第16話 ヒロインは騎士に近付く
「カレン嬢」
「はい!」
「ドレスは無事に届いただろうか?」
「ええ、エリオット様からいただきました。美しい赤のドレスでした」
ついでに、白の靴とリボンまで付いていたのはエリオット様のこまめな性格を表している。
ドレスがないならそれに合わせるもの全てがないだろうという配慮尽くし、いかにも理由があれば複数妻を持ちそうな貴族だ。
ただ、王子の側近から王の側近になってしまうと、地位が高過ぎて厳しい。そうなると、第二夫人というより妾になってしまう。
それなら殿下に近付いて公妾の方が身分が確立されているため、まだ良い……が、妃より先に子どもが生まれたりしたら暗殺の危機だ。やはりもっと無難な相手を探そう。
「すまない」
「え?私こそ巻き込んでしまって申し訳ございません」
「いや、殿下が興味津々だった時点で察しておくべきだった」
深いため息をつきながら、臣下の鏡のようなことを言っている。
「当日私から贈るからネックレスはつけないできてほしい」
「え?そこまでしていただくのは……」
「治療のお礼だ。カレン嬢にとっては大したことじゃないのかもしれないが、癒しを使えるものは数少ない。とても希少な技だ」
希少な技を使って無料だと、世の中のお金を貰っている癒しをする魔法士が困るということね。なんだか余計なことをしてしまったみたいだ。
でも……と、言いかけて口を噤んだ。あの村の人たちはほとんどの人が使っていた。でも、こういうのは言わない方が良い。村を繁栄させもするし、間違えれば滅ぼす恐ろしい想像が頭を過ぎった。
「次の講義は?教室まで送ろう」
「いえ!それはその」
「君の騎士が来たようだ」
「え?」
フランシス様にそう言われて促された先に居たのはローワンで、遠目でわかるほど焦っていた。
「ローワン・ミラー」
「お呼びでしょうか」
「カレン嬢を講義までエスコートしなさい」
「はい、謹んで承ります」
「カレン嬢、あれはあまりやらない方が良い。気をつけて」
フランシス様はそう囁くと革靴をまるで軍靴のように鳴らして踵を返して行った。
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