第32話 勇者とは


 マサムネをヴェルディの間へと案内して、全員集まって勇者の話の続きが行われている。


 こいつに敵意や嘘がないのは、ヴェルディがすでに心を読んで分かっている。


 なので少し踏み込んだ話もすることができる。最悪、口封じすればいいし。


「勇者がいれば、魔王城への道が開ける。そこまではお前も知っているな?」

「知らんが?」


 そんな常識だよな、みたいに言われてもなぁ。


 そもそも今まで忘れてたけど、勇者ってうちのダンジョンに一度来たことあったじゃん。

 

 弱すぎて記憶のかなたに消え去っていた。


 マサムネは俺に対して、可哀そうな者を見るような視線をぶつけてくる。


「……勇者とは一つの時代に唯一存在する力だ」

「唯一? おかしいな、人間の勇者と会ったことあるが?」

「あやつはもう勇者の資格を失っていた。何者かが魂を汚してしまった。そのせいで再度勇者を探す必要が出てしまったのだ」


 マサムネはため息をはいた。


 あのリア充勇者、姫にぞっこんだったからなぁ。


 心がもう汚かったんだよ。だから魂が汚染されてしまっていたのだ。


 決してヴェルディが洗脳したからではないだろう。そうに決まっている。


 でも念のため汚れた原因の確認はやめておこう。


「人族の勇者は汚れてしまった。かの者が死ぬまで人族は呪われて勇者は生まれぬ。ならば我らが鬼族に誕生すると予見した」

「まじかよ。人族呪われるのかよ。あの勇者ろくでもねぇ!」

「本当にな。誰か知らぬが半端に汚すなら、殺して欲しかった」

「そうだな。おっと話がそれたな。勇者の説明の続きを頼む」


 これ以上話していると、ヴェルディが犯人は儂じゃよと言いそうだ。

 

 そうなる前にさっさと話しの流れを変えることにした。


「勇者は世界の危機に現れ、比類なき力を持つ戦士になる。そして勇者が天寿を全うすれば、魔王は僅かに弱体化する。ゆえに俺は勇者を探していた、守るために」

「……それ嘘じゃね? ヴェルディに秒殺されてたぞ」


 比類なきどころか、ため息一つでダウンさせられてたぞ。


 文字通り相手にすらなっていなかったし、一気に勇者の話が嘘くさくなったな。


 仮にヴェルディが例外だとしても、エイスも勝てるかはわからないという判断だったし。


「お前たちが異常なのだ。そこの龍はもちろんのこと、少女ら二人も信じがたい力を持っている」

「うちの自慢の者たちなんで」


 ヴェルディの陰に隠れているが、エイスもかなりの化け物だしな。


 ライラも攻撃力だけを見ればチートレベルだし。


「これほどの力が揃えば魔王を殺すことも夢ではないか」

『魔王なんぞ我だけで十分じゃ』

「まともに戦えれば間違いなく勝てるだろう。だがいかに神龍と言えども魔王に十秒は厳しい。奴には不死魔術があるだろう?」

『むぅ……せめて二十秒あれば』


 珍しくヴェルディが言いよどむ。どうやら魔王相手に十秒は無理なようだ。


 だが二十秒あればワンチャンあるあたり化け物である。不死魔術とかいう字面だけで厄介な力もあるというのに。


「……魔王の不死魔術は私が消す」


 エイスが剣の鞘を強く握って呟いた。


 そういえば魔王の不死魔術とやらは、エイスを媒体にして発動しているんだったな。


 彼女が俺の仲間になった理由も、その呪いを展開している陣を斬れる剣が欲しいからだし。


 残念ながらまだその剣は完成していない。ライラ曰く、少しずつ作ってはいるが時間がないとのこと。


 ライラは仕事が多すぎるからなぁ……ダンジョンのドロップ剣に、トラップとか増築するたびに駆り出されている。


「主人よ、俺は勇者として魔王を殺したい。こいつらも同様だ」


 勇者ゴブリンが口を開き、他の進化したゴブリンたちが頷いた。


 そういえば勇者ゴブリン以外の進化だが、見た目的にはナイトに魔法使い、大剣使いに弓矢使い。

 

