6—2
「やあ、盛りあがってますね。近くで見ると衣装も凝ってるんだなぁ」とか、見えすいたお世辞を、ニコラが言う。
エミリーが休憩にしましょうと気をつかった。
この日は水曜日。
ミシェルとノーマはいない。なので、エミリーとシェリルが二人で、お茶の支度のためにコテージへ歩いていく。
こういうとき、タクミ好みのヤマトナデシコらしく、エミリーたちの手伝いをすべきか、それともライバルのルナがタクミにあつかましくしないよう見張ってるべきか、僕は迷う。
迷ってるときに、誰かがぼくの肩をうしろからつかんだ。
ビックリして見ると、いつのまにか、ダグレスが来ていた。そのまま、ぼくをみんなから離れた木立ちのなかへつれていく。
ぼくはみんながゾロゾロ二号コテージへ入っていくのを、恨みがましく見つめた。
もう、タクミったら気づいてよ。というか、気づいてはいるみたいだけど、キョロキョロしてるとこをルナにひっぱられて行ってしまった。だらしないぞ。タクミ。
ダグレスは怖い目してるし、イヤな感じ。
「ぼく、行かないと……」
ダグレスはぼくの手をつかむ力をゆるめない。
「君に二人きりで話しがある。これは刑事としてだ。応じられない場合は任意同行になる」
任意同行は拒否もできるんだよね。子どもだからって甘く見てるな。でも、刑事としてと言われれば、無下にもできない。いちおう用件だけでも聞いておくか。
だまっていると、ダグレスは話しだした。
「単刀直入に聞く。君はBランクではないんだろ?」
えっ——?
とつぜん図星をさされて、ぼくは言葉につまった。
なんで急にそんなこと言うんだろう。やっぱり昨日、気絶させちゃったから?
ダグレスはカミソリみたいな青い目でにらんでくる。
「君を透視したとき、どんなものが見えると思う? 金色に輝くヒドラだよ。Aランク以下のエスパーはマインドブロックをコントロールできない。Aランク者になって初めて、ブロックを張れる。私にはその形が見える。それでも頭部を守るヘルメットのようなものだ。君のは頭部のみならず全身を覆い、あまつさえ、無数の周波数のエンパシーのアンテナをブロックの内側に立てている。そんなことできる人間がBランクであるはずがない。少なくともダブルA。あるいは、それ以上のはずだ」
ああ……やっぱり気づかれてたのか。透視能力者って、やっかいだね。
どう言ってごまかす? それとも正直に打ちあける?
タクミに相談したいとこだけど、その必要はなかった。
ダグレスはもう知ってたからだ。
「以前から不思議に思っていた。それで君について調べてみた。正確には君のオリジナルについてだ。二歳のとき誘拐され、十五歳で保護。書類上の発見場所はアムステルダムシティー。
しかし、腑に落ちない。アムスのシティポリスには、君を保護した記録がない。いや、アムス以外のどのEU都市にもだ。つまり、君はサイコセラピスト協会が独自に保護したか、またはEU以外のどこかで発見された。
そこで、君の担当医のタクミの行動を調べた。タクミは三年前、公用でネオUSAに赴いている。そこで何をしていたのかまでは管轄外なのでわからない。だが、いくつか興味深い事実がある。一つはその少し前にネオUSAで起こった崩落事故。それを機に流行ったエンデュミオン・シンドローム。
そして、もう一つ。タクミと同時期にあの著名なトリプルAランク者、サリー・ジャリマがネオUSAに滞在している。彼がどこかの政府機関との密約で、エンデュミオンを探していたのは想像にかたくない。
ジャリマ氏はその直後、行方不明になり、タクミは君とおぼしき患者を一人つれてディアナへ帰ってきた。そこから導かれる結論は一つ。君こそが全宇宙をさわがせた、エンデュミオンだ。間違っているか? 私の推理」
間違ってたらよかったのに。
「タクミは君の素性を知っていて隠しているんだろ? 事後の憂慮を払うために、君にBランクのふりをさせている」
「もしそうだったら、どうだっていうの?」
「もし、ではない。そうなんだ」
ダグレスは断言したあと、
「君がただの犠牲者なら、こんなことを追及したくなかった。だが、昨日、殺されたフィッシャーの死因は内臓破裂。捜査本部ではPK能力者の仕業だと考えている。つまり、サイコキネシスによってフィッシャーの体内は破壊された。君がやったんじゃないのか?」
ぼくは困惑した。
ダグレスは本気で、ぼくがやったと思ってるんだろうか?
「フィッシャーの遺体の破損状況をコンピューターで解析してみた。同様の破損をなしえる念動力は、ダブルAランク以上だ。被害者の臓器は原型をとどめていない。そんなことができるのは、私が知るかぎり、君だけだ」
気をとりなおして、ぼくは反論する。
「なんで、ぼくがそんなことしなくちゃいけないの?」
ダグレスは哀れむような目で、ぼくを見た。
「フィッシャーが君にしつような嫌がらせをしていたという証言を得た。君の服を汚したり、飲食物に異物を混入していたそうだね。トイレに閉じこめたり。君はそれをストレスに感じていたんだろ?」
「ウソッ。あれはルナがしてたんだよ。ぼく、ずっとそう思ってた」
ダグレスは疑わしそうだ。
「トリプルAのエンパシストの君が? ほんとは知ってたんじゃないのか? もし潜在意識で感知していたのなら、無意識にあの犯罪をおこなったのだとも考えられる。君は以前にも一度、超能力で暴発事故を起こしている。今回もそうでないとは言いきれない」
そんなふうに言われると、自分でも自信がなくなってくる。ぼくは必死で言いわけを探す。
「でも……でも、あの人がぼくに嫌がらせする理由なんてないよ」
「被害者はイヴォンヌ・ヴェラの映画に出演させてもらう約束で付き人になった。本来はアクトレスだったんだ。だが、ヴェラはわざとか気まぐれか、最初の約束なんて忘れてしまったように、役の話なんてしなくなった。フィッシャーはあせっていたそうだ。ヴェラが目をとめる新人女優に、陰湿な嫌がらせを続けていたと、周囲の人間は薄々、勘づいていた。君の言うルナ・ターナーも、撮影中に事故にあった。おそらく、フィッシャーがしたことだろう」
「…………」
ほんとにそうなんだろうか。
たしかに今日になって、ピタリと嫌がらせはなくなったけど……。
「知らない! ぼくのせいじゃない!」
ぼくは走って逃げだした。
ちょうど、タクミがコテージから出てきたので、思いきり体当たりでとびつく。
「ユーベル。どこ行ってたの? 心配するじゃないか」
そろっとふりかえる。
ダグレスは追ってこない。
「……なんでもない」
「あれ? ふるえてるの? ユーベル」
ぼくは小さく、かぶりをふった。
大丈夫。ダグレスが言うことは憶測にすぎない。証拠もないし、今の段階で逮捕できないから、あんな形でゆさぶりをかけてきたんだ。ぼくがしっかり自信を持ってれば、大丈夫。
そう思ってたんだけど、やっぱりショックだったんだろうな。
ぼくはその夜、変な夢を見た。
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