お客さん

来客があると,ちょこちゃんが真っ先に玄関で出迎える。ピンポーンの音を聞くだけで,毎回,玄関へ全速ダッシュ!

「来た!来た!」


人間がすぐについてこない場合は,玄関から私たちの方を振り向き,困惑した顔をする。

「来たって言っているでしょう!?さっきから,こんなに言っているのに,どうして来ないの?私が来たって言ったら,来たんだよ!」


お客さんが顔を見せると,ちょこちゃんは,喜びのあまり,歓声を出しながら,くるくると回り,お客さんに,自分に注目するようにアピールする。尻尾を振る速さは,見ているだけで、目が回るほどだ。

「ほら,来た!来た!新しい友達だ!ほら,見て!見て!私は,可愛いでしょう?毛も,ふわふわだよ!撫でてみる?撫でてみて!撫でて,撫でて!」


お客さんがちょこちゃんの相手をしようと手を差し出せば,ちょこちゃんは,お客さんの手をポロポロと舐め,尻尾をふり続けながら,コロンとお腹を見せる。

「そうそう!撫でてくれた!いい人だ!手を舐めて,匂いを確かめて…はい,オッケー!不審者検査合格!

私の毛は,撫で心地がいいでしょう?なら,お腹も撫でて!お腹は,もっと柔らかいよ!そうそう!そこ,そこ!ああ,気持ちいい!」


お客さんが上がると,ちょこちゃんは,全速で追いかけ,嬉しそうな顔をしながら,家中を走り回る。

「来た!来た!ようこそ,我が家へ!」


お客さんが荷物を下ろし,座ると,ちょこちゃんがお客さんの真前まで来て,またコロンとおなかを見せる。

「もうちょっと撫でとく?」


お客さんがすぐにお腹を撫でてくれれば,ずっと飽きることなく,そのまま甘え続けるが,すぐに撫でてくれない場合は,位置を変えてまたコロンとする。こうして,お客さんが撫でてくれるまで,何回でも位置を変え,お腹を見せ続け,お客さんをいろんな角度から見上げ,アピールをする。

「撫でたいでしょう?撫でたいって,顔に書いてあるよ!どうぞ,どうぞ,遠慮しないで。」


いよいよ,お客さんが帰る時間になると,ちょこちゃんが相手をしてもらったお礼も兼ねて,玄関から見送る。お客さんがギリギリ玄関を出るまで,コロンとお腹を見せ,撫でてもらえるようにアピールを続ける。

「もう帰るの!?もっといたら,いいのに!まだ撫でてない箇所あるよ!待って,待って!」


お客さんが玄関を出て,戸を閉めると,ちょこちゃんは,縁側に出て,縁側から吠えて,見送りの続きの儀式をする。

「帰っちゃうの!?せっかく,仲良くなれたのに!?何,それ!勝手に帰らないで!


帰るか…じゃ,また来てね!待っているからね!また撫でに来てよ!」


お客さんの姿が見えなくなると,ちょこちゃんは,ようやく諦めて,いつもの活動に戻る。


という訳で,うちで,来客の接待を担当するのは,愛犬のちょこちゃん。お客さんも,犬が苦手な方でも,ちょこちゃんの愛嬌に負けて,仕方なくお腹を撫でたり,耳をかいたりして,相手をしてしまう。


仕方がない。「犬が苦手だ。」とか言っている場合じゃない。だって,ちょこちゃんは,知らないんだ,自分は犬だってことを。

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