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 宴はまだまだ続く。

 バーベキューが終わって室内に場所を移すと、ジャマなルナが、タクミのまわりをウロつきだした。


 今まで同業のよしみを装って、ジャンが自分たちのほうに注意をひきつけておいてくれたんだ。ジャンやエドは若くして死んだオリジナルのぼくに同情して、全面的にこっちの味方だ。けど、さすがに話題がつきたらしい。


「ねえ、トウドウ先生。ジョルディさんの話、おもしろいのよ。ルナ、先生の友達が尊敬する業界の先輩だなんて思ってなかったな」


 タクミの手をとって、自分たちの輪のなかへつれていこうとするので、ぼくは反対側の腕にぶらさがった。タクミは二人のあいだで、やじろべえみたいにフラフラしてる。


「あいたたた。そんなにひっぱられると痛いなぁ。大岡裁きではさきに手を離したほうが、ほんとのお母さんなんだよ」


 そんなこと言ったって、ルナが日本の昔話なんて知るわけないじゃない。それって、ぼくに手を離せって意味なの?——と思ってふくれてると、助け舟みたいにヨアヒムが言いだした。この人がタクミを助ける筋合いないから、たまたまなんだろうけど。


「同業者と言えば、ルナちゃん。君の大先輩が来てるよ。となりの三号コテージにね。ほら、ここからもむこうの光が見える。お近づきになりたいなら、あいさつに行くといい。イヴォンヌ・ヴェラだぜ」

「おお、イヴォンヌ」と言ったのは、ルナではなくジャンだ。


 ぼくは芸能界のことはさっぱりわからない。タクミといっしょにアニメはたくさん見たけど、ずっとテレビドラマなんて観賞できる境遇じゃなかった。入院も長かったしね。ルナなんて、タクミにひきあわされるまで名前も聞いたことなかった。


 そこへ行くと、イヴォンヌ・ヴェラは知ってるよ。映画も三本くらい見たことある。そのくらい超有名な大女優だ。年齢は七十か八十くらいのはずだけど、メディアに露出した姿は、いつも二十代後半のように若々しい。


 長年、銀幕に女王として君臨してるので、その道ではものすごい発言力があるんだとか。彼女に気に入られるかどうかで、新人の仕事に大きく影響するって話だ。

 ジャンが急に変なダンスを始めたのも、まあ、しかたない。


「イヴォンヌだって。ミシェル、おれが彼女に花束を贈ったとしても、怒らない?」

「怒らない。けど、離婚のときには慰謝料ふんだくってやるから」

「やめろよ。ハニー。なんで、おれが君と離婚なんてするんだ」


 新婚さんがイチャつきだすよこで、ルナの顔色は冴えない。


「……先生。頭が痛い」


 わざとらしいほど、よろめく。ルナを支えて、タクミはルナのママと三人でどっかに行ってしまった。


「ルナって、イヴォンヌと共演の映画がクランクインしてたんじゃなかったか? 前に芸能ニュースで見たぞ。ルナが事故にあったって、その撮影現場なんじゃないのか?」と、エドが広いオタク知識をひろうする。


 そうだった。撮影中に機材が落ちてきて、記憶障害になったって、タクミが言ってたっけ。脳に異常はないから、心理的な要因じゃないかって。


 イヤな子だけど、不運だとは思う。一本めの映画がブレイクして、二本めで大女優と共演。順風満帆ってときに、不慮の事故でつまずいてしまったわけだ。


 映画の撮影がどうなってるのか知らないけど、主演女優が森の貸し別荘に遊びに来てるようでは、滞ってるに違いない。


 みんなが口々に、

「イヴォンヌが一人で来てるの?」

「マスコミやパパラッチがよくほっといてくれるな」とさわぐ。


 それらにはヨアヒムが答えた。


「一人じゃないんだ。付き人と夫、友人の俳優がいっしょに泊まってる。ときどき映画監督もごきげんとりに来てるみたいだな。それに森のなかはコテージの客とその関係者以外、立ち入り禁止だ。不審者を見つけたら、私が即刻、追いだす。しつこいようなら警察も呼ぶ。マスコミも留置場に入りたくはないから、金を払ってコテージを借りてる記者が何人かいるね。十号、十五号、十六号、それに十九号の客がそうじゃないかと、私は見てる。ほかの客の迷惑になれば、つまみだすと警告してあるから、いちおう、おとなしくしてるようだ」


 ここで、ぼくらはコテージ村について、ヨアヒムから詳しく教わった。


 コテージは全部で二十。そのうち八人用が二つ。六人用が二つ。四人用が四つ。二人用と一人用が各六つずつ。八人用の大きなほうを頭に、一号から二十号の番号がふられてる。


 今現在、泊り客は、一号の学生。二号のぼくら。三号の女優。六号の新婚旅行中の夫婦。七号の中年夫婦。八号のバードウォッチクラブのメンバー。九号の親子づれ。十号の記者。十一号のネオUSAの学生二人。十二号の工芸家。十五、十六の記者。十七、十八号の単身旅行者。十九号の記者。二十号の材木買受け業者なのだそうだ。


 ぼくは考えた。

「ふうん。じゃあ、四、五と……えーと、十三、十四号があいてるの? 記者がいなければ、もっとあいてたんだね。バカンス中じゃないからなの?」


 ヨアヒムはうなずく。

「バカンスに入れば満室だ。何ヶ月も前から予約する人もいる」


 たしかに森の空気は予想してたより、ずっと気持ちいいし、宿泊費は高めだけど、リピーターも多いだろうな。


 すると、ぼくらの話を小耳にはさんで、エスパーの学生たちが話題に参入してきた。


「でも、十三号は夏でもあいてるんじゃないですか? やっぱり、魔の十三号室のウワサのせいなんでしょ? 十三号に泊まった客は呪い殺されるんだそうですね」


 エセ好青年のニコラは自分で言いながら、さも非科学的だなぁと言わんばかりに笑っている。

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