第12話 ダンジョンバトル②


「ああもう! 弾が足りない!」


 水中ダンジョンの奥へと進んでいく俺達。

 ゴブリンたちは剣なので群れで襲ってくる魚の魔物を斬りまくっている。

 だが俺は装填数6発の拳銃だ。

 水中でも弾丸補充できるのはすごいが、敵が多すぎて文字通りリボルバーの回転率が足りない。

 後、敵に当たっても弾が身体を貫通しないのだ。陸で石投げる程度の威力になってる。

 

「ええい! もうこのまま殴った方が早いなこれ!」


 拳銃を金づちのようにこちらに突撃してきた魚の頭に叩きつける。

 その魚は気絶して上へと浮いていった。

 これやっぱり殴った方が早い。ゴブリンたちは魚の群れに斬りかかって、一振りで複数体を切り刻んでいる。

 敵の攻撃は体当たりだが俺達には効いてない。

 水中なので反動で多少飛ばされるがそれだけだ、ダメージは一切ない。


『ヴェルディ、そっちはどうだ?』

『暇じゃ。全く敵が攻めてこないわい』


 ヴェルディと念話で状況を確認する。

 どうやら敵は俺のスポーン殺しの罠に、対抗策を思いついてないらしい。

 ちなみに俺なら床を作るとかをするだろう。


「おうおうおう! 思ったより数倍やるじゃねぇか!」


 そんなことを考えていると腕を組んで大きな鯛――タイクンがやってきた。

 ……ちなみに泳ぎ方がめっちゃキモイ。

 魚の尾ひれと人の手足が連動してシュールな動きになっている。


「そうだろ? 俺はやれば出来るんだからって言い続けられてたんだよ」

「……それはイヤミ言われてたんじゃねぇか? まぁいい、これ以上弱い魔物で相手しても一緒だからな。こっちに来い、俺の主のところへ案内してやる」


 タイクンは手招きした後、こちらに背を向けて泳いでいく。

 ……隙だらけだな。


「うぉぃ!? 危ねぇ!? 不意打ちとか卑怯だろ!?」

「チッ。避けやがったか」


 拳銃の引き金を引いたが避けられてしまった。

 水中だし当たってもそこまでダメージ与えられなかっただろうが。

 

「せっかく案内してやるってのに!」

「そう言って落とし穴にはめるんだろ」

「落とし穴やったのはお前じゃねぇか……そもそも水中でどうやって落とすんだよ」


 自分がしたんだから警戒するに決まっている。

 落とし穴はなくても落石とかなら仕掛けられるし。


「まあいい。お前の相手はコイツだ」


 タイクンが指さした方角には長い身体を持った巨大な蛇がいた。

 全長だけならヴェルディにも劣らない。俺達を丸のみできそうなほどの大きさだ。

 

『あれはシーサーペントじゃな。雑魚じゃ』

「エイス、あいつはどれくらい強い?」

『……Cランク。水中ならBランク』


 ヴェルディの強さ評価は参考にならないのでエイスに尋ねる。

 するとランクという言葉が出てきた。たぶん魔物ごとにランクがあるんだろ。

 CやBなら半端っぽいしそこまで強そうな感じはしない。

 

「ランクってなんだ?」

『…………』

「エイスさーん? ちょっと返事してくださーい。エイスさーん」

『…………喋るの疲れた』


 ダメだこの少女、一言二言しか情報聞き出せねぇ。

 

「……人間は魔物のランクをEからEXで認定してんだよ。上からEX、S、A、B、C、D、Eだ。覚えときな」

「あざっす」


 何故か敵のタイクンがあきれながら教えてくれた。

 本当この鯛、俺の仲間よりも協力的な件について。

 

「このシーサーペントを倒せるかな? こいつは海の竜ともいわれてるんだぜ」

「あんなでかいの反則だろ! もう少し小さいの連れて来いよ!」

「入口に落とし穴掘った奴が言うセリフか!」


 巨大な蛇は俺達のほうへと真っすぐ向かってくる。

 あの巨体の体当たりを食らえば、神龍装備でも無傷とは限らない。

 というかかなり迫力があって怖い。

 拳銃を撃ってみるがこちらに突撃したまま回避された。

 ……当たっても威力に期待はできないけど。

 

「くっそ速い!? ぐへっ!?」


 そして俺は蛇の尻尾で叩きつけられる。

 結構吹き飛ばされてしまった、だが痛みはない。つまりこいつも神龍装備なら無傷で勝てる!

