第14話 新魔物召喚


 竜宮城……ではなく敵のダンジョンから無事に生還した俺は、もらった玉手箱の中身を使うことにした。

 すなわち魔物を召喚するのである。すごくワクワクする。


「いやー、今回の戦いはよかった。素晴らしい絶景も見られたし、DPももらえたし」

『それはいいが、得たDPを早速召喚に使うのか? ダンジョンの設備投資なども選択肢だが』

「設備ならライラがだいたい作れるだろ。それに俺はガチャがしたいんだ」


 何が出てくるかわからないのが楽しみだ。

 俺はウンディーネから受け取った水晶を握る。

 

『我の鱗などを素材にすればいいのだぞ? 我が眷属が召喚されるはずだ』

「置物が増えるだけだろ!」


 DPで召喚した魔物は、ダンジョンの生み出す魔力で動く。

 つまり自分のダンジョンの規模を上回る魔物を召喚しても、行動に制約がかかるらしい。

 ヴェルディの素材を使って召喚しても、まともに運用できない奴が増えるだけだ。

 ちなみにライラは生産と筋力は凄まじいが、他の能力値はそこまで。

 そして知力2のため、総合能力はそこまで高くない認定らしい。

 水晶を握りつぶすくらい力を手に込めて、召喚呪文を唱える。


「世界の理よ。訴えるぞこの野郎、ネットで叩かれたくなかったら、強い魔物出しやがれ!」


 ……本当、この呪文もう少し何とかならんかね。

 俺の言葉に呼応して目の前に魔法陣が展開され、光が魔物の姿となっていく。

 何が来るかな、俺としては人魚とか来て欲しいんだが。

 だが俺の期待は外れたようで、目の前には液状化したドロドロの存在。

 名前を聞くまでもないな、これスライムだろ。


『これはスライムじゃな、雑魚じゃ』

「エイス、このスライムの魔物ランクは?」


 近くでライラ謹製の寝袋に潜りながら、こちらを見ているエイスに話しかける。

 この少女、実は一日の大半を寝ていたりする。

 それを見たライラが寝袋をプレゼントしてから、いつもくるまっててミノムシみたいになってる。


「……Cランク」

 

 以前にタイクンに聞いた話だと、魔物のランクはE、D、C、B、A、S、EXらしい。

 ならCはそこそこである。

 というかさっき戦った巨大な蛇――シーサーペントが陸上にいる時もCランクって言ってたな。

 それなら思ったよりだいぶ強いことになるのだが……。


「えーっと……喋れる?」


 スライムに話しかけるが返事はない。代わりにスライムはブルブルと横に大きく震えた。

 たぶん否定してるっぽいので言葉は通じるようだ。

 だが困ったな。スライムでは神龍装備をまとえない。

 ゴブリンみたいに強さに下駄をはかせることができないのだ。


「エイス、スライムって何ができるんだ?」

「……溶解液で装備を溶かす」

「……ほう」


 素晴らしい情報を聞いた。

 つまりはエロ……じゃなくてトラップとして有用だな。

 女冒険者や女型の魔物にけしかければ使い道はありそうだ。

 男? 嫌だよ、誰が好き好んで男の醜い裸体を見たいんだよ。

 

「まあ何はともあれよろしくな。とりあえずそこらをブラブラしといてくれ」


 特にやってもらうこともないので指示すると、スライムは激しく震えだした。

 ブルブルしてくれとは言ってないんだが。

 何かわからないが地面にべたっと張り付きだした。

 

『ほほう、こやつはこの地に眠る巨大な力を吸収しようとしているのじゃ』

「何? そんなものがあったのか? どんなものだ? 掘り起こしたいんだが」


 ワクワクするじゃないか。

 地面にお宝が眠っているなんて。


『我の唾を吸収した土じゃからな』

「はい解散。スライム、そんなばっちぃもの吸ったら駄目だぞ」

『我の唾は巨大な魔力が内包されておるのじゃ! うまく行けばスライムが進化するぞ!』

「そんな進化かわいそうすぎないか……」


 龍の唾液スライムとかあれじゃん。キメラにされた動物の次くらいに可哀そうじゃん。

 だが地面から引きはがそうとしても、スライムは全く剥がれない。

 ライラを呼ぼうかとも思ったが、あいつにさせたらスライムが引きちぎれて死ぬな。

 

