第11話 ダンジョンバトル①


 タイクンがやって来てから一週間。

 ダンジョンバトルの日がやって来た。

 準備は万全……とは言えないがやれるだけのことはやった。

 ダンジョンバトルでどうやって敵に攻め込むかだが。

 互いに自分のダンジョンの好きな場所に、敵のダンジョンの入り口に繋がる門を用意できるのだと。

 互いのダンジョンの入り口が繋がるのかと思っていた。だが微妙に違っていた。

 俺達はヴェルディの間に門を設置しておいた。

 そして自分のダンジョンの入り口から少し離れた場所で、敵の侵入を待っている状況だ。


「まずは防衛だ。ある程度迎撃した後にこちらがカウンター気味に攻め込む」

「流石主様!」


 普段の槌ではなく、祭りで使うような巨大なうちわを持ったライラが叫ぶ。

 そんなことを話しているとダンジョンの入り口が光り、変な膜で覆われて外の景色が見えなくなった。 

 おそらく相手のダンジョンの門と繋がったのだろう。

 さて――こちらの作戦はうまく行くかな。

 するといきなり大勢の魔物――人型の魚っぽいやつが入り口から現れた。

 奴らは勢いよく入り口から飛び出してきて……。


「おおお! 我らは《楽園の湖》の……えっ、ちょつ、あああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 真っ逆さまに深い穴へと落ちていった。

 入口の前に巨大な穴を掘っておいたのだが、ものの見事にはまってくれたようだ。

 敵がどこから攻めてくるか決まってるなら、そりゃこちらも色々考える。

 

「決まった……スポーン地点が決まってるなら、トラップ作るのは定石だよな」

「主様見事です! いっぱい落ちましたよ!」

『せこいが効果的な手じゃな、せこいが』


 せこいせこいとうるさいぞ、ヴェルディ。

 これが第一の策、ライラに掘らせた大穴である。

 入口から五メートル先まで続く穴だ。底はどれくらい深いか知らないが……目視で見えないので落ちたら無事では済まない。

 普通にジャンプするだけなら、そうそう越えられない穴だ。

 これで敵の歩兵部隊はだいたい無力化できるはず。


『次が来たぞ』


 また門から魔物が飛び出してくる。

 今度は翼を持った魚だ。当然だが敵もバカではない、空を飛べる魔物なら落とし穴は関係ない。

 だがこちらも予想している。


「ライラ! 出番だ!」

「はい!」


 ライラは手に持った身の丈を超えるうちわを大きく振り回す。

 入口に向けて突風が吹き荒れて、飛行していた魚たちはバランスを崩して墜落していく。

 翼にダメージを負って空を飛べなくなったのだ。

 ライラは知力こそ2だが筋力は恐ろしく高い。そんな彼女が巨大なうちわを振れば、もはや大型台風もかくやの風が起こせる。

 空を飛べるならば大抵の場合は身体が軽いはず。鳥なんかも身体スカスカだしな。

 そんな奴らではこの風の前ではひとたまりもあるまい。


「よし。これで敵は攻めてこれないだろ」

「主様すごいです!」

『珍妙な手を考えるものじゃな』


 敵も無策で突っ込んでは来ないようで、入口から魔物が出てこなくなった。

 なら次はこちらの攻撃を……。


『むっ、また来るぞ』


 ヴェルディの警告と共にまた魔物が出てきた。

 今度は翼を持ったワニのような魔物だ、両手にかぎ爪のようなものを持っている。

 ライラが迎撃の風を起こすと、敵は穴の中へと自ら突っ込んでそれを回避する。

 

「穴に入って避けたか。だがいつかは出てくる必要があるし問題は……」

『……掘ってる』


 ヴェルディではなくエイスから念話だ。

 掘ってる……? 何を……まさか!? 

 急いで穴の下を覗くと横穴が出来ている。あの魔物、地面からダンジョンを攻めるつもりか!?

 そんなの卑怯だろ! ダンジョンの壁掘ってるのと変わらないじゃん!


