ボランティア警備活動
人間なら,無差別に受け入れ,どの相手でも,喜んで歓迎するちょこちゃんなのだが,相手が犬だと,話はまるで違うようだ。
ちょこちゃんは,誰にも頼まれていないのに,毎日,朝起きてすぐに,家の縁側へ出て,日が暮れるまで,縁側を拠点に警備活動をしてくれるのだ。土日でも,祝日でも,終日勤務で,体調不良で休んだこともない。年中無休の立派なボランティア活動だ。
車が通りかかっても,自転車が通っても,人が散歩で近くまで来ても,もちろん吠えて,知らせてくれるのだが,犬連れが来た時は,大変だ。我が家の縁側が一瞬で,戦場と化してしまう。
縄張りへ入って来なくても,相手犬の姿が見えてから,見えなくなるまで,ちょこちゃんは,この世の終わりのような鳴き方をひたすら続ける。
「こんなところを通りやがって,何をするのよ,あなた!?そう,あなたよ!ここは,私の道よ!勝手に入って来るなよ!不法侵入だよ,そんな!」
そこで,たまに調子に乗り、犬を連れて,敷地内へ入って来る人もいるのだが,こうなると,緊急事態発生だ。すでに世の終わり並みだったちょこちゃんの鳴き方が,さらに激しくなり,「襲われていないのかな?大丈夫かな?」とつい心配になってしまうほどだ。
「入って来るなって,言っているのに、さらに近づきやがったのね!なんて、図々しくて,大胆なことを!もうゆるさないぞ!」
犬連れで敷地内へ入って来る人の中でも,1人宿敵を決めている。この犬が来ると,ちょこちゃんは,他の犬に対して使う声とは,まるで違う吠え方をする。その吠え方は,パニックや怒りを通り越して,激怒しているように聞こえ,紛れもなく憤りの吠え方だ。
「あなたか!また来やがったな!帰れ!帰れ!あなたのことなんか,大嫌いっていつも言っているのに,毎日顔を見せやがって,憎たらしいったらない!帰れ!帰れ!」
そして,この「宿敵」と呼んでいる犬も,ちょこちゃんに負けまいと,吠え返し,戦うのだ。ちょこちゃんも,相手の犬も,後へ引かない調子で,互いの姿が完全に見えなくなるまで,吠え合戦を続けるのだ。縁側がガラスで囲まれていなかったら,修羅場になっているに違いない。
「え?何か,文句あるの!?あなたも,この通りに住んでいるから,通る権利は,あるって!?それは,ないよ!ここは、私の道よ!私の家よ!誤解するな!そして,二度と来るな!」
毎日,このことをして,過ごしているちょこちゃんなのだが,引っ越しのため,段ボールだらけになった我が家の中を,今戸惑いながら,彷徨いている。おもちゃも,柔らかいソファも段ボールに入れられてしまい,ケージも解体され,困っている。座る場所がなくなったちょこちゃんは,ずっと私たち人間の膝の上や横で過ごしている。私たちも,この状況を仕方のないこととして受け止め,ちょこちゃんを膝に乗せて,慰めている。
だって、ちょこちゃんは知らないんだ、自分は犬だっていうことを。
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