第8話 エイス
エイスという少女に斬りつけられた後、何故か彼女を連れてダンジョンに戻った。
ちなみに正当防衛とはいえ、ライラが店の床に穴をあけてしまった件は許してもらった。
というかむしろ店主から平謝りされたが、エイスからの謝罪はない。
一番の原因は斬りかかって来た彼女だと思うのだが。
「……神龍」
『我が主よ、こんな変な者を連れてきてどうしたのじゃ』
顔を合わせて開口一番、ヴェルディがエイスを見て呟く。
彼女は外套でまた顔を隠している。
「流れで仕方なくというか……」
『魔王の呪いを受けた者なんぞ連れてきおってからに』
「呪い?」
『左様。この者は魔王に不老不死の呪いをかけられているぞ』
何か訳アリ物件だったようだ。
不老不死……見た目十歳くらいだけど実際の年齢が気になる。
でも女性に聞くのはマナー違反だろうか。
「ちなみに今おいくつですか?」
「……三百は超えてる」
知力2ことライラが槌を構えながら、空気を読まずに訪ねた。
さっき俺が斬られたのを見てからずっとライラは武器を構えている。
三百超えてるのか。つまりロリババアってやつか……のじゃ言葉じゃないけど。
『で、結局この者は何で連れてきたのじゃ』
「上等な剣が欲しいらしい。なんか魔を破る剣が欲しいとしか言わないんだよ」
『ああ。魔王の不老不死の呪いを展開している陣を切り裂ける剣が欲しいんじゃな。あれは並大抵の力では無理じゃし』
エイスはうなずいた。どうやらそんな理由らしい。
彼女に何度聞いても魔を破る剣が欲しい、としか言わなかったからわからなかった。
……もしかしてこの少女、超絶口下手なのではなかろうか。
「呪いってヴェルディなら解呪できないのか?」
『無論可能だ。だがこの呪いはエイスの魔力を媒介にして魔王自身も不老不死にしている魔法だ。解除されたと知れば、我を除いて最強の迷宮主たる魔王がこのダンジョンに攻めてくるだろうな』
「そりゃダメだな……」
『いつか倒すにしても今は無理じゃ』
残念ながら呪いの解除は難しいようだ。
エイスはそんな俺達の会話を黙って聞いていたが。
「……魔を破る剣を作って」
「……ライラ作れるか?」
「作れますけど今は無理ですね。時間も素材も、色々必要ですし」
どうやらエイスの求める物を作れはするようだ。
彼女の様子を見てみるが、表情に変化はない。剣が作れると聞けば少しは感情に変化があると思っていたが。
かなりのポーカーフェイスだ。
「作って」
「……手間も時間もいるんだ。俺達にだって余裕はない、お前が作るのに値する価値を出せないなら無理だ」
「……」
「お、やる気か? こちらにはヴェルディがいるぞ! 今なら負けん!」
俺を目を赤く光らせて睨んでくるエイス。
だが屈しない。そのためにエイスをダンジョンに呼び寄せたのだ!
今ならば負ける気はしない!
『確かにその通りではあるが……いきなり我に頼りすぎじゃろ』
ここならヴェルディが十秒戦える。いくらエイスが強くても神龍相手には分が悪いはずだ。
エイスはしばらく黙り込んだ後、剣の入った鞘を床に置いて正座をした。
「……エイスの全てを差し出す」
「全て? 抽象的過ぎるから具体的に言ってくれ」
「持ってる物と身体」
「まじでか」
エイスの顔はかなり、いや滅茶苦茶美少女だ。
体つきは少し幼いが実年齢的に問題はない……オーケーと言おうとするが思いとどまる。
これで身体目当てで了承したらライラやヴェルディが、俺を見限ってしまう可能性が……。
考えろ、エイスを受け入れることでそれっぽくダンジョンに恩恵がある。
俺の評価が落ちない方法を……!
「よし、ならエイスはダンジョンの用心棒をやってくれ! 主に他のダンジョンが攻めてきたように!」
完璧な答えだ。
エイスの強さなら用心棒として申し分ない。
『駄目じゃ。ダンジョンの魔物ではないから、ダンジョンバトル時にその少女は戦えない』
「なんだそのクソルールは! ふざけんな!?」
何でだよ。ダンジョンバトルのルール詳しく知らないけど何でだよ。
せっかく美少女ゲットのチャンスなのにこれはまずい!
