王


 俺達は不死の魔法陣を壊した後、元来た道を戻っていった。


「ようやく元の場所まで戻れたな。次は四天王とやらの部屋に進むぞ」


 先ほどの不死の魔法陣の部屋と逆の方向へ廊下を進んでいく。


 しばらく進むと扉が見えた。右に看板で『四天王応接間』と書いてある。


「……四天王って自己顕示欲高そうだな」

「奴らは四天王であることに誇りを持っている。あなどるな、奴らの強さはかなりのものだ」


 一人だけ四天王のことを知ってるマサムネが口を開いた。


「でも名前も知らないんだろ? 情報がほとんど役に立ってないぞ」

「魔王城に侵入する者などいなかったからな。四天王が戦ってる姿も見れなかったのだ」


 マサムネは少し悔しそうにしている。


 知らないことは引き出しようがないので、あえて大げさにため息をつく。


 こいつ偉そうなくせに役に立ってないので、これくらいはしておかないと。


 エイスが扉を真っ二つに切り裂いて、応接間とやらに入っていくと。

 

「よく来たな! 侵入者よ!」


 応接間の奥から四人のフードを被った奴らが現れた。


 全員が成人男性くらいの姿だ。部屋に何故かある階段の上の高台で、偉そうにこちらを見降ろしている。


「奴らが四天王だ!」

「見りゃ分かるわ! どうでもいいこと言うな!」

 

 マサムネが見ればわかることを言ってくる。逆にこれで四天王じゃなかったら驚くぞ。


「そう、我らこそ魔王城に君臨する四天王!」

「よく来たな、侵入者よ!」

「本当によく来てくれた! 四天王に任命されてから、一度たりとも戦ったことがなかった!」

「我らの存在意義を疑っていたくらいだ!」


 四天王どもから真剣なトーンで叫んでいる。声自体は変声器を使っているのか、全員が同じ声だが。


 魔王城って勇者がいないと入れないって言ってたもんな。かなり堅牢だし今まで誰も来なかったのだろう。


 ゲームでも四天王ってだいたい他の戦線に移動してて、各地方で主人公と戦うもんな。


 最初からラスボスステージで引きこもってたらそうもなる。


「とうっ!」


 四天王の一人が高台から飛び降りて、フードを脱ぎ捨てた。


 すると身体が超巨大に膨れ上がってゴーレムとなり、黒光りする金属の姿を現した。


 その大きさは全長5メートルはありそうだ。


「我が名は最硬のゴルダー! オリハルコンで出来たこの身体! 四天王最硬を誇る!」

「待て! どう見てもフードの姿と違いすぎるだろ!」


 思わずツッコミをいれると、先ほどとは全く違う野太い声でゴルダーが叫ぶ。


「このフードは我らの正体を隠す!」


 続いて残りの四天王どもがミュージカルのように。


「それは身体の大きさも同様だ!」

「声もな!」

「性別もな!」


 謎の秘密主義である。魔王城に引きこもっている時点で、情報を隠す必要がないと思うのだが。


 ゴルダーは両手の拳をガンガンと叩き合わせる。


「さあ! まずはこの俺が相手だ! かかってこい!」


 自称オリハルコン製のゴーレムであるゴルダーが、俺達に向けて拳を握って構えている。


 だがこちらからすれば、硬そうなゴーレムに近づく必要があるのか疑問だ。


 遠距離からネチネチと攻めればいいのではないだろうか。


「いやお前が来いよ」

「ほう! 俺を相手にして臆せぬか! その言葉、後悔するぞ!」


 ゴルダーがゆっくりと俺達に向けて歩いてくる。


 一歩床を踏むごとに部屋が揺れる。相当な重量なのだろうが……。


「いや遅すぎるだろ! 一歩進むのに二十秒くらいかかってないか!? さっさと来いよ!」

「これが限界だ! だから後悔するぞと言っただろう!」

「そういう意味かよ!」

「俺は元々門番なんだ! 動かなくていい場所に配置されている前提なんだよ!」


 く、くだらねぇ……そこまで動きが鈍重なら、無視してもと思わなくもないが。

 

