第7話 辻斬り少女
俺とライラは近くの町の広場にやって来ていた。
ヴェルディに路地裏に転移してもらって、無事に着いたというわけだ。
この世界に来てダンジョンからまともに外に出るのは初めて。
やはりというか町の住人たちの服や家も現代とは違う。ファンタジー、もしくは中世ヨーロッパ風の衣装や建築物だ。
鎧や武器などを装備して歩いている者もいる。
俺も外套の下に神龍の鎧を着こんでいるが目立たなさそうだ。
ちなみにこの鎧、並みの人間にはそこらの鎧に見えるらしい。
見られても基本的に大丈夫だそうだ。
「本当にファンタジーな世界だな……さて、とりあえず金を手に入れないと」
今の俺達は一文無しだ。
鞄にライラに白銀の剣や金銀など売れそうな物を造らせて、鞄にいれて持ってきているので金にしたい。
換金屋とかあるのだろうか。なければ商店か鍛冶屋に行けば売れるか?
何故かはわからないが、看板などの文字がなんて書いてあるか理解できる。
辺りを見回してみると『ルフト商店』の看板が立った建物がある……とりあえず入ってみるか。
扉を開き件の建物に入る。様々な雑貨が置かれた内装の、普通の商店のようだ。
「いらっしゃいませ……何かお探しですか?」
中を観察していると薄いひげを蓄えたおっさんが話しかけてくる。
他に誰もいないのを見るに店長だろう。
「ここは買い取りはやっているか? 売りたい物がある」
「腐らない物であれば買い取らせて頂きます」
俺は店長に白銀の剣を手渡す。
彼は受け取った剣をまじまじと見た後。
「これはいい物ですね。金貨十枚で買い取らせて頂きますがどうでしょうか?」
店長は笑みを浮かべている。
さて問題はこの剣の相場の値段がわからないことだが……まぁいいか。
とりあえず金貨十枚あれば買い物できるだろう。
「ならそれで買い取ってくれ」
「承知しました。貨幣袋はお持ちでしょうか? なければサービスでお渡ししますが」
「持ってない」
貨幣袋とはようは財布のことだろう。
店長から片手で持てる皮の袋を受け取り、中身が金貨十枚あることを確認する。
気が利く店主だ。少なくとも話し方なども丁寧だし。
「しかし白銀の剣とは……」
「なんだ? 何か問題があったか?」
「いえ、先日、新ダンジョンが見つかったと騒いでいた冒険者たちが言ってたのですよ。白銀の剣の手に入るダンジョンだと」
……あの宝箱盗っていった奴らか。
しかしもう町に戻ってきているのか? あいつらが帰ってからまだ二日も経っていないのだが。
すでに情報が広まっているのは喜ばしいことだが。
「もし本当ならば魅力的ですね。白銀は貴重ですから」
「そうだな。ところでそのダンジョンには調査とか入りそうか?」
「何やら貴重な宝が出たらしく、ギルドも本腰を入れて調査すると聞いてます」
……ライラ謹製の宝箱のことか。
意図せず凄まじく価値のあるモノにしてしまったのだが、結果オーライかもしれない。
「そうか、ありがとう。ちょっと店内の商品を見せてもらっても?」
「もちろんでございます。ごゆるりと」
目的は果たせたので店内の商品を物色する。
万屋のようで武器とか薬とか、様々な物が置いてある。
魔術のスクロールなどもありちょっと欲しい。
「ご主人様、この店の物なら私がもっといい物を作れますよ!」
「……ライラ、そういうことは言うな」
謎の対抗心を出すライラに注意する。
どう考えても店主はいい気はしないだろう。
気を悪くしていないかと確認するが、こちらを見て愛想笑いを浮かべている。
聞き流してくれているのだろう、やはりこの店主はいい人そうだ。
しばらく中の商品を見ていると、入口の扉が開いて外套を被った少女が入ってきた。
背丈を見るに十歳くらいだしお使いか何かだろうか。
少女は店主のほうへテクテクと歩いて話しかける。
「ルフト、新ダンジョンが見つかった。私は向かう」
