第6話 今後の展望
風呂には入れなかったが、湯で身体を清めたのでダンジョン内部を改修することにした。
このダンジョンは一本道の洞窟で、一番奥にヴェルディの鎮座する大きな空間がある。
流石に一本道はどうかと思うので、もう少し枝分かれして空間を作ったりしたい。
ダンジョンコアの力でDPを使えばこの洞窟の構造を変えることが可能だ。
だが……DPが少ないので今は無理なのだが。
「何か罠とかないか。軽い火傷するくらいの温度の熱湯かけるのとか」
『……身を持って味わったからか』
あれ熱くて辛いからな……。
火傷は明日になったらヴェルディに癒してもらうつもりだ。
『そもそも熱湯ではなく溶岩でいいだろう』
「死人が出るだろうが!」
『それがどうした?』
「お前鬼畜……ってわけではないのか。ダンジョンだもんな」
よくよく考えればここはダンジョン。
RPGとか基準の考えなら冒険者が死ぬのはよくあること。
俺の考えの方が異端かもしれない。だが……。
「人を殺さなくてもDPは手に入るんだろ?」
『ダンジョン内、もしくはその付近に人間がいればその強さに応じてな』
つまりDPを稼ぐのに人を死なせる必要はない。
極論ならお化け屋敷みたいな感じにしてもいいのだ。
ようは人が入ってきて滞在してくれればいい。遊園地とかは無理でも人がいれば……。
「……ダンジョン、もしくはその近くに遊園地とか村とか。ようは人が常に集まるようにするか」
『面倒なことをするのう。普通にダンジョンにして、冒険者を殺せばいいじゃろ』
「俺が嫌なんだよ」
ワガママかもしれないが、人を殺した
昔の兵士ならそれが当然だったろうが、俺はそんな時代に生まれた人間ではない。
そんな俺の言葉にライラはバンと両手を叩き、強烈な衝撃と音を発生させる。
「ら、ライラ? やはりだめか……?」
「いえいえ! 主様の優しい考え素晴らしいと思います! 私も頑張ります!」
「お、おう」
……え、じゃあ今の意味ありげな衝撃は何で起こしたんだ。
てっきり反対されたり、真剣に何かを問われるのかと。
『ライラは普通に手を叩いただけじゃぞ。人は賛同する時に手を叩くじゃろ』
どうやらポンと手を叩いただけなようだ。
ライラ、恐ろしい娘。
「……俺、ライラには逆らわないでおく」
『ちなみに我はどうでもいい。我が主の意のままにやるがいい』
とりあえず全員の賛同は得られたので……あっ、ゴブリンのことを忘れていた。
口笛を鳴らすと五体のゴブリンがこの部屋に入ってきた。
これを基本的に彼らを呼ぶときの合図にしている。
彼らに話して通じるかは不明だが、簡単に先ほどの話を説明する。
「ゴブリンたち、俺はこのダンジョンで極力死人を出したくない。なので極力、殺さないで欲しい」
「「「「「ゴブゥ!」」」」」
ゴブリンたちは元気よく返事をしてきたので、たぶん通じたのだろう。
案外彼らは頭がいい。喋れはしないがこちらの言葉も理解している。
「よし。せっかくだし飯にするか。ダンジョンコアによって買える物が増えたし、美味い物を食おうか」
昨日まではまずい干し肉しか出せなかった。
だが今は地球の大抵の物が買える。しかもあまり高くない。
食べ物のラインナップのモニターを表示すると、コンビニ弁当が1DPで売っていたので人数分購入。
プラスチックの容器に入ったホカホカのから揚げ弁当が7つ、俺の目の前に用意された。
それをゴブリンたちに配る。ライラには細心の注意を払って渡した。
「よし。じゃあ頂きます」
備え付けの割りばしを使って弁当に箸をつける。
久々に食べた現代食めっちゃうまい。から揚げに米がここまでとは……!
他の面子の様子はというと。
「こ、これすごくおいしいです! なんですかこれ!?」
「ゴブゥ!? ゴブゴブ!」
ライラやゴブリンたちにも好評だ。
ゴブリンたちには道具を使うのは難しかったらしく、手づかみで食べているが。
ちなみにライラはプラスチックのフォークを使っている。
全員かなり気に入ったようで一心不乱に弁当を食べる。
……これ使えるかもな。レストラン的な感じで……いや流石にそれだけでは人は呼べないか?
