第20話 ダンジョン盛況
俺達のダンジョンに入る冒険者は、順調に数を増やしている。
最初は誰も来なかったが、一ヵ月経った今は一日に十人以上は必ず入るのだ。
宿屋を作ったりなどの努力が報われた形である。
だが――。
「DP《ダンジョンポイント》溜まらん……人増えたのに」
『元が少なすぎるんじゃ。もっと増やさねばな』
俺がヴェルディの間――ようはただの洞窟の広い空間で叫ぶ。
今のDPは5000ほど。一ヵ月の経営で3000増えた。
結構多いように見えるが、大して強くない魔物を召喚したら消える。
つまりはもっと貯めないと駄目だ。
うちのダンジョンの設備はライラのお手製。
つまりその費用分は他のダンジョンよりも浮くはずなのだがなぁ。
「何でDP溜まらないんだ……魔物ガチャしたいんだが」
『節約しろ。そもそもお主、毎日DPで食料買ってるじゃろうが』
「あれは必要経費だから」
『やれやれ……これでは先が思いやられる。ダンジョン主は食費にDPなど使わんぞ?』
ヴェルディから至極まともな意見が来るが無視。
たぶん家計簿ならぬダンジョン簿つけたら、食費が凄まじいことになってると思う。
俺にライラにエイス、ゴブリン五体。そしてヴェルディが死ぬほど食うのだ。
あれ?
「よく考えたらお前が一番食ってるだろうが! これから量を減らすか!」
『食費にDPは必要経費じゃな。ここは節約なんてケチくさいこと言わず、収支を増やしたほうがよかろうて』
「お前の食費をなくせばだいぶ浮くんだが?」
『我の楽しみを奪うな! 動けないのじゃからせめてそれくらいは許せ!』
ヴェルディから神龍の威厳の欠片もない必死の嘆願が来る。
まあこいつからは鱗や牙を日々採掘してるから、別にいいんだが。
「じゃあ日々の鱗採掘量を増やすので手を打とう」
『ぐっ……致し方あるまい』
言うほど致し方あるまいなのだろうか。
別に少しくらい交渉してくれても構わないのだが。
向こうが文句ないならこちらに問題はないからいいか。
『ダンジョンのそばに町を作るのはどうなっておる?』
「タコマを馬車馬のように働かせているが……ちょっと様子を見てくるか」
ヴェルディと会話しながらダンジョンの入り口へと向かおうとする。
「ゴブゥ!」
するとゴブリンの一体が俺についてきた。
神龍装備をしているところを見ると、護衛のつもりらしい。
なんか最近のゴブリンたちは、指示しなくても動いてくれる。
俺の護衛だったりダンジョンに宝物を設置したり、正直かなり助かっている。
「ゴブリンって結構頭いいよな」
『ずる賢いとは聞くな』
そうしてダンジョンの外へと出て少し歩くと、いくつかの家が建っていた。
最近放置していたが、タコマは真面目に仕事してるらしい。
近くでカンカンカンカンカンカンと、何かを叩く音が大量に聞こえてくる。
その発信源のほうを見ると、タコマが八本の腕で金づちを持っていた。
俺はタコマのそばへと歩いていく。
「タコマ、精が出るな!」
「おっ、リョウマはんやんけ。どや? 家いくつか建てたで」
「すまん! 何言ってるかわからん!」
タコマは話しながらも作業をやめない。
そのせいで大量の金づちの音が止まらず、何を言ってるか聞き取れない。
仕事頑張るのはいいんだが手を止めてくれ。
「タコマ! 手! 手を止めろ!」
「ん? ああ、握手かいな!」
「違う、そうじゃない!」
俺がハンドサインを送ると、勘違いしたタコマが一本の腕の作業を止めて握手してきた。
こいつは腕止めたら死ぬのだろうか? マグロか何か?
「ゴブゥ!」
ゴブリンの攻撃! だがタコマは腕を器用に動かして回避した!