「主様ならこれも考えていますよね! 次はどうすればいいですか!」


 ライラが恐ろしく真っすぐな目でこちらを見てくる。

 いや全くもって考えてなかった。てかなんだよあのワニ、空飛べて水も地面も潜れるとか陸海空掌握してるじゃん。

 どんな生態系の生物だよ、せめて海と陸と空のどれかに生きろよ。

 しかしどうするか……地面に潜られた敵を倒すには……やべえ、どうすっか。

 こちらに地面潜る方法はないし……ダメ元で試してみるか。


「ライラ、槌で地面を思いっきりぶん殴れ」

「はい!」


 ライラはうちわを投げ捨て、手元に槌を召喚すると地面に叩きつける。

 するとダンジョン内が地響きを鳴らして大きく振動する。 

 これならどうだろうか、地中に対して強烈な衝撃が起きたはずだが……。


『地中の魔物は倒したようじゃぞ』

「……全て計算通りだ! 俺の掌の上だ!」

「主様、すごすぎます!」

『あやしいのう』


 ヴェルディうるさい。

 せっかく美少女ライラから褒められているのだから、恰好つけるのだ。

 かなり焦ったがとりあえず何とかなった。

 しばらく待つが入り口から魔物は現れてこない。

 敵も有効な策を思いつかないようだ。

 これならこちらが攻撃に転じてもよさそうだな。


「よし、これより攻撃に転じる。ライラはこのままここを防衛だ!」

「わかりました!」


 ライラに指示を出しつつ、口笛を吹いてヴェルディの間へと走り出す。

 しばらくするとダンジョンに分散して配置したゴブリンたちが、俺の元へと集まってきた。

 こいつらは入口の防衛ラインが抜かれた時のために待機させておいた。

 幸いにも出番はなかったが。

 そして俺達はヴェルディの間に配置した、敵ダンジョンに繋がる門の前にやって来た。


『我の装備をしているのだ、そうそうやられはせん。暴れてくるがいい』


 置物と化しているヴェルディが話しかけてくる。

 俺もゴブリンたちも神龍装備だから、かなり強くなっているはずだ。

 でもかなり偉そうにしているが、こいつが動ければ全部解決なんだがな。


『……首斬ってきて』


 異空間にいるエイスが激励? の言葉をかける。

 それを聞いたゴブリンたちの背筋が伸びて、腰につけた鞘から剣を引き抜く。


「「「「「ゴブゥ! ゴブゥ!」」」」」


 エイスの一声でゴブリンたちの殺る気が大きく上がった。

 ……あの拷問みたいな訓練されて、なんでエイスがゴブリンに嫌われてないのか理解できない。

 悲鳴と生首、腕や足が飛びまくる恐ろしい教導なのに。

 結果的にゴブリンたちは前より強くなったとは聞いているが……。

 

「エイス、ゴブリンたちは実際強くなったのか?」

『…………』

「何で黙るんだよ!? 返事しろよ!」

『……喋るの疲れた』

「お前は一日十秒しか話せないのか!?」


 声に疲れが混じっているエイスに突っ込む。

 なんで俺の配下は変なのばっかりなんだ本当に。

 まあいい。仮に元のゴブリンのままでも、装備がよすぎるから何とでもなるだろ!


「よし! 狙うは敵のダンジョンコアだ! 避けられる戦闘は避けつつ進むぞ、いいな!」

「「「「「ゴブゥ!」」」」」


 俺の言葉にゴブリンたちが元気よく返事する。

 こいつらは人の言葉は話せないが、わりかし頭はいいのだ。

 作戦には従ってくれるはずだ。

 

「行くぞ!」


 俺の号令と共に門の変な膜へと向かう。

 敵のダンジョンに繋がっているはずだ。

 勢いよく突っ込んで落とし穴掘られてたら嫌なので、慎重に一歩進んだ。

 出たらいきなり敵が待ち構えているとかは大いにありうる。

 景色が変わり俺達と待ち受けていたものは……。


「ごぼごぼがぼがぼ!?」


 そこは水の中だった。ずるくね!?

 やばい、早く戻らないと溺死する!?

 俺もゴブリンたちも水中でもがいて、急いで自分のダンジョンへ戻ろうとする。


『落ち着け。我の装備をしているなら水中でも呼吸できるし喋れる』

「ごぼが……本当だ。苦しくないし喋れる」


 ヴェルディの念話で我を取り戻す。

 ゴブリンたちも気づいたようで落ち着いていた。

 あたりを見るが陸地とおぼしき場所はない。どうやらため池トラップなどではなく、このダンジョン自体が水中なのか。

 魚介類のダンジョンだし言われてみれば当然かもしれない。

 そして周りに魚介系の魔物が集まってくる。

 まんま魚っぽいもの、魚人っぽいもの、貝みたいなのもいるな。


「……行け! 俺達の力を見せてやるんだ!」

「「「「「ゴブゥ!」」」」」


 ゴブリンたちが勢いよく敵の魔物に突っ込む。

 水の抵抗をもろともせず、剣を振るって敵を屠っていく。


『我が主よ、お前は行かないのか?』

「……武器が銃なんだよ。流石に水中では無理だろこれ」


 腰につけた拳銃を見てため息をつく。

 こんなことなら剣も持ってくるべきだった。

 火器だからな。いくら神龍の素材で作られたとはいえ、流石に使用するのは無理……。


『使えるぞ。我を甘くみるな』

「そんなバカな……ってまじで撃てるじゃん」


 試しに引き金を引いてみると、弾丸が発射されて近くの岩へと当たりヒビを入れた。

 威力も落ちているようだが使えるようだ。


「よっしゃ! 俺も行くぜ! 文字通りの雑魚ども、覚悟しやがれ!」


 俺とゴブリンたちは近くにいた魔物を一掃し、敵ダンジョンの奥へと進んでいくのだった。

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