 

「へっ! 結局こいつも弱いんじゃねぇか!」

「本当に硬いな、その鎧。だが……これならどうだ?」


 シーサーペントは一体のゴブリンに向けて襲い掛かる。

 剣を振って迎撃するが回避され、ゴブリンは身体を噛まれる。

 だがあの蛇では神龍装備の前では無力。

 しばらく咥えた後、噛み砕くのを諦めたようでゴブリンを吐いた。


「やっぱり有効打ないようだな! 見掛け倒しってやつだ! 行くぞ、お前ら! 俺に続け!」

「「「「「ゴブゥ!」」」」」


 俺達は一斉に攻撃する、だがシーサーペントは全て回避して一体のゴブリンに大きく口を開く。

 また噛むのか? 無駄な事を。

 そう思っていると……ゴブリンを丸のみした。


「こうすりゃ硬くても関係ないよな?」

「……ちょっ!? 丸のみはずるくね!? 噛めよ! やべぇ! 急いで助けるぞ!」


 計算外だ! あの蛇に有効打はないと思っていたのに。

 消化される前に救出しないと死ぬぞ!

 そんな俺達の考えを読んでか、シーサーペントは俺達からどんどん離れていく。

 ゴブリンたちも必死に追いかけるが敵の方が断然速いのだ。

 拳銃で牽制するが全く意に介さない。

 ……おそらく避けなくても当たらないとバレている。

 うん、あいつ速いから撃ってるけど全然かすりもしてない。


「卑怯だぞ、逃げるな!」

「あいつもお前には言われたくないと思うぞ……」


 俺は腕を組んで戦闘を見守っている鯛に視線を移す。

 くっ、こうなればタイクンを捕まえて人質にするか?

 あのシーサーペントよりは御しやすい気がするが……。

 そんなことを考えていると、あのウミヘビの動きが急に止まった。

 いきなりのたうち回ってその場で暴れだしたのだ。


「どうしたシーサーペント!?」


 タイクンの声にも反応せず苦しみ続けるシーサーペント。

 そしてしばらく暴れた後に力尽きて倒れた。

 ……なんかわからないが勝った! 


「急げ! 飲まれたゴブリンを助けるぞ!」


 すぐさま力尽きたシーサーペントの元に泳いでいく。

 すると奴の口が急に開いて、中から呑まれたゴブリンが現れた。

 その手には血で染まった剣を持っている……だいたい何をしたかわかった。

 内部から斬りつけたのだろう……想像しただけでめっちゃ痛そう。

 

「ゴブゥ!」

『……私の教えの賜物』


 エイスが誇らしげに呟いた。

 ……確かにあれだけ虐殺されていたら、肝っ玉はつきそうだ。

 何はともあれシーサーペントも倒して、ゴブリンも助かった。

 俺は唖然としているタイクンの方へと向き直る。


「さて……次はお前の番だ。タイの生け作り君」

「勝手に改名するんじゃねぇ! まさかあいつが倒されるとは……主、どうしやす?」


 タイクンは俺から背を向けて、誰かに向けて叫んだ。

 また拳銃で不意打ちしようかと思ったが、弾切れなのでやめて警戒していると。

 辺りに声が響き渡る。


『見事です。若き迷宮主よ』

「今度は何だ? 人鯛に海蛇と来れば次は植物タコか爆弾マグロか? どうせまともな魚じゃないんだろ!」


 変態魚介のオンパレードだ。次もまっとうな魚は来ないだろう。


『その通りです。私がこのダンジョンの迷宮主です』


 そんな俺の目の前に現れたのは、胸が大きくて美しい胸の大きな女性であった。

 めっちゃでかい。大きな貝をブラジャーのようにしているが、若干こぼれている。

 俺のダンジョンにいる女性陣ではもはや相手にするのもおこがましい。

 

「この方こそ俺達の主、ウンディーネ様だ! どうだ! 恐れ入ったか! このバスト相手に勝てるか!」

「くっ……なんてでかさだ!」

『あのー……ここは人魚!? とかで驚くところでは……』


 ボイン様が呟くのを聞いて下半身を確認すると、魚の姿をしている。 

 

「あ、人魚だ。上半身しか見てなかったから気づかなかった」

『…………』


 人魚は胸を腕で隠しながらこちらを睨んでいる。

 それもまたよし。


「どうだ、俺の主はやべぇだろ!」

「ああ、確かにヤバイ。神に近い」

『……あの、そろそろ話をよろしいでしょうか?』


 しばらく素晴らしい谷間を拝んだ後、ボイン……じゃなくて相手の迷宮主と話をするのだった。

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