第15話 周辺整備


 俺達はダンジョンの入り口前、つまり外に出ていた。

 以前から言っていた鉱山町ならぬダンジョン町、それをどう作るかを考えるためだ。

 周りは全て森。つまりは伐採する必要がある。


「これはライラだけじゃ無理だよなぁ。いい腕の大工がもっと欲しい」

「申し訳ありません……私の腕がもう何本かあれば……」

「腕が欲しいわけじゃないからな?」


 たまに知力2の片りんを見せてくれるライラである。

 仮に彼女の腕が四本あったら助かるかもしれないが。 


「……ルフトに相談してみる」


 エイスが小さく呟いた。ルフトはこの少女と出会った商店の店長だったか。

 ダンジョン関係の物ならともかく、ダンジョン外ならば人間に任せるのもありか。

 金は何とでもなるだろう。最悪、ヴェルディの鱗でも売れば。


『何か今、猛烈に悪寒がしたのだが』

「気のせいだ」


 無駄に勘のいいヴェルディが念話を飛ばしてくる。

 大丈夫だ、ちょっと日々の鱗の採掘量が増えるだけだから。

 それかタイクンにでも相談してみるか……陸に上がった魚が役に立つかは微妙だが。

 ドワーフみたいな魔物が召喚できればよかったのだが。


「……伐採は終わった」


 そんなことを考えていると、エイスが剣を鞘にしまう。

 彼女の呟きと共に周囲の木々が折れていく。いつの間に抜いたのか見えなかった。

 あっという間もなく、周囲が開けた土地になったのだ。

 これは助かるな、何をするにもまずは伐採からだったし。


「エイス、助かるよ」

「……アレちょうだい」


 エイスが両手をこちらに差し出してくるので、DPで板チョコを出して手渡す。

 彼女は無表情でそれを受け取って、包みを破いて食べだした。

 どうやらチョコが気に入ったようで、たまに求めてくるのだ。

 こちらとしては働いてくれるので文句はない。


「とりあえず宿屋くらいなら一日で作れます! でもいっぱいの建物は厳しいですね……ダンジョンの宝とか、色々作る物もありますし」


 ライラが少しうつむく。

 本当にライラに色々とやらせすぎだな。この状況はあまりよろしくない。

 神龍装備とかの彼女にしか作れない物以外は、他の方法を考えるべきだろう。


「ライラは宿屋だけ作ってくれ。後は何とかする」


 大工はルフトに相談してみよう。

 とりあえず宿屋だけあれば、人が集まる環境は作れるはずだ。

 最近は毎日一人はダンジョンに潜る人間がいる。

 ちなみに今のダンジョンはゴーレムしか出てこない。だがたまに白金の剣などを体内に仕込んでいる。

 運がよければもうけ、当たりつきアイスバーみたいな感じで。

 ゴーレム自体もコアを落とすので、討伐のメリットはあるらしいし。

 

「では宿屋を作っちゃいますね!」

「ああ。入り口付近ならどこでもいいよ」


 こんな形でライラに指示を出して一日後、ダンジョン入口の近くに立派な宿屋が建った。

 木造でかなり大きく豪華な造りだ、二階建てだし。


「すごいな、何人くらい泊まれるんだ?」

「4人部屋が10室、2人部屋が10室で50人泊まれます!」

「10人足りんぞ」


 抜群の鍛冶製造スキルと知力2を見せつけてくるスタイル。

 60人泊まれるなら十分過ぎる。


「よくやったぞライラ。後はダンジョン関係とエイスの武器に尽力してくれ」

「わかりました!」


 笑顔でダンジョンの中へ入っていくライラ。

 さてと……宿屋が作られたなら運営する必要があるわけだが。

 今気づいたのだが誰が従業員やるんだこれ。

 ライラは忙しすぎるし、そもそも接客中に客をミンチにしかねない。

 エイスは喋るの苦手だし厳しそう。ヴェルディやゴブリン、ヴェルディツバスライムは論外。

 ……俺以外に選択肢がねぇ。そしてこんな宿屋を一人で回すのは無理だ。


「やっぱりこのダンジョン、人手不足すぎるな……」

『足りんならさらって来ればいいじゃろ』

「龍的な脳筋発想やめろ。……金で雇うか」


 金を捻出するために、しばらくダンジョンの白金の剣のドロップ率を微妙に減少しよう。

 ようはゴーレムの体内に剣を仕込む割合を分からない程度に減らす。

 アイスの当たり棒の排出率が1%下がっても誰も気づかんだろ。

 

「ただルフトにだけ白金の剣を売りまくるのもよくないな……怪しまれそうだ」

「……大丈夫」


 チョコを食べ終えたエイスが俺に呟く。

 

「……リョウマが迷宮主なのは伝えた」

「待て、情報漏洩するんじゃねぇよ!?」

「……ルフトは魔族」


 エイスはいつも通り淡々と告げてくる。

 魔族ってなんだ? ゲームとかなら魔物と人間のハーフとかのイメージだけど。

 

