第23話 虫の迷宮主②


 とある森の開けた場所。二匹の巨大な虫が会話をしていた。


「新しく生まれたダンジョンに仕掛けた卵は無事にかえった。これで我らの物だ」

「しょせんは生まれたばかりの幼虫よな」


 巨大な角を持ったカブトと、鋭利なハサミを誇示するクワガタが笑い声を出す。

 

「おおよそ千匹の虫魔物の軍勢が内部に大量発生するのだ。対処など不可能」

「然り。我らの邪魔になる場所にダンジョンを作った時点で、奴らの運命は決まっていた」


 巨大な容器に入った樹液を舐めながら、彼らは今後のことを話し始める。


 生まれた昆虫たちをどうするか、もぬけの殻になったダンジョン跡地はどうするか。


 すでに勝ったものと疑わずに。


 それを遮る様に大きな羽音が響きだした。


「大変でございます!」


 巨大なハチが焦った声音で空から現れた。


 カブトムシとクワガタは鬱陶しそうに身体を震わせる。


「なんだ? 我々は大事な話をしている。新たに生まれた同胞たちをどうするか、新しく滅ぼしたダンジョンどうするかをな」

「そ、その新しいダンジョンの話でございます! 敵の迷宮主が攻めてきっ……」


 言葉の途中でハチから体液が飛び散り、力なく地面に墜落する。


 それを見てカブトムシとクワガタは即座に周囲を警戒。


 そして視線の先に人の姿をとらえた。 


「何者だ!」

「おお。初めて拳銃が役に立った気がする」


 その先には龍の形をしたスライムに拳銃を構えたリョウマと、お供のゴブリンたちがいた。

 




~~~~





 虫の迷宮の場所をタイクンに聞いた後。


 俺達は予定通りに即座に攻めることにした。


 かなり近かったのでヴェルディツバドラゴンに乗れば、三十分もかからなかった。


 ダンジョンなのに洞窟ではなくて、普通の森であることには驚いたが。


 森に入ると小型の虫が大量に襲い掛かってきた。


 まるで大量発生したバッタの公害のように、視界全てが埋まるような軍勢で襲い掛かってきたのだ。


 それに対してDPで買った殺虫剤を撒きまくって焚きまくって、殺虫スプレーを使いまくって森の奥地へとたどり着いた。


 現れたのは車ほどの大きさを持つクワガタとカブトムシ。

 

 これまでの敵と比べても強そうなことを考えると、奴らのどちらかが迷宮主で間違いはないだろう。

 

 ようやく敵のボスにお目通りができたようである。


「いやー……虫の魔物に殺虫剤効いてよかった。あの大群相手に接近戦で立ち向かうのはゾッとする」

「貴様、どうやってここに!? 自分の迷宮はどうした!? そして我らの配下は!?」

「うおっ!? カブトムシが喋るのか……てか質問は一つにしろよ。俺らがここにいることで察しろ、全滅させてきたんだよ」

「……バカな! 貴様のダンジョンに大量発生した虫をどうやって倒したというのだ!?」

「わざわざ自分の手を教えてやる奴がいるかよ、しょせんは虫だな」


 うちの辻斬り少女が精神に傷を負いながら、必死に駆除しただけだが。

 そう思いながらカブトムシに拳銃を撃つが、鈍い音がして甲殻に銃弾がはじかれた。


 かなり硬そうだな、鉄みたいな音したぞ。


 そういえば昆虫って巨大になったら生物最強候補とか聞いたことあるような。

 

「効かぬなぁ! 我らは虫の中でも最強、すなわち王! カブトオーとクワガタキングであるぞ!」

「弱そうな名前だな! そんなんよりヘラクレスオオカブトとかのが強そうだ」

「我らの強き証たる王の名を愚弄するか!」

「偉そうな単語つけるだけで強い証なら、トノサマバッタと同類だろうが!」


 続けて今度はクワガタに拳銃を撃つがやはり甲殻に弾かれる。


 どちらも同じくらいの硬さっぽいな。


 どうやら拳銃ではまともにダメージを与えられそうにない。


「よし! 俺とゴブリンはクワガタを相手にする!ヴェルディツバドラゴンはカブトを頼む!」

「ゴブゥ!」


 言葉を発せないヴェルディツバドラゴンは頷くと、飛翔してカブトムシへと襲い掛かる。