「ご主人様! あのゴーレム、オリハルコンですよ! 貴重です!」


 ライラが槌を手に構えて、目を輝かせながらゴーレムのほうへ向かって行く。


 自称ではなく本物のオリハルコンだったようだ。もはやライラにとって、あのゴーレムは喋るオリハルコンにすぎない。


「ほう。この俺を相手に恐れをなさぬとは! 正直、逃げられると思っていたぞ!」


 ゴルダーが迎え撃つように拳を振り上げた。


「この最硬の身体! 砕けるものなら砕いてみよ! 魔王様すら、容易には破壊できぬぞ!」


 ゴルダーの巨大な右拳と、ライラの振るった槌が正面衝突した。


 そしてゴルダーの右拳は粉々に砕け散った。


「……え?」


 拳を失った右腕を茫然と見つめるゴルダー。その隙をつくように、ライラの槌がゴルダーの顔に振るわれ粉々に砕ける。


 頭を失ったゴルダーは地響きをたてて床に崩れ落ちる。


 ライラは俺にピースサインを向けてくる。


「やりました! 右腕だけ砕いてしまいましたけど……」


 動きが鈍重な置物とか、ライラとの相性が悪すぎる。


 ライラは神龍であるヴェルディの鱗すら砕くからなぁ……オリハルコンだろうが関係はない。


 敵に攻撃を避けられない前提なら、破壊力は最強なのである。


 それを見て残りの四天王たちがざわざわと騒ぎ出す。


「ふふっ。ゴルダーがやられたか」

「奴は四天王の中でも最強……くっ、どうするっ!」

「まだだ! 我ら三人が力を合わせれば、ゴルダーよりも……!」


 残りの四天王、いやもはや三天王となった奴らはローブを脱ぎ捨てた。


 巨大な鳥に、オーガっぽい魔物、水色の金属で構成されたゴーレムが順に。


「最速のバードラ!」

「最巧のオガラー!」

「二硬のゴレムス!」


 どうやら一斉にかかってくるようだ。最強がすでにやられたので後がないのだろう。


「最速と最巧はともかく、二硬って……」

「お、俺は硬さは劣る代わりにゴルダーより速いんだよ! そんな憐れんだ目で見るな!」


 どうやら本人? も気にしているようだ。これ以上は振れておかないでおこう。


 しかし敵も三体か。ならこちらも三人以上で戦う必要があるな。


 そんなことを考えていると、エイスが前に出る。


「……あのゴーレムは私がやる」

「ライラのほうがよくないか? 相性悪そうだが」

「……大丈夫。この剣なら」


 エイスは俺に見せつけるように『脅しの剣』を構える。自信満々なので任せることにしよう。


 さらに勇者ゴブリンパーティーが。


「俺達はバードラとやらをやります」


 マサムネも前に出てきた。

 

「俺はオガラーを倒そう」


 どうやら誰が戦うかは決まったようだ。


 それぞれが決まった相手に対して向かって行き。攻撃が繰り出される。


「ば、ばかなぁ!」


 ゴレムスの身体が、エイスによってみじん切りにされる。


「ぐ、ぐわぁぁぁぁ!?」


 バードラが勇者パーティー特有の数によるいじめ……じゃなくて袋叩き……いやチームワークに痛めつけられて断末魔の悲鳴をあげる。


「がはぁ!?」


 オガラーの大剣によって、マサムネが部屋の壁に叩きつけられる。


「ってお前負けるのかよ! そこは勝つ流れだろ!」

「ぐっ……奴は強い! 皆、気をつけ……」

「……もう終わった」


 エイスがゴレムスのついでに斬ったみたいで、オガラーは胴体部分を斬られて真っ二つになった。


 これで四天王とやらは全員倒したことになる。


「マサムネ、お前やっぱり弱いだろ」

「ぐっ……反論できぬ」


 事実を言われてダメージを受けたようで、床に視線を落とすマサムネ。


 実際ほとんど役に立ってないんだが……こいつ連れてこなくてよかったのでは?


 俺の視線に気づいたのかマサムネは焦りながら。


「と、とりあえずこれで四天王は倒した! 後は魔王を倒すだけだ! 魔王の間への案内は任せ」

「……ここから上のほうに魔王を感じる」


 マサムネの言葉を遮るようにエイスが呟く。


 エイスは不死の魔法陣で魔王と繋がっていた。そんな彼女が言うのならば間違いないだろう。


「よし、エイス! 案内してくれ!」


 エイスは頷くと剣を鞘にしまって、ゆっくりと歩き出した。


 それを見たマサムネは茫然と。

 

「私はどうすればよかったのだ……」

「出来ることあるだろ。剣に毒ぬれ」


 俺は出発前に言ったアドバイスを再度言ってやることにした。

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