第26話 土人形
「ダンジョンに設置した宝の消費が早い?」
「はい。最近は新しく置いた宝箱が、次の日には空になってるそうです」
ヴェルディの間でダンジョンの罠について考えていると、ライラが申し訳なさそうに報告してきた。
宝箱がすぐ空になるのはいい。その分だけ冒険者が増えていて、DPが儲かるならば。
だが――ここ最近で一気に人が増えたわけではない。
DPの獲得量も増えてはいるが少しずつである。
「宝箱の配置場所が分かりやすいんじゃないか? ゴブリンたちに少し面倒な場所に置くように指示してくれ」
「はい!」
ゴブリンたちはわりと頭はいいが、それはあくまでゴブリンにしてはである。
人間よりは劣るだろうし宝箱の配置場所が悪かったのだろう。
そもそも宝の消費が多少増えても別に構わない。白金の剣は素材もヴェルディの鱗のカス部分を使ってるし、ライラが簡単に作れる。
あまり多く白銀の剣が取られると、近くの町の白銀の剣の売値が下がりそうなのが嫌なだけだ。
これで解決だろうと意識から消えて、他の作業に熱中していたのだが。
「主様! 宝箱の配置を変えても消費が減りません……」
あれから五日後、ライラが涙目で報告してきた。
宝箱の配置を変えるように指示していたな……すっかり忘れていた。
そこまで重要とは思っていないし。
「ふーむ。どんなところに宝箱はどんなところ配置しているんだ?」
「地面の中に宝箱が見えないように完全に埋めたり、開通していない部屋に置いたりです」
「……それ、面倒というか見つけるの無理だろ」
まるでタイムカプセルじゃないか。
場所を知ってないと見つけるの無理だろそれ。しかしそんなところに隠しているのに、宝箱が盗られていると……。
こちらが宝箱を隠しているところを見られている?
それが本当ならかなりやばいぞ。知らぬ間にダンジョン内に侵入されていることになる。
空中にメニュー画面を表示し、ダンジョン内の存在を確認する。
ダンジョン関係者と冒険者が確認できるが、冒険者たちは今日の朝から入ってきている者たちだ。
宝箱を設置するのに時間を決めたりはしていない。つまり常にダンジョン内で見張っていなければ、隠し場所の把握は難しいはず。
もし怪しい存在がいたなら、何かしらの反応があると思ったが……。
「ダンジョン内に反応はないか。反応しない能力を持っているか、純粋に隠された宝箱を見つける能力が高いのか……」
後者ならばまあいい。ただただ隠した宝箱が見つかっているだけ。
問題なのは前者だ。俺達の心臓部にも近づかれることになってしまう。
早急に対策を練らねばならない。
「ヴェルディ! ダンジョン内に隠れて侵入する奴がいるか探したい! 何か方法はあるか!」
『うむ? そんな必要ないじゃろ』
「なんでだ? 何者かにダンジョン内に気づかずに侵入されている疑いがあるんだ!」
『だってのう……
ヴェルディの言葉に背筋がゾワッとする。
息をのみながらゆっくりと後ろに振り向くと……土でできた人間がいた。
「!?!?!? な、なんだお前!? いつの間に!?」
「主様! 下がってください!」
ライラが俺を守る様に移動して槌を構える。
不意打ちして俺の首を掻こうとでもしていたのだろうか?