 ヴェルディツバドラゴンはスライムだ。物理攻撃に対しては耐性があるので、おそらくツノで攻撃してくるカブトムシには相性いいだろう。


 ツバの龍はカブトムシに対して口から液体を吐いてかけた。


 それに直撃したカブトムシの甲殻から、白い煙が発生して徐々に溶け始めているのが見える。


「なにっ!? 鉄以上の硬度を誇る甲殻が溶けているだと!?」


 カブトムシは驚愕の声をあげた。


 やはり相性はよさそうだ。というか溶解液なんて持ってるんだあいつ。


 クワガタの方はおそらくハサミで、身体を切断される可能性があるのでこちらで受け持つ。

 

「むう! カブトよ、今助け……」

「そうはさせるか! 行け、ゴブリンたち!」

「「「「「ゴブゥ!」」」」」


 カブトを助けようとするクワガタに、ゴブリンたちが一斉に襲い掛かった。


 各自が神龍の剣でクワガタの甲殻へと斬りかかる。

 だがこれまでどんな敵でも切り裂けた剣が、少し甲殻に刃がめり込むだけで止まってしまった。


 切れ味が足りないのか!?


「なにっ!? 斬れないのか!?」

「バカな!? 我が甲殻が斬られただと!?」 


 俺とクワガタの声が同時に響く。

 どうやら互いに計算外の事態か。落ち着け、有利なのはこちらなはずだ。


 甲殻をある程度は斬れているのだ、同じ箇所を何度も斬りかかればいずれ肉の部分に刃が到達するはず。


 もしくは俺の知ってるクワガタと同じなら――。


「おのれっ!」


 クワガタは大きなハサミを振り回し、それに当たったゴブリンが吹き飛ばされて近くの木へと背中から叩きつけられた。


 だが神龍装備の前ではダメージなど与えられない。


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 木に叩きつけられたゴブリンは、衝撃で内蔵がやられたのか地面に血を吐いてしまう。


「なにっ!? 大丈夫か!?」

「バカな!? 何故ゴブリン風情が我の攻撃を受けて無事なのだ!?」


 再び俺とクワガタの声がはもった。

 

 ……どうやらこいつらはこれまでの敵よりも強いようだ。


 神龍装備なら無敵と思っていたがそんなことはない。ならばゴリ押しではなくて戦術を練って戦う必要がある。


 つまり敵の弱いところをついて攻撃するのだ。


「ゴブリンたち! 敵の腹を狙え! そこは甲殻がないはずだ!」

「なっ!? 貴様、何故我らの弱点を知っている!?」

「クワガタもカブトも男の子のお友達だからだよ!」


 ゴブリンたちは剣を構えてクワガタを囲む。


 対するクワガタは姿勢を低くして、腹を極力地面に近づけた。


 腹の位置が低いほど攻撃しづらくなるからな。


 だが特殊な、本当に特殊な訓練を受けたゴブリンたちの攻撃をさばききれるかな。


「ハサミの動きを封じるんだ! あいつはそれ以外に攻撃手段がない!」


 クワガタはまたハサミを振り回して、ゴブリンの接近を防ごうとする。


 それに対して三匹のゴブリンが躍り出て、ハサミの動きを抑えるために一斉に剣で斬りかかった。


 神龍装備で強化された筋力によって、ハサミとつばぜり合う。

 

 これで奴は攻撃手段を失った。


「なっ!? くそっ!?」


 自分が窮地にあると認識したクワガタは、羽根を展開して空へと飛んだ。

 

 飛べば俺達の攻撃はほぼ届かないからな。だがそれは当然予想済み。


 俺は羽根に狙いを定めて拳銃の引き金を引いた。


 虫特有の薄い羽根では強度が足りず、弾丸によって穴があきクワガタは地面に背を向けて墜落。


 無様に腹をむき出してうごめいている。


 その隙を逃さないとばかりにゴブリンたちが、クワガタの腹に剣を突き刺した。


「ば、バカな……ゴブリン風情に……」

「うちのゴブリンはそこらのとは違うんだよ、色々と」


 刺された箇所から体液を噴き出しながらしばらく動いた後、クワガタの身体が完全に停止した。

 どうやら力尽きたようだ。

 

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