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メリンダはやっぱり死体で見つかった。見つけたのは、ぼくとタクミだ。なんでこう、ぼくらばっかり見つけるんだか。
裏手のほうはデメテルシティーの北側に通じるだけで、森の施設やコテージは一軒もない。宿泊客は通らない場所だ。どうせ散歩するなら、きれいな人造湖や展望台のある中央へまわるしね。
ただ、森と町の境界は電磁シールドがあるだけだから、メリンダはそこをつっきってデメテルへ行こうとしたんだとも考えられる。
メリンダの死体は木と木のあいだにうつぶせになってころがっていた。体の下から出血しているようだが、フィッシャーの死体ほど全身、血まみれって感じじゃなかった。死顔も見なくてすんだから、ラッキー。
タクミが死体の首に手をあてて死亡を確認した。大学生やダグレスたち刑事を、エンパシーで現場に誘導する。
そのあとはいつもどおりの現場検証。
デメテルから警察の応援が呼ばれて、ぼくらは事情を聞かれた。
ニコラは嘆くし(なら、ふるなよ)、ダグレスはぼくにキツイ。
たぶん、骨が折れてるんだろう。この前の死体より手足があっちこっちむいてる気はしたけど、似たような死亡状況なので、警察は同一犯の線で捜査していくようだった。
昼前まで刑事につかまって、ぼくとタクミが二号コテージに帰ったときには、昼食の用意が整っていた。チャーハンと中華スープとカニ玉だ。ぼくの好物のカニ玉。エミリーは料理上手だなぁ。ダグレスがうらやましい。
ぼくがぺろりとたいらげるよこで、大人たちは浮かない顔つきで、今後について話しだす。タクミも腕を組んで神妙な口調だ。
「困ったことになったよね。今日は夕方からミシェルとノーマが来る予定だったけど、危ないから来るなって言っとこう」
そうか。今日は週末か。
「それ言うなら、エミリーとシェリルも危ないだろ。女の子だけでも、さきに帰したほうがいいんじゃないの?」と、ジャン。
「警察が帰してくれるかなぁ」
「シェリルん家、近いだろ。夜だけでも女の子たち、泊まらせてもらえばいい。警察もそれくらいならゆるしてくれるだろ」
シェリルがうなずいた。
「それがいいわ。うちなら大丈夫。なんたって農家よ。都会のワンルームみたいな窮屈な思いさせないから。エミリーも、ユーベルも、そのほうが安心よね?」
えっ? ぼくもなの?
「ぼくはいいよ。変な人が近づいてきたら、エンパシーでわかるから」
ぼくは反論したけど、エミリーが不安そうに反対する。
「でも、ユーベルはBランクでしょ? ダグレスもそうだけど、ふだんはずっと制御ピアスしてるじゃない」
うーん。心配してくれるのはありがたいんだけど、もどかしいよ。ほんとはトリプルAなのに。制御ピアス一対つけてたって、ぜんぜん平気でエンパシー使えるんだけど。
ぼくはタクミと離れたくないから、困ってタクミを見る。タクミもなんだか、すごく困ったような顔をしていた。
「ユーベルは制御ピアス外してたらどうだろう? それに……一人にはさせないよう、僕も注意するからさ」
そう言いながら、ほんとは気が進まないように、しかめっつらしてる。どういうわけ? ほんとは、ぼくの世話焼くのがめんどくさいの?
ジャンは即座に首をふる。
「帰したほうがいいぜ。万一ってとき、後悔すんだから」
でも、だまりこんでいたマーティンが大きな手をあげて制した。
「まあいいさ。タクミは腕におぼえがあるんだろ。女の子の一人くらい守ってみせるさ」
タクミが責められているような顔で泣きそうになる。
「うん……まあ、僕、ちょっと用があるから」
逃げだすように外へ出ていってしまった。
ぼくはピンと来たね。
タクミの朝の奇妙な散歩と関係あるかもしれない。
ぼくは食べたあとのお皿をキッチンへ持っていくふりをして、窓からコテージをぬけだした。
タクミのあとを追って走りかけていると、森の小径から目立つ青い髪がやってきた。いや、髪が歩くわけないんだけどさ。つまり、ルナがママとマネージャーをひきつれて、こっちに近づいてきた。
「トウドウ先生は?」
ルナはハローも言わず、いきなりたずねてきた。ムカッとしたけど、顔色は悪いような?
「何か用?」
「ちょっと……思いだしたことがあって。相談に乗ってもらいたいんだけど」
「今、出てったよ」
ルナはつれの大人たちと話しあって、ぼくらのコテージで待つことにしたらしかった。
ぼくは急いで、タクミのあとを追った。けど、差をつけられちゃったなぁ。いっしょうけんめい走るんだけど、まるっきり、タクミの姿が見えない。
もう、ルナが呼びとめるからだ。恨むからな。
ぼくがあきらめかけたころ、森のどこかから変な音が聞こえてきた。カツン、カツンと、キツツキが木をつついてるような音。
でも、この森にはキツツキはいない。樹木を傷つける動物は持ちこまれていないのだ。月は住環境を整えるときに、そういうところ、厳重にコントロールされてる。ぼくがキツツキを見たのはサファリパークのなかだ。
キツツキじゃないとすると、なんの音だろう?
気味が悪くなって、ぼくは周囲をうかがった。
「……誰かいるの?」
声をかけてみる。
一瞬、音がやんだ。
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