おやつ
子供に,「おやつの時間だよ!」と言うと,ちょこちゃんも,警備活動を忘れ,隣の部屋から走ってやって来る。どうやら,「おやつ」と言う言葉がわかっているようだ。
「おやつだって!?要る,要る!私にも,ちょうだい!」
子供がおにぎりやクラッカーをつまんでいると,ちょこちゃんがずっと,そのすぐ横で,虎視眈々に子供の食べ物を口まで運び,噛んで,飲み込む動作を見張りながら,子供のおやつを狙う。ご飯一粒でも床に落ちると,ちょこちゃんは,「待ってました!」と言わんばかりに,落ちた物を瞬く間に,ぺろりと食べてしまう。
「落としたら,私のものだ!」
子供がおやつを食べ終わると,ちょこちゃんは,いつも物足りなさそうに,子供の横に座ったままだ。
「あの…私のは?私は,まだもらっていないけど?」
ちょこちゃんが訴えるような目で私を見上げる。
だから,自分のおやつを食べ終わってから,ちょこちゃんにおやつをやることを子供の仕事にしている。
子供は,まだ1歳半で幼いのに,「ちょこちゃんにも,おやつをやってね。」と言うと,「うん!」と答え,「これをちょこちゃんに。」とちょこちゃんのおやつを冷蔵庫から出し,子供に渡すと,喜びのあまり二本の足で立ち上がり,ジャンプするちょこちゃんの口に入れてあげる。
「今,あなたが持っているのは,私のだよ!あなたのじゃないよ!早くくれ!」
ちょこちゃんは,おやつをもらうと,大事なおやつを盗まれまいと,咥えたまま,「秘密基地」と呼んでいるソファの下に隠れて,食べる。
「早く逃げないと私のおやつまで、あの子に食べられちゃう!大変だ!」
ちょこちゃんにしたら,子供が毎日自分より先におやつをもらい,食べ終わるまで、自分の分が出ないのは,とんでもない不公平なことに見えるのかもしれない。自分は,大事にしてもらっていないと感じているのかもしれない。でも,仕方がない。
だって、ちょこちゃんは知らないんだ,自分は犬だっていうことを。
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