第4話 最初の客


 俺がこの洞窟にやってきてから三日目。

 ようやくダンジョンとしての用意が整った。

 ゴブリンや宝箱をそこらに配置しているだけなので、ゴミ……かなり難易度の低いダンジョンだが。

 しかしここで問題が発生した。


「一日待っても誰も来ないんだが」


 部屋に置かれているヴェルディに話しかける。

 こいつのいる部屋はダンジョン内で最も大きなスペースを取っている。

 全長二十メートルは洞窟内に入るサイズじゃないしな普通。


『この辺鄙な場所だ。ダンジョンができたことすら、把握されていないのであろう』

「そんなに辺鄙なのか……近くの町ってどれくらいかかる? あ、人間の歩く速度な」


 龍基準で考えられて、一瞬とか言いかねないので付け加えておく。

 ヴェルディはしばらく考え込んだ後。

 

『人の貧弱かつ空も飛べぬ移動ならばおそらく三日くらいだ』

「三日ってまじか……かなり場所悪いなここ」


 そりゃ誰も来ないわけだ。

 放っておいたら何年待っても気づかれない可能性もある。

 これは開店したことを宣伝する必要があるな……最寄りの町でビラ配りでもするか?


「一番近い町に行ってこのダンジョンの噂を広めるか」

「流石主様! 私もヴェルディ様もお供します!」

「いやヴェルディ来るの無理だし。仮に可能でも大騒ぎになるわ!」


 思わずライラにツッコミを入れる。

 町に巨大龍襲来とかもう台風とか天変地異の類だろ。

 そもそも一日十秒しか動けないのだから来るの無理だし。


『我は動けぬからな。しかし護衛なども必要ないだろう? 我が主はもはやそこらの人間では傷一つつけられんよ……我の尊い犠牲によってな』


 ヴェルディは若干のイヤミのように呟いた。

 今の俺はヴェルディの身体で作られた装備――神龍装備を全身に纏っている。

 並みの力では傷一つつけられないらしい。何なら鉄程度の剣とかなら、俺を攻撃した武器のほうがへし折れるくらいの強度と。

 武器も謹製の銃を装備しているしな、命中率低いが。

 しかもこの装備超軽いのだ、普段着と大して着心地変わらないくらい。


『だが……どうやら人間がやってきたようだぞ』


 ヴェルディの言葉を聞いて、空中にモニターを表示するとダンジョン入り口に人間がいた。

 人数は三人で入口付近でたむろしている。

 男は鎧を着た一人に軽装一人、そしてローブ姿の女が一人、戦士と野伏と魔法使いとかだろたぶん。


「おお! ラッキー!」


 こいつらをダンジョンに潜らせればDPが手に入る。

 ちなみにDPの獲得方法だが、大前提として人間がダンジョン内にいること。

 次に以下の内のどれかの条件を満たすとDPが手に入るらしい。

 一つ目、ダンジョン内で人間がしばらくの間滞在すること。

 二つ目、ダンジョン内で人間が死ぬこと。

 三つ目、ダンジョン内で人間が魔物を倒すこと。

 このどれかの条件を満たせばDPが生まれる。

 つまりは人間がダンジョン内にいてくれないと話が始まらないのだ。


「ふふふ……さあ入ってこい。中には宝がザクザクだぞ、今なら魔物もゴブリンだけだ!」


 モニターを監視していると、三人はダンジョン内へと入ってきた。

 とりあえず第一関門は突破だ。

 さっそくゴブリンでお出迎えをして、初心者ダンジョンという認識を植え付けて……。


『主よ、我が殺るか?』

「いじめか!? ここはラスボスクリア後の隠しダンジョンじゃねぇんだよ!」

 

 辺鄙な場所の小さなダンジョンには、神龍が眠っていました。

 なんて初心者殺しとかいうレベルではない。というか超上級者でも死ぬ。

 

