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タクミの提案で、男女が夜中に部屋をまちがえないよう、廊下をはさんで右手が女の子、左手が男って部屋割りになった。
右は奥から、ぼく、エミリー、シェリル。
左はタクミ、マーティン、エド、ジャン。
ミシェルやダニエルなど、常駐ではないメンバーが来たときには、恋人の部屋か、空き部屋、一階のソファーを活用することになった。
その日は荷物を片づけたり、森のなかを探検したりして日が暮れた。
例のごとく、タクミがとなりの一号コテージの大学生たちと知りあいになって、夕方にはぼくらの二号コテージにひっぱりこんできた。夕食にはミシェルとノーマもかけつけてきたし、ダニエルもいすわったまま。管理人のヨアヒムまで呼んで(というか、火器を使うから管理人がいないといけなかった)、合計十九人のバーベキューパーティーだ。
「やあ、どうも。僕ら、アテネ大学サイキック科の学生です。ご存じのとおり、サイキック科はエスパーだけが入学できる特殊な学科です。ひらたく言えば、超能力を社会に役立てるためのエスパー職養成コースですね。学生の大半はサイコセラピスト、あるいは公共事業に貢献する政府専属のサイコスペシャリストをめざしています。僕らは三回生なんですが、来年にむけて卒論の研究をしているんです。講義に通うほかは、ここにこもっています。僕はニコラ・ダビナック。専攻は心理学。Aランクのエンパシーと、おまけのPKが使えます。ま、いちおうメンバーのリーダーってとこかな」
学生はヨアヒムが言ってたとおり、男女四人ずつの計八人。
リーダーのニコラは一見、いかにも爽やかな好青年だ。羊みたいなモコモコした麦わら色の髪を短く切って、まじめを強調したような銀縁メガネをかけてる。今どき、視力回復したいならクローン眼球移植を初め、あまたの治療法があるので、メガネはただのファッションだろう。
ぼくはこの人をなんとなく好きになれない。紹介されたとき、ぼくが(公的には)Bランクだと知って、鼻先で笑ったからだ。なんだ、Bランクかって心の声が、エンパシストじゃなくても読みとれる。
エスパーのなかには妙に選民意識を持って、自分が高位ランクであることを鼻にかける人が、たまにいる。ニコラはこのタイプのようだ。
そういうニコラの思想を、ほかの学生がどう思ってるのか知らないけど、彼をリーダーに立ててる時点で、すでにその思想を許容してるってことなんだろうな。
ほかの学生の印象は似たりよったり。
でも、一人だけ個性的なヤツがいた。
ギャラハド・ランカスターっていう男だ。名前だけでも、かわいそうなのつけられたなぁって思うのに、本人は名前にピッタリの神経質そうな男だった。
シャム猫みたいなグレーの髪に水色の瞳。
親父みたいな薄汚い大人になりたくないから童貞のまま死なせてくださいと、神様に願って天国に召されたランスロットの息子は、きっと、こんな陰気で悲劇的な顔をした美青年だったんだろう。
と言っても、ぼくが注目したのは、ギャラハドの特殊な能力のせい。
「じつは、こいつのニックネーム、リモコンっていうんですよ」と、みんなの前にさらし者にするように言ったのは、エスパー選民思想のリーダーだ。自分の能力のことは、あんなに自慢そうに話してたくせに。
「なんでかって? こいつ、エンパシストのくせに人間と交信できないんですよ。リモコンくんが通じあうのは、なぜか機械だけ。こいつ、機械の心がわかる、すごく珍しいヤツなんです」
ハッキリとバカにしてるように、ぼくには聞こえた。タクミはいつもどおり、無邪気に喜んでたけどね。
「へえ。スゴイ! そんなことできるんだ。機械と交信って、どんなふうにやるの?」
天界の住人ギャラハドは、下界の人間とは同じ空気が吸えないようで、ため息をつきつつ、ぼそぼそと語る。
「……機械といっても、電気が通ってるときしか……つまり、エンパシーというのは電気の流れだから、僕は機械に流れる電波と同調できるわけで……」
まどろっこしいから手早くまとめるよ。
ESPっていうのは、発現方法はそれぞれ違っても、電気の力であやつってることは同じなんだ。
つまり、他人の心をのぞくエンパシーや、透視能力、予知能力、物質を思念の力で動かす念動力。
そういうもの全部、人間が本来持ってる生体電気を原動力にして働いているんだって。エスパーはエスパーじゃない人間にくらべて、生みだす生体電気の量が多い。だから、いろんな力を具現化できるんだって習った。
そのなかでも、他者と意思の疎通をとるための精神感応力は使える人が、もっとも多い。でも、ふつうは人間同士や少なくとも動物との共感覚なんだけどね。
ギャラハドはその電波を機械と同調させることができる特殊能力者ってわけだ。
トリプルAのぼくでも、さすがに機械の気持ちはわからないなぁ。そんなのできたら、他人の電化製品、勝手に動かせるってことかな?
本人によると、電源さえ入ってれば、あらゆる機械の構造や故障部分がわかるんだそうだけど。
「僕は、もう就職さきが内定してるんだ。大手航空会社のメンテナンス部……宇宙船の整備士さ」
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