第9話 冒険者以外お断り


 エイスによるゴブリン虐殺……いや教導が始まってから一日。

 ヴェルディの置物がある部屋――ヴェルディの間。

 ダンジョンに新たな人間が何グループか入ってきたのをモニターで眺めていた。

 冒険者ならばいいお客様と思っていたのだが……。


「今時の冒険者は殺しあうんですね!」

「そんなバトルロワイアルなわけないだろ。ありゃ山賊か何かだ」


 十人くらいの小汚い男の集団が、三人の冒険者をリンチにしていた。

 せっかく人を殺さないように皆に指示しているのに、こいつらのせいで人殺しのダンジョンになってしまった。


「このまま住まわれても厄介だ。こいつらは追い出したいな」

『焼き殺すか?』

「……首をひとはね」


 ヴェルディが呟き、エイスが剣の鞘に手をつける。

 この二人、発想がけっこう似ている。特に物騒なところが。


「完全に殺すの前提で怖いわ君たち。ヴェルディ、追い払えるか?」

『無論ではあるが……我が主よ、自ら戦ってみるがいい』

「えー……」


 思わず否定の言葉が出てしまった。

 だって俺は地球でも引きこもり気味のインドア派だ。

 格闘技とかやったことないし。


『その神龍装備は飾りではない。あんなゴミどもに負けるわけなかろう』

「大丈夫です! あんな奴ら、主様の姿を見ただけで驚いて腰を抜かして、這いつくばって許しを求めますよ」

「俺は印籠か何か?」


 ……俺は迷宮主だ。いつか戦闘する必要があるかもしれない。

 なら今のうちに経験しておくのはありか? 

 最初の相手が人間なのは嫌だが……。


「盛り上げ役はお任せください! 主様がさっそうと登場した時用に楽器も用意してます!」

「無意味なことはしなくていい。そうだな、念のためにエイスも来てくれ」


 エイスは俺の言葉にうなずく。

 彼女がいれば万が一も起きないだろう。

 そもそも神龍装備の時点で安全なのかもしれないが。

 俺とエイスは山賊たちのたむろしているエリアへと向かった。

 少し入り口のほうへ歩くとわが物顔で飯を食らって、げらげらと下品な笑い声を出す男たちがいる。


「あん? またカモがやってきたかぁ?」


 山賊の一人、他よりも大柄な奴が俺達に気づく。

 俺を軽く一瞥した後、エリスを舐めまわすように観察し薄汚い笑みを浮かべた。


「女がいるじゃねぇか! 野郎ども! こいつらを逃がすな!」


 号令と共に他の山賊たちも俺達に武器を構える。

 それと同時に俺の後ろへ下がるエイス。俺に全部倒せと言ってるようだ。


「お嬢ちゃん、今更ビビっても遅いぜぇ!」


 下卑た笑みを浮かべる山賊たち。

 びびったんじゃなくてお前らが命拾いしただけだぞ。エイスが本気出したらたぶんもう血の惨劇が終わっている。

 さてどうするか。試しに腰のホルスターから拳銃を出して構える。

 だが男たちはこちらを馬鹿にしたような顔をしたまま。

 銃を知らなければこんな反応なんだな。


「なんだぁ? 変な玩具なんて出してよぉ。その小さな穴から何か出すつもりか?」


 山賊の一人が愚かにも銃口付近に自ら近づいてきた。

 わざわざ当たりに来てくれたので俺は引き金を引いた。

 強烈な衝撃音と共に銃弾が発射され、山賊の腹部を貫く。

 撃たれた山賊は出血した腹を押さえてうずくまる。


「かはっ……」

「!? なんだ!? よくも仲間を!」


 残りの九人が一斉に武器を持ってかかってくる。

 俺に武術の素養などはないので、受け流すことなども出来ずに剣やこん棒で体中を叩かれる。

 ちょっ!? 袋叩きじゃねぇか! って……全く痛みがない。


「なっ……!? 俺の剣が欠けて……」

「うそだろ!?」


 流石神龍装備だ。これなら負ける気がしない。

 ……というかこれだけ硬いなら、普通に殴っても強いんじゃないか?