 勇者パーティーご一行のイメージしか湧いてこない。


 元からゴブリンたちは一括りで運用してきたし、これからも勇者パーティーとして一つで扱えばいいか。


「ヴェルディ、戦ったらどれくらい勝機がある?」

『現時点では10回やって1回勝てるかじゃな。いくら我でも十秒はきつい』

「ヴェルディだけで戦う話になっているが、エイスやゴブリン勇者は相手にならないのか?」

 

 マサムネに問いただすと、奴は少し考え込んだ後。


「ダメージは与えられるだろうが殺しきるのは難しい」

「エイスや勇者ゴブリンがいてもか? 特にエイスなんて化け物と言っても過言じゃない強さ……いってぇ!? 剣で背中叩くな! 鎧あるとはいえ痛いんだぞ!」

「……平打ちだから」


 どうやら化け物と言われるのがお嫌いらしい。


 以前もなんかそんなので怒らせた気がするなぁ……この場合は褒め言葉と思ったんだが。


「エイス殿は確かに手練れ、人としての限界の強さに迫っています。ですが魔王を倒すには人の次元の力では無理なのです」


 マサムネは何やら力説しているが、俺は納得できないことがあった。


「エイスは言うほど人内の力か? どう見ても人外……いってぇ!?」

「……次は斬る」


 エイスが俺の背中に勢いよく剣を叩きつけてきた。


 しかも見せつけるようにむき出しの剣を構えている。理解した、次に余計な失言をしたら死ぬ!


「いえね。エイスは巨大な森を無数の斬撃で更地にするくらいの化け……超常的な力の持ち主だ! だから人が……人のたどり着けない境地にいるのではないかなと!」

「……許す」


 エイスが剣を鞘にしまったのを見て、ほっと息をつく。


 人外とか化け物って言葉がつかえないだけで、ここまで表現するのが難しいとは……。


 しかもここまで語ったのに、マサムネは首を横に振った。


「仮に一振りで森を更地にできるならば可能でしょう。ですが無数の斬撃、つまりは力が足りないので手数で補っている。それでは魔王には届かない」

「……そいつの言葉は正しい。私は魔王に届かない」


 エイスも魔王に打点がないと認めてしまった。


 まさか彼女が魔王相手の戦力にならないとは、魔王はいったいどれほどの化け物なのだろうか。


 だが、だがである。力が足りないと申したな?


 力(だけ)なら有り余っている者がうちにはいるぞ!


「ならライラはどうだ!? 一撃で森を更地にすることくらいできるぞ!」

「は、はい! お任せください!」


 ライラは見せつけるように槌を構えて素振りし、その轟音が洞窟に木霊する。


 相変わらず恐ろしい力だ。音がどう聞いても空ぶった音ではない。


「凄まじい一撃ですね。ちなみに魔王はエイス殿と同じかそれ以上の速度で動けます。当てれますかな?」

「無理だな。諦めよう」

「うう……」


 火を見るより明らかだ。間違いなく空振り三振で当たらないだろう。


 エイスより速いとか反則だろ。ヴェルディが二十秒戦えればなぁ…………ん? 二十秒?


「ヴェルディ、二十秒あれば勝てるのか?」

『確実とまでは言えぬが、勝つ自信があるのう』

「じゃあさ、日をまたぐ瞬間に戦う。ようは23時59分50秒から戦えば、日が変わるから二十秒戦えるんじゃね」

『…………それじゃ。お主、本当に悪知恵とか変なことは考えつくのう』

「……流石卑劣」


 褒められてるのかけなされてるのか不明だが、どうやら俺の考えは正しいようだ。


 二十秒あれば勝ち目があるならば、この作戦は必須だな。


 だがそれだけでは怖い。二十秒で倒せなければ負けるのだから、出来れば確実に勝てる手段を取りたい。


「ヴェルディなしで魔王を事前に弱らせたりはできないか? 勝てないまでも」

「そうだな。まずは不死の呪いの解除、他には……」


 魔王を倒すための作戦が練られていくのだった。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る