『我が主よ。我も食いたいのだが』
「何も食べなくても大丈夫なんじゃないのか?」
『食べなくても生きていけるが、食いたいものは食いたい』
「わかったよ、なら次に動ける時に用意してやる……だが3つだけだぞ」
ヴェルディの身体の大きさでは、通常の量では絶対に足りない。
だがDPの使い過ぎはよくないのでケチる。
『ううむ、まぁよかろう。ところでな、結局ダンジョンをどうするかが見えぬのだが』
「通常のダンジョンに近い運営はする。でもDPを稼ぐメインはダンジョン内、もしくはその付近で人に滞在してもらう。理想は村、無理なら観光地にしたい」
ようはお宝の出るダンジョンを目玉にして、人の集合体を作りたいのだ。
可能かどうかは不明だが……。
『なぜかは知らんが、人間はダンジョンの近くに町を作ることも多い。不可能ではないだろうな』
「だいたい理由はわかる。ダンジョンに冒険者が入るなら、そいつら目当てに宿屋や酒場ができる。それなら食べ物とか売りに商人も来てって感じで集まって町になったんだろ」
ようはダンジョンは鉱山のようなものだ。
魔物やお宝を命をかけて発掘し、それを生業にする者が集まってくる場所。
なら鉱山集落ならぬ、ダンジョン集落をつくるのを目的にするか。
他のダンジョンが命をかけた鉱山ならば、俺のは危険度の低いものにしたい。
だが難しいのは魔物だ。冒険者は魔物を狩って素材を稼ぎにする。
ゴブリンたちに相手を殺さないように指示すれば、一方的にこちらだけ殺される。
それはかなり罪悪感がある。
魔物が生物でなければ遠慮なく行えるのだが……あ、そうだ。
「ゴーレムをこのダンジョンで出る魔物にするか。それなら元から生きてないし意識ないよな?」
『かなり高位のゴーレムならともかく、通常ならば意識などないな』
よし。ならゴーレムを召喚すればいいな。
モニターでゴーレム召喚に必要なDPを見る……100DPか、結構高いな。
「ゴーレム高いな……ゴブリンの十倍以上する」
『違う。ゴブリンが異常に安いのだ、他の魔物に比べて貧弱すぎるからな。数だけ集めてにぎやかしで置く程度の存在だ』
「ひどい扱いだなおい。なんか安く調達する方法ないのか? 百体まとめて買うと割引とか……」
空中モニターのゴーレム購入の画面を注意深く見る。
だが安売りキャンペーンとか、セット割引とかの類は記載がない。
残念ながら定価でしか買えないようだ。
「あのー……主様、ゴーレムなら作れますよ」
「まじか! 真にチートなのはライラだったか!」
このメイド服の美少女、まじで有能すぎる。
置物唾はきドラゴンよりよっぽど役に立つぞ!
「時間さえあれば神級のゴーレムも可能です!」
「おお! なんかわからないけど凄そうだな!」
『我とて稼働時間があれば、眷属の龍を大量に召喚できるぞ!』
「で、その龍って冒険者に手加減できるのか?」
『我の眷属じゃぞ? 並の冒険者など、軽く小突いただけで死ぬのに無理じゃ』
仮に動けても結局役に立たない件について。
ヴェルディは他のダンジョンが攻めてきた時の切り札用だな。
後は鉱山として素材になってもらえればいいや。
「よし! 目標も運営方法もふんわりとついた。なら次は……近くの町を見に行きたいが……三日かかるのがな」
町を作りたいなら、この世界の町がどんな感じか知っておく必要がある。
だが三日、往復で六日かかるのはきつい。
宝箱を盗っていった冒険者たち次第でもあるが、五日後くらいから他の冒険者たちがやってきてもおかしくない。
『案ずるな。我が転移魔法で行きも帰りも送ってやる』
「ナイス! 唾はくだけの置物じゃないなお前!」
『当たり前じゃろ!? 我は神龍じゃぞ!?』
準備を整えて近くの町に偵察に向かうことになった。
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