急に姿を現した理由は何か。焦りながらも敵を注視していると……何やらあの土の人間も変な挙動をしている。
……端的に言うなら焦っているように見える。
「お、お前は何者だ!」
「わ、私は土の人形! 見た通り怪しい者ではない!」
「怪しいところしかないだろうが!」
土の人形なのに喋れるようで、しっかりと返事をしてきた。
脳みそも土くれなのか言ってることはバカすぎるが。
「主様! 叩き潰しますか!? 殴り潰しますか!?」
「どっちも同じだろうが! 落ち着け!」
ライラにツッコミをいれつつ、土の人形を更に観察する。
見た感じではあまり強そうではない。捕まえて情報収集、どうやってここに入り込んだかを知るのがいいだろう。
ライラに指示して生け捕りに……無理だな。
賭けてもいいが絶対に壊してしまう。彼女に生け捕りとか手加減という言葉は存在しない。
…………よしダメ元で脅そう。
「動くな! 動けばこの破壊の化身たるライラが、お前の身体を粉砕するぞ!」
「ひいっ!?」
土の人形は俺の言葉に驚いたのか、腰を抜かして地面に尻もちをついた。
まじかよ、ダメ元の脅しが通用したぞ。
「粉砕されたくなかったら俺の質問に答えろ。お前は何者だ? 何の目的でここにいる?」
「わ、私は
鬼の迷宮主……以前に出会ったハイオーガのマサムネが所属している迷宮だ。
この迷宮を狙っていると言っていたが、どうやら信ぴょう性は高いようだな。
鬼の迷宮とはいずれ戦うことになりそうだ、このクレイマンとやらで情報を集めたいものだ。
「ほう。それで宝箱を回収していたのか」
「あ、ああ。悪いとは思ったんだが、鬼の迷宮主には逆らえないし……そこの女の子なら割と簡単に作れるみたいだし」
クレイはライラを指さす。
どうやらライラの情報もある程度バレているようだ。
「お前はどうやって隠れていた? いきなり現れたが」
「そ、それは……クレイマンの秘術だから……言うのはちょっと……」
「そうかそうか。ライラ、大量の水を用意しろ。お前を泥人形にランクアップさせてやる」
「ひいっ!? や、やめてくれ! 言うから! 俺達は土と同化できるんだ! その状態だと、迷宮の生体反応にも引っかからないみたいで……」
土と同化ね……あれか? ダンジョンの一部と同化したから、生体反応に引っかからないとかか?
厄介な能力だな。鬼の迷宮主め……こんな奴で嫌がらせなんぞしやがって。
「次だ。お前は鬼の迷宮に脅されてると言ったな? どういうことで脅されてるんだ?」
「俺の住んでる村に水の大魔法を撃つって……」
なんだよ。鬼の迷宮主も水で脅してるだけかよ。
なら俺のやることも決まってるな。
「そうかそうか。クレイ、お前は俺の迷宮に寝返れ」
「なっ!? そ、それは無理だ。村のみんなを見捨てることに……」
「寝返らないなら、俺が村に水の超魔法を撃つ」
「ひいっ!?」
こんな使いやすそうな奴を逃す手はない。
敵のダンジョンに侵入させて情報を盗れるのだ。いくらでも使い道はある。
なのでクレイをこちらに引き込みたい。だが脅されてるなら買収は無理だろう。
つまり――脅しの上塗りだ!
『お主、なかなかえぐいのう』
ヴェルディの呟きは無視だ。こいつで鬼の迷宮の情報を仕入れる。
二重スパイとして運用すればいいのだ。
「いいか? お前の選択肢はひとつだ。俺達の二重スパイとして動き、鬼の迷宮主には感づかれないようにする。そうすればお前の村は助かる」
「そ、そんなの無理だ!?」
「無理ならお前の村が水没するだけだ」
がっくりと地面に膝をつくクレイマン。
結構酷いことをやってる自覚はあるが、こいつから鬼の迷宮の情報を得る必要がある。
「安心しろ。俺達の側につくなら、鬼の迷宮から村を守ってやる」
「ほ、本当か!?」
「もちろんだ。特にダンジョンでの戦争が起きた時には、こちらの最強の剣士を村の護衛につけよう」
「ダンジョンバトル中にそんな戦力を!? そ、そこまでしてもらえるなんて……」
エイスはダンジョンバトルで使えないしな。
どうせ戦力にならないなら、他の所で役に立ってもらおう。
クレイマンもそこまでの情報は知らないようで声が震えている。おそらく感動しているのだろう。
「わ、わかった。貴方達の側につこう。その代わり、村のことは……」
「ああ、俺達は約束を違えない。お前が裏切らない限り、必ず守ってやる」
クレイマンとがっつり握手をする。
土人形というだけあって、身体全身が全て土のようだ。握手した手が土で汚れてしまった。
だがこれで鬼の迷宮の情報を手に入れることができる。
今までずっと受け身で後手に回ってきたが、今度はこちらが優位に立つ番だ。
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