「ああ、例の……そうだね。何やらかなり精巧の品が見つかったようだし、君の求める物もあるかもしれないね。何が必要だい?」
「ポーションと食料」
どうやら親しい仲のようで、店主と少女の間でスムーズに話が進んでいく。
あの十歳くらいの娘、どうやら冒険者のようだ。
あんな子供が魔物ひしめくダンジョンに潜るとは……。
ライラも見た目は中学生くらいで、人を握力で団子にする力を持ってはいるが……。
この少女が俺のダンジョンに来た時は、特に死なないように気を付けよう。
「……その白銀の剣は?」
「これかい? そこのお客様から買い取った物だよ。白銀だし結構いい出来だと思う」
「……違う。それは失敗作」
少女はそう呟くと俺のほうへと視線を向けた。
……ちなみにあの剣が失敗作なのは間違っていない。
ライラが中の上程度の白銀の剣を作るには、大失敗レベルで手を抜く必要があった。
彼女がまともに作れば特上の物が出来上がってしまうからだ。
そんなことを考えていると、少女がいつの間にか俺の目の前にいた。
頭のフードが外れて綺麗な銀髪の髪に目を奪われる。
「あの剣、どこで?」
俺を見上げる少女の目が赤く光り、まるでこちらが見降ろされているかのような圧力を感じる。
「主様!」
「待て! 大丈夫だ! あれは噂の新ダンジョンで手に入れた物だ」
ライラが武器を取り出そうとするのを手で制しながら口を開く。
嘘は言っていない。正確には手に入れたのではなく作ったのだが。
謎の少女は更に俺の全身を凝視し、謎の威圧感に冷や汗が出てくる。
しばらくするとライラへと目を移して、再び少しの間観察した後。
「貴方達、何者?」
「主様とライラです!」
「うん、名前を聞かれてるんじゃないから黙ろうな!」
素直に返答するライラにツッコミをいれる。
そもそも俺は名前ですらないが。
何故かわからないが俺達は、この銀髪少女に妙に目をつけられている。
あまり目立つのもよろしくないので、この場をうまく切り抜けないと……。
「…………斬れない」
目の前の少女が呟くと同時に、俺の外套の一部が切れて床へと落ちた。
その手には長剣を持っている……全く見えなかったがまさか斬られた!?
だが俺の身体に痛みはない。鎧が守ってくれたのだろうか。
「主様!? このぉ!」
ライラが巨大な槌を手元に呼び出して、銀髪の少女へと振るう。
だがそれを後ろに飛んで回避し、外れた槌が店の床に大穴をあけた。
「エイス!? 何をしているのですか!?」
「……その槌も、鎧も神級……もう一度聞く、貴方達は何者?」
ヤバイ。この少女ヤバイ。
今さっきの店主の言葉的に、エイスという名前だろうか。
てか完全に鎧の質バレてるんですが。あの駄龍、言ってることだいたい間違ってるじゃん。
この場をうまく切り抜けるのはもう無理だ、すでに斬りつけられている。
「待て! まずは話し合おうじゃないか! 剣ではなくお茶で!」
「……そ、そうだよエイス! いきなり斬りかかって無茶苦茶だ!」
店主も俺達とエイスの間に割って入り、擁護してくれている。
それを見た銀髪の少女は剣を鞘におさめた。
「……その装備、どこで手に入れた?」
エイスは赤く輝く目で俺を凝視する。
……そこらのダンジョンで拾ったと言ってもごまかせそうにない。
ため息をついた後、俺は観念することにした。
「その装備は作った。作成者はこのライラだ」
「そうです! このライラです!」
ライラが槌を構えて俺の前へと出てくる。
エイスは目をつむって何かを考えている。
俺は神龍装備で身を固めている、そう簡単にやられはしない。
……返答次第では戦いになると予想して腰の銃に手を付ける。
そんなしばらくの静寂を終わらせたのは。
「……お願いがある。魔を破る剣を作って欲しい」
「……は?」
そんなエイスの呟きだった。
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