第15話 ヒロインは騎士を癒す

私の頬から離れていく手を見て、その傷の多さに少し驚く。ここの茂みそんなに鋭利なのか。



「フランシス様、申し訳ございません。私のせいで、手を怪我させてしまいました」

「気にされることはない。怪我は騎士の勲章のようなものだ」



茂みに手を突っ込んだせいで引っかき傷のような細かい傷がついてしまっている。自分で刺繍をいれたハンカチを出す。



「水よ」



ハンカチを濡らして、手の傷を拭いていくが、フランシス様は無言だ。でも手を跳ね除けないなら良いでしょう。悪いことではないし、騎士様に助けられた主人公がやりそうなことを思い浮かべる。


そっと怪我のあるフランシス様の手を握り、いつも母親がしてくれたように精霊にお願いをする。



「癒しを」



治すのにいくらか痛みが出るせいかフランシス様が息を飲むのがわかった。やる前に声掛けた方が良かったかも。



「きみは……」

「助けていただき、ありがとうございました」

「いや、治してくれてありがとう」



フランシス様がぎこちない笑みを浮かべる。水と血で汚れたハンカチは後で捨てようと思って畳むが、フランシス様がその手を止められた。



「そのハンカチをいただけないか」

「え?あ、気にされなくて大丈夫ですよ!」

「私の血のついたものが他人ひとの手に渡ったら困るので……」

「あ、そうなんですね。無知で申し訳ございません。それでは、お納めください」



全く知らない習慣だけど、その血を元に悪さをする輩がでるということか。それともファンの子に売り飛ばされては困るということか。


うーん、怪我を癒した私に対して警戒度が高いなぁ。やっぱり現実は物語ほど上手くいかないのかも。

そう思いながら、フランシス様がハンカチが仕舞われるのを見守った。

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