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あ、この人、サリーと同じだ。そういえば、ふんいきも少し似てるかも。
そう思うと、急に親近感がわいてくる。
「そうなんだ。ヨアヒムって、けっこう楽しい人だね」
「やっと気づいてくれた?」
「うん。フレークおかわりくれたら、もっと好きになるかも」
その日は一日、ヨアヒムにひっついてた。
ヨアヒムは朝夕の敷地内の巡回と、樹木の育成状況の調査以外は自由なので、いっしょに人造湖で釣りをしたり、釣った魚で作ったランチをご馳走になったりして、のんびりすごした。料理は絶品だし、それになんだか知らないけど、この人といると、ちょっと落ちつくんだよね。やっぱり、サリーに似てるからかな。
「お姫様。そろそろ夕方だけど、自分のコテージに帰らなくてもいいの?」
「いいよ。ぼく、帰りたくない。こっちに泊まったらダメ?」
「そりゃ君みたいに可愛い子に言われたら断れないさ。ま、君の彼氏には、いい薬になったんじゃないかな。いちおう電話で知らせておこう」
ぼくはそのまま、ヨアヒムのコテージに泊まりこんだ。ヨアヒムは今さら、すごく紳士。ぼくを空室になってる寝室につれていった。
「ぼく、夜中にさみしくなったら、そっちのベッドに行くからね」
「それはよしたほうがいいんじゃない? おれは花嫁さんには結婚するまで手をつけないタイプなんだ。古風だろ?」
「ウソつき。じゃあ、この前のことは?」
ヨアヒムはニヤニヤ笑いだす。
そこ、笑うとこかな?
「まあ、修行がたりなかったってことで」
ヨアヒムのシャツをパジャマがわりに借りて、ぼくは真新しいシーツにとりかえたばかりのベッドによこたわった。寝られるか心配だったけど、いつのまにか眠っていた。
「さっさと出ろ。十四号」
とつぜん、冷たい声で命じられる。
ぼくは自分がどこにいるのか、一瞬、わからなかった。
合金の壁でかこまれた、せまい牢獄のなか。この前の夢の続きを見ているのだと、やっとわかった。
牢獄の外から見おろしてるのは、気密服みたいなものを着た二人の男。レーザーの照準をピタリとぼくにあわせている。
ぼくはこみあげてくる恐怖を、そのまま言葉にして吐きだした。
「イヤだ! 死にたくないッ。来ないで。ぼくを殺さないで!」
ぼくは体を伸ばして眠ることもできないスペースで、できるかぎり奥へ逃げこんだ。男たちは舌打ちして顔を見あわせると、一方がもう一方にアゴをしゃくった。一人は銃をおろして、先端に輪のついた棒のようなものを身構えた。
それがなんなのか、ぼくは知っていた。誰かがわめいたり、命令に逆らったときに首につけられる枷だ。言うことをきかないと、容赦なく電流が流される。
「イヤだ! 助けてッ。殺さないで!」
ぼくは必死になって首をふった。だけど、取り乱した囚人のあつかいに、男たちはなれている。抵抗もむなしく首枷をつけられ、電気を流された。自分の口から人間のものとは思えない悲鳴があがるのを、ぼくはどこか遠くのほうで聞いている気がした。
もうろうとするぼくを、看守は首枷についた棒を持って独房からつれだす。そのまま、犬のように廊下をひきずられていった。
廊下のさきには厳重に電子ロックされたハッチがかまえている。ハッチは何重にもなっていて、あいだの殺菌室を通りすぎると、そのさきにあるのはラボだ。ぼくもこれまで何度もそこへつれだされ、さまざまな苦痛をともなう実験や検査をされた。
だが、今回はいつもと違うことを、ぼくはすでに知っていた。今度こそ、ぼくはアレをやられてしまうのだ。もうおしまいだ。ぼくも、これまで死んだ多くの仲間と同様、ついに恐ろしい研究の実験台となって命を落とすんだ。
(たった一度でいい。青い空をこの目で見たかった。ぼくがもし、ふつうに生まれてきた子どもだったなら……)
ここを逃げだしたい。それが叶わないなら、せめて、あの夢の続きを見たい。幸福な、あの夢……。
ハッチが次々にひらいていく。目の前にラボの白い光が広がった。
ぼくは即座に手術台に固定された。気密服を着た研究員が数人、ぼくをとりかこんでいた。ぼくの脳波や血圧などの数値を見ながらうなずく。
「始めよう」
くぐもった声が、ぼくの死刑を宣告した。
研究員の一人がガラスのピストルみたいな形の注射器をとりだす。内部におさまったアンプルの液体が、淡いピンク色にゆれている。以前、ぼくの目の前で死んだ仲間から聞いたのと同じ薬……。
「イヤだ! まだ死にたくない。あんな……あんな死にかたしたくない!」
ぼくは叫んだ。だが、すぐに舌をかまないための器具をはめられた。
「血圧、上昇しています」
「脳波、危険域」
「十四号の超能力レベルは?」
「装置の処理内です。問題ありません」
「よし。注入だ」
早口の言葉が、ぼくの上をとびかう。
ぼくの腕に注射器が押しつけられた。死の液体は、ゆっくりと、ぼくのなかに侵入してきた。
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