『そうじゃな。アレは吸血鬼じゃな』


 ヴェルディから念話が届く。

 こいつ知ってたならもっと早く警告しろよ。

 

「言えよ! 下手したら俺が血を吸われていた可能性もあっただろうが!」

『敵意が全くなかったからのう。実際大丈夫じゃったろ』


 確かに結果的に無事だったので言い返せない。

 まあ話してても紳士的だったし、人を襲わない吸血鬼なのかもしれない。

 なんか牛とか豚とかの血を吸うタイプかも。

 そもそも血を吸うってだけなら蚊だってやるし。


「なんで吸血鬼が町で道具屋の店長やってるんだ? 魔族が人の中にいるのは普通なのか?」

『普通ではないはずじゃ。本人に何か目的があるんじゃろ』

「……趣味と実益を兼ねてるらしい」


 魔族が町にいるのは普通ってわけではないのか。

 まあ俺は魔族どころか魔物を従わせているわけで。

 話が通じて襲ってこないなら全く問題はない。

 というかあの商店で襲ってきたのはエイスのほうだ……人間のほうが危ない件について。


「やはり最も恐るべきは人か……」

『何言ってるかわからんが。魔族ならば話も通しやすいじゃろ、人が欲しいなら相談してみてはどうじゃ?』


 ヴェルディの言う通りである。迷宮主の事情も含めて相談できる相手ができれば助かる。

 商人ならば伝手などもありそうだし。


「そうだな……ヴェルディ、町まで送ってくれ」

『構わぬが我の一日の時間を浪費してしまうぞ。ツバに乗っていくほうがいい』


 俺は近くで木を吸収しているヴェルディツバドラゴンに目を向ける。

 ……乗らないと駄目なのだろうか、ツバに。

 本人に罪はないとはいえ、あの身体はヴェルディの唾液で手に入れたものだ。

 つまりバッチぃ。

 だがヴェルディツバドラゴンややる気なようで、翼を大きく広げて空に吠えるポーズを見せる。

 なお発声はできないので叫べてはいない。

 …………乗るか。ヴェルディの力を迂闊に使うのはよくないし。


「私も行きます!」

「ライラ、お前は休んでおけ。色々作ってもらうものもあるし」

「でも主様の護衛が……」

「……行く」


 エイスが俺の近くに寄ってくる。

 あの町に住んでた人間だし護衛としては適任……だよな?

 急に人を斬り捨てたりしないよな? 


「念のために言っておくが斬るなよ?」

「……善処する?」

「言い方自体もやる気ない上になんで疑問形なんだよ!」


 この少女、本当に人間社会で生きてきたのか?

 江戸時代の武士が異世界転移でもしてきたのでは? 切り捨て御免って人斬り許可されてたらしいし。

 ……もしかしてこの世界にもそんな法律あるのか?

 冒険者は町民を斬ってもいいとか。後でルフトに確認してみるか。

 しかしこの世界の人間社会の知識が足りない。エイスは魔物には詳しいが、それ以外のこと全然知らない。

 ここらへんの権力者の名前や、地理など聞いても知らないって返ってくるし。


「なあエイス、お前本当に人か? 実は魔族や魔物だったりしない?」

「……」


 エイスは目を赤く光らせてこちらを睨む。

 それと同時に金属音が鳴り響く……彼女はすでに剣を抜いていた。

 これ見えなかったけど鎧が斬られたな!?

 普段の無表情とは違い、殺気のこもったような恐ろしい視線だし。

 思わず身震いしてしまう。冗談気味で言ったのだが完全に地雷だった!


「待て! もう言わないから剣をしまってくれ!」

「……二度目はない」


 謝罪するとエイスはいつもの無表情に戻る。

 どうやら彼女に人間かの話はタブーらしい。不老不死で三百年生きてるとか聞いてるし、色々とあるのだろう。

 いつも無表情のエイスだから、起こった時は怖い。今後は気をつけよう。

 俺は近くで身体を低くして待機していたヴェルディツバドラゴンに近寄る。

 その水々しい身体をまじまじと観察した後、意を決して身体に触る。

 ヒンヤリとしていて柔らかくぶよぶよとしている。

 以前のヴェルディのツバよりも固体だ。液状化してたらそもそも乗れないが。 


「じゃあ……乗せてもらうぞ、ヴェルディツバドラゴン」

「……よろしく」


 俺とエイスが背に乗ったことを確認すると、ヴェルディツバドラゴンは翼を羽ばたかせ空高く飛んだ。

 ……龍の形しているとはいえ、スライムなのに飛べるの不思議だ。

 まあゆっくりした速度だろうが、空を飛べるのは大きい。

 徒歩よりだいぶ早く着くだろう。そんな俺の予想が大きく裏切られる。


「……つかまったほうがいい」

「え?」


 エイスの警告と共に恐ろしい速度で飛翔するヴェルディツバドラゴン。

 思わず首につかまるがやべぇ!? 風が超強い! ジェットコースターより怖い!?


「ちょっ!? もう少し遅く……!?」


 俺の悲鳴は無視され、高速で町へ向かっていくのであった。

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