第3話 神龍鉱山
『待て! 我の鱗や牙は貴重品だぞ!? オリハルコンすら軽く両断する武器すら作れるのだぞ!?』
「完璧じゃねぇか。このダンジョンの目玉に」
うちのダンジョンに人を呼ぶための特産品。それはヴェルディの身体である。
鱗に牙に爪に貴重そうな物ばかりだ。
ゲームでも竜のあれそれって貴重だもんな、ましてや神龍なのだから。
『待てと言っている! この我の鱗なんぞをダンジョンに置いたら、あまりの貴重さに他の迷宮主がこのダンジョンを狙ってくるぞ!』
「あー……それはよろしくないな」
無理やり埋め込まれた知識によると、俺のほかにもダンジョンと迷宮主はかなりいるらしい。
最終的にそいつらと戦うために人をダンジョンに集めるのだが。
まだ防衛も整っていない状態で目をつけられるのはよろしくない。
『故に我の身体をダンジョンの宝にするなど無理だ』
「ライラ。ヴェルディの鱗とかを、そこらの上等な金属程度にランクダウンさせられるか? それと神龍装備とか作れる?」
「どちらもお任せください!」
ライラが貧相な胸を勢いよく叩いて、げほげほとむせた。
鍛冶能力は超一流なだけあるな、知力2だけど。
「よかったなヴェルディ。動けない時も役に立つぞ」
『くっ……この我が素材扱いとは……』
俺は全長二十メートルはあるかというヴェルディの身体を見る。
もはや小さな鉱山のようなものだ。掘れば掘るほど希少金属が出てくる類の。
……待てよ、いいことを思いついた。
「ゴブリンたちに神龍装備つければ強くなるんじゃね」
「凄いですご主人様! 天才です!」
『わ、我の身体で作られた装備がゴブリンなんぞに……』
ヴェルディがものすごく嫌そうに呟いた。
いくら弱いゴブリンでも神龍の剣や鎧を纏えば強くなるだろう。
おそらく素の戦闘力が5なら、200くらいにはなるのではなかろうか。
「じゃあこれから毎日鱗とか発掘……じゃなくて回収するから」
『発掘と言ったな!?』
「細かいことは気にするな、図体でかいんだから。じゃあライラ、さっそく発掘頼むわ」
「お任せください!」
ライラが俺の指示に従って、ヴェルディの背中部分に近づく。
そして手に持った槌を強固な鱗の張り付いた背に力いっぱい叩きつける。
凄まじい轟音と共に衝撃が発生し、その余波で俺は一メートルくらい後ろに飛ばされてしまった。
『ぐおお……少しは加減せんか! 貴様の全力は我でもそれなりに痛いのだぞ!』
「ごめんなさい! でも硬いのでこれくらいしないと取れませんから!」
先ほどの一振りによって、ライラの足元付近には砕けた鱗が散らばっている。
それを彼女はかき集めて袋へといれていく。
どうやら無事に鱗を採取することが出来たようで、ライラは満足げな顔を浮かべている。
「これで主様の防具を作りますね! ヴェルディさん、次は爪と牙を砕きますね!」
『待て! この上、さらに砕くと申すか!? 言っておくが先ほどもかなりの激痛なのだぞ!?』
神龍と言えども苦痛なようで悲鳴をあげるヴェルディ。
それに対してライラはにっこりを笑みを浮かべる。
「大丈夫です。手加減……は出来ませんけど全力でやりますから!」
『手を抜けと言っておるのだ! 最小限の力でやらぬか馬鹿者!』
それは無理な注文だ、ヴェルディ。相手は知力2だ。
ライラが槌を振るうたびに神龍の情けない悲鳴が洞窟に木霊した。
しばらくして必要な素材を全て回収し終えた後。
『がはっ……これならば勇者の剣で斬られたほうがマシだ……』
もはや心魂尽き果てたというような声のヴェルディ。
……完全に土木工事の要領で、手加減無用に叩かれまくってたからなぁ。
行った張本人のライラは腕で額の汗をぬぐいつつ口を開く。
「とりあえず今日はこれで。明日もよろしくお願いしますね」
『まだ採ると申すか!? 我の身体を何だと思っている!?』
「伝説の鉱物が簡単に採取できる鉱山です!」
『我は神龍であって鉱山ではないぞ!?』
やはりライラはヴェルディを鉱山の類と見ていたようだ。
……冗談抜きで全力全霊を持って槌振ってたもんなぁ。
でも命令したの俺だから強く言えない。我慢してくれヴェルディ。
今後のダンジョン経営に必要なことなのだけは間違いないのだから。
ちなみに砕かれた部分の鱗や牙はすでに再生している。
俺が設定した自動再生の能力は存在するようだ。これなら毎日採取できるな。
「まずは主様の防具を作りますね。それから主様の武器を作って、その後は主様の王冠とマントを作って……」
『「王冠とマントは必要ない」』
採取した素材を確認しつつ呟くライラにツッコミを入れる。
浪費するのはやめたげようよ、ヴェルディが泣いちゃう。
「ちなみに防具と武器はどんな物がいいですか? 鎧とかローブとか、ハンマーとか剣とか。ご要望次第で何でもお任せください!」
武器か……何がいいんだろうな。
俺は武術とかやったことないので、全て素人みたいなものだ。
それに腕力に自信もない、あまり重い武器を振り回すのは難しそうである。
「銃……とか無理だよな。ファンタジーワールドで作れるわけが……」
「銃ですね、お任せください!」
「できるのか!? そんなファンタジーに喧嘩売るような武器が!?」
『この世界に存在はしないがライラならば作れる』
まじでか。あんな複雑な装置を知力2……いやライラが作れるなんて。
だが銃が作れるならばものすごく大きい。俺の戦力が百倍くらい変わりそうだ。
おそらく剣だと戦力1が関の山だった。
『だが凝った銃は無理だろうな。最初のうちは拳銃くらいしか作れぬ』
「そうですね……申し訳ありません。本当ならショットガンくらいは……」
ライラが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
むしろこちらが感謝せねばならないレベルなのに。
俺は思わず彼女の両手を掴んだ。
「いやもう十分すぎるから! むしろライラ様と呼ばせてください」
ダメ元で言ったことがかなえられたのだ。
この美少女最高かよ。知力2とか言って本当悪かった。
今後はライラ様と呼ばせていただくくらいの気持ちで……なんか両手がめっちゃ痛い。
ちょっと力を抜いて欲しいと言おうとすると、彼女は泣きながら両手を上下に振り回す。
俺は紙切れのように空中を上下に浮かされ、何度も身体を地面に叩きつけられる。
「ぬ、主様……! 私感激です!」
「ま、待て!? 腕はそっちには曲がらない!? あっ……」
『やめんか馬鹿者!? 我が主を再び殺す気か!?』
最後にヴェルディの呟きが聞こえつつ、俺は意識を失った。
再び意識を取り戻すと、ライラが十メートル離れた場所で正座していた。
「ひっく……申し訳ございません、主様ぁ……」
『我が主よ、しばらくはライラに近づくな。いいな?』
「そ、そうだな……もう少しお互いに理解してからで……主に力加減を……」
どうやらまた死んでいたようだ。
今回の件は俺にも非はある、迂闊にライラに触れるのは控えよう。
見た目は細腕の美少女だがその実態はゴリラすら裸足で逃げだす怪力だ。
しかしダンジョン運営前にすでに二回死んでいるんだが、今後どうなってしまうんだろうか。
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