「そもそも殺したらダメだ。ほどほどにいい思いをして、無事に町まで帰らせる」

『DPがあまり手に入らないぞ?』

「これは初期投資だ。こいつらにこのダンジョンを宣伝してもらう」


 ゴブリンしか出ないのに、ライラが作ったそこそこの金属武器などが手に入るダンジョン。

 噂になれば人がそれなりに集まってくるだろう。

 わざわざ達成感を得てもらうために、武器の入った宝箱ガワまで作らせたのだから。

 そこらに落ちた物拾うよりも、宝箱から手に入れたほうがきっと気分いいし。


「ライラ、宝の準備はできているな!」

「はい! ご要望通り、そこそこの剣を作って配置しました!」


 俺はダンジョンを進んでいく三人組を、楽しく観察していた。




~~~~~



「気をつけろよ。聞いたこともないダンジョンだ、何の魔物が出てくるかもわからん」

「分かってるよ、常に警戒してる」


 しばらく迷ったが俺達は未知のダンジョンへと入ることにした。

 未発見のダンジョンはものすごく美味いのだ。

 発見したら冒険者ギルドに報告の義務があるが、最初に偵察で入る分には許されている。

 そして荒らされていないダンジョンはいいお宝も手に入りやすい。

 俺達はこれでも冒険者としては中堅に入りかけている。不測の事態があっても最悪逃げ出すくらいはできるはずだ。


「……前方に敵あり」


 盗賊の男が警告してから数秒後、ゴブリンが二匹目の前に現れた。

 ただの雑魚魔物だが……。


「お、おい……あのゴブリンどもが持ってる剣……上等そうに見えるんだが」

「ありゃ白金製だぞ!? なんでゴブリンなんかが……だがチャンスだ」


 剣を構えるがゴブリンたちはダンジョンの奥へと逃げだしていく。


「!? 逃がすな! あの剣を手に入れるだけでも、かなりの大儲けだ!」


 虚を突かれた後、逃げたゴブリンたちを追うが見失ってしまう。

 まさかゴブリンが逃げ出すなどとは思わなかった……せっかくのお宝が……。

 

「大丈夫だ。あいつら足跡をくっきり残してる」


 盗賊が地面を観察し呟くと歩き出す。

 そしてしばらく歩くと……。


「宝箱……!? しかも何て精巧な造りだ……」

 

 これ見よがしに黄金に輝く大きな宝箱を発見した。

 あまりに露骨すぎて周りを警戒してしまう。何か罠があるのではないかと。


「わ、罠か……?」

「いや特に罠の類はなさそうだ……それに箱に鍵もついてねぇ……開けるぜ」


 盗賊が気を張りつつ宝箱に近づきフタを開いた。

 これほどの箱に入ったお宝、いったいどんな物かと胸が躍る。

 そして中にはなんと……先ほどのゴブリンが持っていたのと同じ剣が入っていた。


「……ええぇぇぇ。これだけ豪華な宝箱なのに、中身は白金製の剣一本か……いや十分お宝なんだが……」

「なんてケチくさい……金銀宝石くらいは入ってるかと」


 盗賊も魔法使いも思わずため息をつく。

 いや白金の剣は十分貴重だ。かなりの高値で大当たりの品物だ。

 だがこの極めて精巧かつ豪華な造りの箱の中身としては……。


「てかこれ、たぶん箱のほうが……てか箱がかなり高く売れるのでは?」

「……言われてみればそうね!? 持って帰りましょう!」

「確かに! この箱が宝だったか!」


 黄金に輝き、よくわからない奇怪な紋様が精巧に彫られた箱。

 貴族に高く売れそうだ。

 

「よし。これで俺達も大金持ちだ! 箱を持って帰るぞ!」

「白金の剣はどうする? 大剣だし持って帰るのは骨が折れるぜ」

「しかたない。そちらは捨てていくぞ」


 俺達は箱を持ってダンジョンの入り口へと戻っていく。

 これを持って帰れば俺達は大金持ちだ。しばらくは食うに困らない。

 危険をおかして未知のダンジョンに潜ったかいがあった。






~~~~~



 ほくほく顔でダンジョンの入り口へ戻っていく冒険者たち。

 ゴブリンたちに宝まで誘導させて持ち帰らせるのには成功した、だが一つ大きな失敗を犯した。

 その様子をモニターで監視しつつ、俺はライラへと視線を向けた。


「……ライラ、俺がお前に武器のランクを落とさせた理由を覚えているか?」

「あまり貴重すぎるお宝が出ると、他のダンジョンマスターに警戒されるからです! なので主様の指示通り、白金の剣と宝箱を作りました!」


 ライラが一片の曇りもなく笑顔で返事する。

 うん、確かに俺は白金の剣と宝箱を作れと言った。

 宝箱に関しては一切注文をしなかった……ライラに任せた俺が悪いのか。

 だってまさかそんな超豪華な宝箱作るとか思わないじゃん。

 職人魂が燃えてしまったのだろうか。

 てか冒険者どもも宝箱持って帰るなよ。ゲームでも宝箱って開けて置いておくものじゃん。

 しかもせっかくの白金の剣捨てるんじゃねぇ。

 

『まあ宝箱程度ならば……目も付けられんとは思うが。望むならば我が殺すが?』

「……いいよ。結果的に宣伝にはなるだろうし」


 次に人呼ぶのも大変だろうし、多少の危険には目をつむろう。

 とりあえずこれであの三人が宣伝してくれれば、このダンジョンの存在が広まるはず。

 それに僅かだが冒険者たちが滞在したことでDPが手に入った。

 今後はライラへの指示は詳細にしないとな……手抜きしない職人のようだし。

 

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