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僕はたたみかける。
「君はメリンダを殺すのに重力調整装置を使ったんだろ? この森林用地のなかでは、樹木の生育やコスト削減のため、建物の外は月重力に保たれてる。各コテージのなかにのみ小型重力装置が設置されてる。
僕の友人のエドは重力装置のエンジニアなんだ。だから、いろいろ教えてもらったよ。この小型の装置は国の規格基準法で定められた標準型。0.5Gから1.5Gまでの重力しか加えられない。本体とリモコンの両方で操作可能。装置じたいは月重力下で十キロ弱。大きさはレンガ一枚ぶん。カバンに隠して持ち運べるよね。ふだんはコテージの自家発電機から電力をひいてるけど、市販の小型発電機や電池でも動かせる。
それで思いだしたんだけど、君たちの部屋って、パソコン何台も持ちこんで贅沢してた。あれ、備えつけの発電機だけじゃ電力まかなえないよね? つまり、君たちの部屋には小型発電機が常備されてる。じっさい、さっき見に行ったら、すごくコンパクトで高性能の小型発電機があった。あれなら重力装置とあわせても、たいした荷物じゃない」
ニコラはすっかり静かになってしまった。とりあえず僕に話させて、反撃の機会をうかがうつもりなのかもしれない。
「この時点でメリンダ殺しが可能なのは、小型発電機を所持している君たち一号コテージの誰かってことになる。森林内に持ちこむ荷物はすべてチェックされるから、君たち以外の泊まり客が小型発電機を所持していないことは記録にも残ってる」
ニコラが無言のままなので、僕は続ける。
「エドにも指摘されたけど、重力装置を持ちだすと、そのあいだ、コテージのなかは月重力になってしまう。君たちのコテージは研究のために夜ふかしが多かった。仲間内の誰にも気づかれずに、重力装置を持ちだすことは不可能だ。
そうなると、どこか、よそのコテージの装置を盗みだすしかない。コテージには何棟か空きがある。そこから拝借すればいい。とは言え、空室には鍵がかかっていて、その鍵は管理人が持ってる。まずは鍵を盗まないと。
ところが管理人は鍵を盗まれたことはないと断言している。鍵の保管庫は管理人の生体認証でしかあけられないんだ。
だから、ほら、君しかいないんだよ。メリンダを殺すことができたのは。今、ここに宿泊してる客のなかで、念動力を有してるのは、君とユーベルだけなんだ。
君は抜群のコントロールのPKで、空室の窓の掛け金を外し、室内に侵入した。重力装置を借りた君は、カバンか何かにそれを隠す。当然のことながら、この時点では重力装置の電源は切ってある。メリンダを殺す予定地に、そのカバンを事前に持っていっておいた。
そのあと、君はメリンダを夜中のデートに誘いだす。『ごめんよ、僕が間違ってた。仲なおりしてほしい』と言えば、彼女は喜んでついてきたと思う。君は歩きながら言うんだ。『あっ、しまった。昼間、散歩に出たとき、カバンを忘れてきたんだ。大事なものが入ってるから、とりに行こう』ってね。そして、まんまと君はメリンダを殺害現場へつれていく」
口をへの字にまげて、無反応になっていたニコラが、とつぜん反論を始める。
「でも、ユーベルちゃんはトリプルAなんでしょ? 僕だけじゃない。窓の掛け金を外して重力装置を持ちだすことができたのは、あの子だって同じだ。小型発電機だって僕らのところから盗める」
僕は悲しくなった。
やっぱりニコラは、ユーベルの能力が好きなんであって、ユーベル自身を好きなわけじゃないんだ。いくら罪を逃れたいからって、ユーベルのせいにするなんて。
僕はため息をつく。
「能力的な問題だけなら、そうなるね。でも、心理的な面で、それはできないんだ。たしかに、君に別れ話を持ちかけられたメリンダが、女同士で決着をつけようとユーベルに言われたら、どこへでもついていくと思うよ。だけど、ユーベルが『ちょっと、あそこで話しましょう』と言ったところで、メリンダは応じなかった。だって、不自然すぎる」
僕は視線を湖面から空へと移した。空にとても近い場所へ。僕のながめるさきを目で追ったニコラは、ふたたび黙りこむ。
僕たち二人の視界には、ひろがる樹海のなか、一本だけ突出して背の高い木がある。大きなものだと百メートルにも達するというセコイア杉だ。ほかの木々を
「メリンダのほんとの殺害現場って、あそこでしょ? のぼって二人で星を見ようと、恋人のあなたなら言えるけど、ユーベルがどう誘ったって、メリンダはついてきてくれません。あなたはあの木の根元に、事前にリュックを置いといた。これ君にあげるよとかなんか、うまいこと言って、それをメリンダに背負わせた。リュックなら途中でおかしいと思っても、すぐにとりはずしができない。
そのあと、あなたは彼女といっしょに、あの大木にのぼった。どうしてかと言うと、小型の重力装置で出せる重力は最大1.5Gまでだから。装置の重さは小型発電機こみにして、月重力で十二キロほど。つまり、重力装置の最大出力時で百キロ弱。うつぶせになったメリンダの上に装置を乗せて電源を入れたとしても、百キロで人体を
残る手段は一つです。いっしょにあの大木にあがり、充分な高さに達したところで、つきおとす。直後に重力装置の電源をリモコンで入れれば、彼女自身の体重と重力装置の重さで……」
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