『価値のわかる愛い奴よ。待っておれ、吐いてやる』

「おい待てやめろ!?」


 俺の静止も空しく、ヴェルディはスライムに向けて大量の唾を吐いた。

 地面にドロドロして濁った液体の水たまりが作られる。

 うわぁ、またしばらく気持ち悪いやつが残るのか……と思っていると、水たまりはどんどん小さくなっていく。

 そしてそれに比例するようにスライムが巨大化していく。

 ……完全に吸ってるよあれ。


「スライムが汚染されていく……」

『だから我の唾は強力な魔力を帯びていてじゃな!』

「たとえどんなに何だろうが唾だろうが!」


 そんなことを言っている間に、地面の唾たまりは完全に消えた。

 スライムが全て飲み干してしまったようだ。

 そしてその汚スライムの身体が急に光りだす。


『進化じゃ!』

「な、なんてありがたみのない進化だ……」


 スライムの身体が変形していき膨れ上がり、全長5メートルほどの龍の姿となった。

 身体を構成しているのは液体のままなので、形と大きさが変わったようだ。

 見た目は悪くないのだが……あれほとんど唾なんだよなぁ。

 

「……ちなみにあの可哀そうな魔物の名前は?」

『知らん』


 ヴェルディは役に立たないのでエイスに目を向ける。

 だが彼女も首を横に振った、どうやら知らないようだ。

 ……珍種、いや新種の魔物なんじゃないだろうか。だって唾で進化したスライムだぜ。

 

『ここは主が名をつけてやれ。我が眷属じゃ、いい名前を頼むぞ』


 このスライムドラゴン、眷属認定なんすねヴェルディさん。

 さて名前どうすっかな……ツバドラゴン、唾液スライム……。

 そもそもこいつはスライムなのかドラゴンなのか。それともツバなのか。

 主体がわからんと名前つけるのも難しい。


『我の名前を取って、ヴェルディスライムとかどうじゃ?』

「ヴェルディツバスライムか」

『ツバはいらん』


 元スライムは天に向かって吠えるような動作をした。

 だが叫び声は出ない。おそらく発声器官が存在しないのだろう。

 ドラゴンの見た目になっても言葉の疎通はできないらしい。

 でも特に暴れたりしてないので、さっきの名称でもいいらしい。

 

『まあよい。よろしく頼むぞ、ヴェルディツバスライム……長いな、略してツバと呼ぼう』

「略し方が不憫すぎるだろうが!」

『ツバという単語だけなら、なんかそこらにいそうじゃろ! それにヴェルディは我の名前じゃし、スライムは魔物の固有名称じゃ! ツバしか個性がない!』


 確かにシバとかそんな感じでいそうだけどさ! 

 今ならツバしか個性がないって酷すぎだろ! 改名してやらないと。

 だがヴェルディツバスライムは文句がないようで、首を縦に振った。


『決まりじゃ! よろしく頼むぞ、ツバ!』


 不憫なあだ名をつけられてしまったスライム。

 せめて俺だけでもフルネーム、もしくはスライム呼びにしてやろう。

 

「あれ? 新しい魔物さんがいます! どなたですか?」


 ダンジョン改築で入り口付近に行っていたライラが戻ってきたようだ。

 ヴェルディツバスライムを不思議そうに見ている。


『ヴェルディツバスライムじゃ。我の眷属じゃ、よろしく頼む。愛称はツバじゃ』

「よろしくお願いしますね、ツバさん。主様、足が出来てよかったですね。これから町に向かう時は、ツバさんに乗って行けますよ」

「えぇぇぇぇ……」


 ヴェルディツバスライムを撫でながら、恐ろしいことを言うライラ。

 の、乗りたくねぇ……。

 いやそいつの身体、ヴェルディのツバだぞ。

 撫でないほうがいいぞ……でも本人いや本龍のいる手前言いづらい。

 乗り物にするかは置いておくが、戦力としてはどうなのだろうか。

 一応は見た目は龍だし、さっきのスライムよりは強くなっているのだろうか。

 

「ヴェルディツバスライムの強さはどんな感じだ? ランク上がったか?」

『人のランクなぞ関係ない! 我の眷属じゃぞ! 強いに決まってるじゃろ!』

「お前、身内には甘いのな」


 他の魔物は雑魚としか言わないくせに。

 

「……最低でもAランク以上」


 この騒動を寝袋に入って見守っていたエイスがボソリと呟いた。

 まじか。不憫な進化をしたと思っていたが、力を得ていたのはせめてもの救いか。

 なんかアレだ、大きな代償を払って強くなった。

 そう考えればこのヴェルディツバスライムも格好よく……どんなに言いつくろってもツバはツバだわ。

 釈然としないが戦力強化に成功したのだった。

 

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