更に考えろ、脳内回路を全開にしろ! 何としても説得力のあるエイスを迎え入れる理由を……!
この少女、見た目は滅茶苦茶好みなのだ。諦めるわけにはいかぬ!
「……そうだ! エイスはゴブリンの指南役をやってくれ!」
『ゴブリンの指南じゃと?』
「いくら神龍装備したって、剣術の一つも使えないと宝の持ち腐れだろ!? ヴェルディだってライラだって自分の武器を少しでもうまく使って欲しいだろ!?」
必死に説得力ありそうな言葉をつむぐ。
するとライラが目に涙を浮かべて感激していた。
「主様……私のことをそこまで考えてくださるなんて……」
ごめん。実はエイスの身体目当てのただの方便なんだ。
めっちゃ申し訳ない気持ちになるが黙ってうなずいておく。
『……そもそも我はどうでもいい。主の好きなようにせよ』
「よっしゃ! エイス、お前はこれからゴブリンに剣術を教えてくれ! 対価に剣を作ろう!」
「……わかった」
よくやったぞ俺。
配下の評価を下げずに美少女の身体を手に入れた。
これで好き放題色々と……。
『我が主よ、先ほども言ったがエイスは呪いがかかっている。極力触らぬようにしろ』
「えっ」
『エイスよ、我が主に触れぬように気を付けるように』
ヴェルディの言葉にエイスは頷いた。
待って、ちょっと待って、ちょっと待ってください。
それだとエイスを仲間にした意味がペラペラに……。
「……エイスの呪い、解いてやらないか?」
『……我が主よ。最強の魔王と現時点で戦いたいか?』
「……無理だな」
思わず地面に手をついてしまう。
畜生……! 魔王め、なんて悪魔な所業をしやがる……!
絶対にゆるさねぇ!
「俺、絶対に魔王を倒してやる!」
『何かわからぬがやる気が出たのはいいことだな、我が主よ』
「ライラ、まずはゴーレムを量産だ! エイスは早速だがゴブリンたちの指導を!」
口笛で呼び寄せたゴブリンたちをエイスが観察する。
しばらくするとヴェルディの方を向いた。
「……蘇生陣の展開できる?」
『無論じゃ。どこに欲しい?』
エイスは何もない床を指さす。するとその場所、半径五メートルほどの床が光り始めた。
『これでよいな?』
エイスが頷くと同時に五ゴブリンたちが吹き飛んだ。
五体全員が光っている床に叩きつけられ、痛がりながら倒れこんでいる。
「ちょっ……いきなりなんだ!?」
「剣を教える」
そう呟くと同時に、ゴブリンたちの首が胴体と別れて宙を舞った。
ちょっ!?
「おい!? 誰がゴブリン殺せと言った!? 剣を教えろって!?」
抗議の声をあげるとエイスは返事の代わりに、剣の切っ先をゴブリンたちの胴体に向けた。
するとなんとゴブリンたちは立ち上がっていた。先ほど宙を舞ったはずの首も繋がっている。
『蘇生陣で死んだ魔物は蘇るからのう』
ヴェルディの呟きと同時にエイスはゴブリンたちに突っ込んでいく。
構えた剣を振って再びゴブリンたちの首が宙を舞った。
だが胴体部分が光って再び首が生えてゴブリンたちは蘇る。
……もしかして、これ教導のつもりなんだろうか。
俺にはゴブリン大虐殺にしか見えないんだが。
「ゴブゥ!?」
「……斬り方」
ゴブリンが悲鳴をあげながら、胴体を斬られて倒れる。
「ゴブゴブゥ!?」
「……突き方」
ゴブリンが悲鳴をあげながら、心臓部を剣で突き刺され倒れる。
「ゴブゥゥ!?」
「……殺し方」
ゴブリンが悲鳴をあげながら、首を跳ね飛ばされる。
もはやいじめである。これ流石によろしくないだろ!?
スパルタとかいうレベルじゃない!
「待て!? いくらなんでもこれは……!」
「ゴブゥ!」
思わず止めようとした俺を制するように、ゴブリンが叫ぶ。
えっ、どうしたの。何で止めるんだ。
『ゴブリンとてわかっているのだ。これが己らを鍛えるためだと』
「……どう見てもイジメにしか見えないんだが……」
ヴェルディと話している間にもゴブリンが何度も死んでいく。
この部屋はゴブリンの悲鳴に満たされていくのだった。
……せめてうまい飯用意してやろう。
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