3—3
「磁場ねぇ。悪いけど何も感じなかったよ」
「そうか」
トリプルAランクの超能力者がパワー全開で能力を使うと、放出された大量のESP電荷によって、近隣の電磁波に乱れが生じるらしいけど、そのことを言ってるんだろうか? ユーベルが念動力を使ったから、磁場が乱れたと?
でも、こう言っちゃなんだけど、人間の内部をめちゃくちゃに破壊するのは、たしかに凄まじい力ではある。でも、それがトリプルAランク者の全能力かと言えば疑問だ。
以前、ユーベルが起こした崩落事故現場を見たことがある。爆撃のあとかと思ったほどだ。人間一人を破壊するためなら、あの力の百分の一で事足りる。磁場が乱れるほどじゃなかっただろう。
それに、もう一つ気になる。
「なんでメリンダだけなんだろう? 同じ犯人がメリンダとレマ・フィッシャー二人を殺したんだとしたら、レマのときにも磁場の狂いが記録されたはず。片方でしか起こらないなんて、おかしいよ」
すると、ダグレスはさらりと言った。
「変ではないだろう。犯行が同一犯によるものでなければ」
もしかして、これは僕にヒントをくれたんだろうか?
(メリンダとレマを殺したのは別人? それだと、僕の考えにも符号する)
たぶん、ダグレスはジョナサンの話を聞いて、僕と同じ推理をしたのだ。
「ありがとう。すごく参考になった」
僕は急いで二号コテージにかけもどった。反重力装置のエンジニアであるエドに、専門のレクチャーをたっぷりと受けるために。
*
その夜、夕食のあとに、ダグレスが僕らのコテージをおとずれた。当然、昼間の話の続きをするためだ。
ダグレスは僕がたのんでいたことを、ちゃんと調べてくれていた。その情報の見返りに、僕からの情報提供を求められた。ギブアンドテイクは正しく行われた。
「メリンダ殺害に重力装置が使われたのではないかとは、私たち警察も考えていた。だから今日、実験を試みたんだ」
「うまくいった?」
「ええ、まあ、ほぼね。ただこのやりかただと、被害者をかなり巧みに誘導しなければ犯行は不可能だが」
「メリンダを殺すことができたのは一人しかいないんだ。能力的にもだけど、心理的な面で」
僕たちの考えは一致した。
僕の寝室に二人でこもり、内密の話をしていたのだが、「じゃあ」と言って、ダグレスが出ていきそうになった。僕はあわてて呼びとめる。
「お願いがあるんだ。あの人を逮捕するとき、ほかの刑事は遠ざけておいてほしい」
「なぜ?」
僕は迷った。が、ここはもうしょうがない。僕が持ってる極秘情報の一部を白状しようじゃないか。
「もちろん、その人の口からユーベルの秘密がもれないためにだよ。君は気づいてるみたいだから言うんだけど」
「私の心を読んだのか?」
ダグレスは怒ったようだ。
僕は急いで首をふった。
「違う。ユーベルに相談されたんだよ。君に問いつめられたけど、どうしようって」
ほんとに相談してくれてたら、ユーベルの精神状態があそこまで追いつめられることもなかったかもしれない。そう思うと悔しさに胸が痛む。
ダグレスは納得したらしく、ため息をついてうなずいた。
「では、担当医の君が認めるんだね? あの子が三年前、世界中をさわがせた、エンデュミオンだと」
「君と僕のあいだにある友情を信じていいのなら、認めるよ」
「ズルイ言いかたをするじゃないか。あの子から聞いたなら、私がユーベルを殺人犯ではないかと疑っていることは知っているだろう? メリンダ事件が解決しても、ほかの事件は謎のままだ。あの子が犯人ではないとは断言できない」
「ウォーレンさんはナタで殺された。ヨアヒムが襲われたことと考えあわせれば、メリンダと同じ犯人だと思う。なんでヨアヒムが襲われたのか、それだけがほかの殺人からかけ離れすぎて、ひっかかってた。けど、動機がわかれば単純なことだ」
「だが、レマ・フィッシャーは?」
そう。どうしても、それだけが解けない。レマ殺しがイジメの報復としてユーベルのしたことでないと、まだ明言できない。
「僕が必ず証明する。ユーベルが犯人じゃないって。だから、もう少し、僕に
僕が真剣に見つめると、ダグレスはふいに張りつめていた糸が切れたみたいに笑いだした。
「君にそんなふうに頼まれたら、イヤだとは言えない。わかった。明日には逮捕令状がとれる。君が強力してくれるなら、私のほかのメンバーは、君の指定する人物だけで固めよう」
「じゃあ、ヨアヒムと君と僕で。ヨアヒムがISGだってことは知ってるんだろ? ほかにもゴシップ記者のふりして、何人かISGがいる。君と捜査の協力しあってる」
ダグレスは苦笑した。
「なんでも知ってるね。だけど、記者にまじってるのはインターポールの刑事で、ISGじゃない。では、明日は君の言う三人で」
ダグレスと相談して、僕は夜のうちに、ある人物にメールを送った。僕では呼びだせないから、ユーベルの名前を借りて。明日、湖のほとりで待っていると。
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