 試しに一番近い山賊に右ストレートを振りぬくと、直撃して数メートル先の壁に叩きつけた。

 ……どうやらこの装備、俺の身体能力も上がっているようだ。


「くくっ……! これいいな! 負ける気がしない!」


 ここからはずっと俺のターンだった。残る八人の山賊を銃で撃ったり、殴ったり投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたり。

 正直めちゃくちゃ楽しかった。無敵モードで敵蹂躙してるようなもんだ。

 そして全ての山賊が倒れ、俺とエイスだけが残った。


「どうだエイス! 俺もやるだろ!」

「……とてつもない装備」

「俺も少しは褒めて!? お世辞でいいから」

「…………ゴブリンよりは強いかも」

「けなしてないかそれ!? しかも確定じゃないんかい!」


 俺の評価めっちゃ低い件について。

 まあ別に強いわけではないけども……とりあえずゴブリンたちを呼んで、山賊を縛らせてヴェルディの間へ連行する。

 今度町に行った時に衛兵に突き出すつもりだ。

 下手に逃がして復讐とかしてきたら困るし。

 縛られて気絶している山賊たちを見てエイスが呟いた。


「……ゴブリンの斬る練習用具に使える」

「エイス、お前は考えることが本当に物騒だなおい」


 たまに口を開くと思えば物騒な事しか言わない。

 ちなみにダンジョンには他にも冒険者がいて、彼らはライラの作ったゴーレムと戦っている。

 勝ったら白銀の剣を落とすので頑張ってくれ。


『山賊どもはゴブリンの餌に持って帰ってきたのか?』

「何で君らの発想はそんなに物騒なんだ……とりあえず置いておくだけだ。後で町に連れてく」


 山賊に人権の類はないらしい。

 でもこいつらを置いておくと食費かかるんだよな。DPも多少は入るとはいえ。

 そんなことを考えていると。


「主様! お見事でした!」

「ライラ、褒めてくれるのはお前だけだよ!」


 ヴェルディもエイスもお世辞すら言ってくれなかった。

 やはりライラはいい娘だ。そんな彼女は縛られた山賊に気づくと。


「あ、骨とかもらっていいですか? 素材として」

「……ライラ、お前もか」


 うちのダンジョンには物騒な奴しかいないのか!

 意識を取り戻した山賊たちが震えている……さっさと町に連行した方がよさそうだ。

 ここにいたらそのうち発狂するんじゃなかろうか。

 山賊たちの処遇を考えていると、ゴブリンの悲鳴が聞こえ始めた。

 またエイス先生の訓練という名の虐殺、じゃなくて虐殺という名の訓練が始まったらしい。


『我が主もエイスに鍛えてもらってはどうじゃ?』

「断固として拒否する。強くなる代わりに色々失いそうだ」


 主に健常な精神が消えてしまいそうだ。

 黒ひげ危機一髪のように頭が飛んでいくゴブリンを見て本当にそう思う。


『あれだけ鍛えればゴブリンたちも早々に進化するやもな』

「進化?」

『魔物は一定以上強くなるとランクアップするのだ。ゴブリンならホブゴブリンやゴブリンシャーマンになるのが一般的、稀にオーガになるのもいるがな』


 魔物に進化なんてあるのか。

 それは面白くていいな。魔物育成物なら進化は醍醐味だ。

 

「進化は楽しみにしておこう。それとライラ、ダンジョンの入り口付近に宿屋は作れるか?」

「お任せください!」


 とりあえずゴーレムは数十体用意できたので、次はダンジョン周りの整備をすることにする。

 今後ここに人が集まる様に仕向けなければ。

 宿屋は酒場と兼用にするつもりだ。これで冒険者たちは食事と寝床にありつける。

 彼らが長期滞在できる環境が作られるのだ。

 問題は食事の仕入れだが……とりあえずはDPで食べ物買って用意しようと考えている。

 うまい飯なら多少は宣伝材料にもなるだろうし。


「エイス、お前も何か人を集めるコツとか知らないか?」

「……レアモンスターが出れば話題になる」


 珍しい貴重価値のある魔物か。

 たしかに素材などが高く売れる魔物が出るならば、人が集まりやすくなるな。

 しかし魔物って高いんだよな……ましてやレアモンスターとかやばそう。

 それにダンジョンの目玉にするならば、狩られる可能性も考慮せねばならない。

 せっかく出したレアモンスターが殺されるの嫌だな。


「その案はとりあえず保留だな。そもそもモンスター召喚のガチャ自体、今はできないし」


 DPが足りないのだ。

 なのでゴブリンたちを一生懸命鍛えて、神龍装備も用意したのだから。

 彼らはダンジョンで出てくるやられ役雑魚魔物ではない、ダンジョンバトル時の戦力として期待している。

 エイスが無事に鍛え上げてくれる前に心折れないか心配だけど。


『そういえば主よ。他の迷宮主から使者が来ているがどうする?』

「は?」


 いきなりヴェルディから爆弾が投げ込まれた。

 他の迷宮主の使者だと? 仲良くしましょうの挨拶とかならいいが、面倒な予感しかしない。

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