いや待て。素手のゴブリンとはいえど、簡単にいなしやがったぞこいつ。
「タコ固めや!」
「ゴブゥ!?」
タコマの触手がゴブリンに絡みついていく。
どちらもエロ同人の有力兵器だが……正直あまり見たい光景ではない。
君ら戦う相手を間違えてるぞ。そんな勝負を誰も望んでいない。
「待て、無益な争いはするな。やるならお互いにライラかエイス相手に頼む」
「そら無理やわ。あの嬢ちゃんらやと、絡まる前に腕引きちぎられそうや」
「ゴブゥ……」
「お前ら仮にも触手にゴブリンだろうが! 多少の力の差くらい煩悩で何とかしろ!」
「無茶言うなぁ」
こいつら根性ないな。
もっと強くなって是非大願を成就して欲しい。
その時までには何とかしてカメラを手に入れるから。
「それと不足してる物はないか?」
「大丈夫や。木材は死ぬほどあるし、釘なんかもライラの嬢ちゃんからもらってるし」
「なら放置しても問題ないな?」
「ええで」
タコマは腕の一本を立てる。
一ヵ月で三件くらい家を建てれるなら、もう二、三ヵ月放置すれば町としての体裁は整うな。
そろそろ住民の募集とかもしてみるか。
仕事も与えられるしな。宿屋とか今度新設予定の店とか。
用事も終わったのでヴェルディの間へと戻り、今日の食事を何にするか決める。
DPで買える食べ物リストを見ていると。
「……たこ焼きか」
たこ焼きが目に入る。
タコマの腕を見ていたせいで、たこ焼きが妙に食べたくなってしまった。
今日はこれでいいかと、タコマを除いた全員分のたこ焼きをDPで購入する。
タコマの分? いくら俺でも共食いまではさせられない。
あいつには後で焼きそばでも持って行ってやろう。
大量のたこ焼きが紙の容器に入って、食事用に用意した巨大机の上に出現した。
ソースのかぐわしい匂いがたまらん。
「昼飯だぞー」
ヴェルディの間の全員に聞こえるように叫ぶ。
匂いに釣られたのもあるだろうが、すぐさまみんな集まってきた。
「美味しそうな香りですね! でも熱いです!」
「アツアツのタコ焼きを手づかみするんじゃない! ほら刺さってる爪楊枝……小さな木の棒を使って食べるんだ」
ライラが湯気の立っているたこ焼きを素手で掴んだので、容器の中に入っていた爪楊枝を使ってどうやって食べるか実演する。
驚いた。いきなり手づかみとは……流石知力2である。
「……美味」
「ゴブゥ!」
ゴブリンもエイスたちもたこ焼きを機嫌よく食べている。
ちなみにゴブリンたちはいきなり手づかみでは食べなかった。
……もしかしてゴブリンのがライラより頭いい?
「主様、これは何というご飯ですか?」
「あ、これはタ……」
「むう、これめっちゃうまいやんけ!」
「ぶぅ!?」
たこ焼きのことを説明しようとすると、何故かタコマがたこ焼きを食べていた。
どうなっている!? なぜこいつがここにいる!?
「た、タコマ……な、なぜここに……?」
「ちょっと……はふはふ……リョウマはんに相談ごとがあってな」
話しながらもたこ焼きを食べるのをやめないタコマ。
やめろ、それは駄目だ……共食いだぞ!?
どうすればいいんだ!? 今からでも止めるべきか!?
いやでも知らぬが仏という言葉もある……どうすれば正解なんだ!?
「これ美味いなー。リョウマはん、なんて料理やこれ」
料理名を聞くんじゃない! そんなに共食いを自覚したいのか!?
くっ、ここはバレないように関係ない名称で誤魔化すしか……!
丸いしマル焼きって言えばいいだろ!
「言いかけてましたけど、タで始まる料理なんですよね?」
ライラァ! 余計な事を言うんじゃない!
タがついてそれっぽい料理名……タ、タ、タタタタ……!
「……それはタイ焼きだ」
咄嗟に知ってる言葉で嘘ついてしまった……。
もうタイ焼き出せないわこれ。
「へー、タイ焼きって言うんか。なんかくにゅくにゅした食感の物が中に入っとるな、これなんや?」
もうやめて! 俺のライフはとっくに0よ!
くっ! こうなれば誤魔化し続けるしかない!
「それはあれだ、珍しい貝の類だよ」
「へぇ、貝にしては随分弾力があるなぁ。ワイの触手といい勝負するんちゃう」
そりゃいい勝負するだろうよ、だって同じなんだから。お仲間なんだから。
納得しながらたこ焼きを食べ続けるタコマ。
「いやーうまいわこれ。あ、用事やけど家いくつか建てたけど、他に必要な建物あるか?」
「……とりあえず家を建てておいてください」
「なんで敬語なんや? まあええわ、ごちそうさん。美味かったからまた食べたいなこれ」
そう言い残してタコマは去っていった。
……すまん、お前に共食いの業を背負わせてしまった。
このことは俺の中で墓まで持っていくつもりだ。
そしてタイ焼きは永久封印されることとなったのであった。
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