第13話
そしてここからが僕の現在の話
「ブレンド珈琲お待たせしました」
「有難う」
注文の品をお客に届けに行った女性店員、その様子を見ていた社員がこう言った。
「オーナー!アルバイトの仕事をとらないで下さい」
「いいじゃん、現場が好きなんだから!」
「ほら、アルバイトの女の子が困ってるっじゃないですか」
するとアルバイトの女の子が、
「大丈夫です」
そう言って空席のテーブルを拭き始めた。
「彼女もああ言ってる訳だし」
そう言ってオーナーは次の注文の品を届けに行ってしまった。
言うことを聞かないオーナーに男性社員はため息をついていたのだが、オーナーが向かった席からこんな声が聞こえてきた。
「ひかるちゃん今日も美味しい珈琲を届けてくれて有難う。それにしても今日も一段と綺麗だね!」
「有難うございます」
そう答え笑顔で接客をするオーナー。
そんな光景を見た男性社員は、オーナーがいると売り上げが上がるのでそれはそれで良いかと思い、そのままにしておくことにした。
実際にこの店の売り上げの2割位はオーナー目当てでやって来る客が占めている。
しかも、男性客だけかと思いきや性別問わずオーナーの美貌に心を奪われてしまうのだ。
女性客がオーナーに、
「ひかるさんは今付き合っている人はいないんですか?」
と尋ねると、他の男性客からも、
「それは俺も聞きたいな!」
と店内が大騒ぎ。
その質問にオーナーは、
「秘密」
と答えた。
男性客からは彼氏がいないなら付き合ってほしいとあっちこっちでぼやいている声が聞こえてきた。
カフェの名前は『珈琲ひまわり』、オーナーが無類の珈琲好きで一度やってみたいという単純な理由から始まったお店。
店の雰囲気はとてもアットホームで、店員もオーナーが店の雰囲気を明るくしてくれそうな人を人選したそうな。
閉店時間の18時になり、閉店作業を終えた社員達が帰っていく。
事務作業も社員がやってくれるのでオーナーはやることがない。
店員がいなくなって女性社員の川村さんとふたりっきりになった。
「今日も忙しかったですね」
「川村さん敬語はやめようってこの前話したでしょ」
「そうだった、ごめん。まだたまに敬語が出ちゃうんだよね」
「別にいいんだけどね、それよりようやく軌道に乗ったって感じがするよね」
「そうね、オーナーの人気半端ないもんね」
嬉しいんだけどとても恥ずしい複雑な心境だ。
「川村さんのラテアートが好評だからじゃない?」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
彼女ははにかんだ笑顔を僕に見せた。
「ねえ?」
「何?」
「オーナーって時々男の子みたいなしゃべり方するよね」
「そうかなぁ、何か変な感じがする?」
「別に変じゃないけど、子供の頃からそういうしゃべり方だったの?」
「分からないけど子供の頃からずっと男の子とばかり遊んでいたのが関係してるのかな」
などと答えてみる。
「それはあるかもしれないね」
「僕のしゃべり方そんなに変かな?」
そう彼女に聞くと、
「全然変じゃないよ!今のままで良いと思う」
そう彼女は笑顔で答えた。
「本当?」
「本当に本当」
「じゃあいいや」
「突然変なこと聞いちゃってごめんね」
「全然気にしてないよ」
「それなら良かった、それじゃあそろそろ私帰るね」
「うん、お疲れ様!」
「お疲れさまでした」
それから川村さんと話す機会が多くなり、ある日彼女から夕食に誘われた僕は快諾し彼女とイタリア料理を楽しんだ。
彼女を駅まで送って行く帰り道で、
「家に寄ってかない?」
そう誘われた僕は彼女の家に寄っていくことにした。
彼女と一緒に電車に乗り、彼女の住んでいる最寄りの駅で降りて家まで歩いた。
「どうぞ上がって!」
「おじゃまします」
彼女はマンション住まいだった。
間取り1LDKで、部屋には無駄なものがなくスッキリしていて、白を基調とした家具が置いてありとても清潔感のある部屋だった。
「そこのソファに座ってて」
そう言って彼女が紅茶を淹れてくれた。
「紅茶で良かったかな、ほら夜に珈琲を飲むと眠れなくなるって言うでしょ」
「全然大丈夫、有難う」
ひとくち口に含むと紅茶特有の良い香りが鼻を通って味を引き立ててくれる。
「紅茶を淹れるのも上手なんだね」
「珈琲に役立つと思って少し勉強したの」
「本当に美味しい、これはお店に出したいな」
「本当?」
「だってこの紅茶はお店に出てくるレベルだよ」
「お世辞でも嬉しい!」
そう言って彼女は僕に抱き着いた。
これは女性同士のスキンシップなのだろうと思いながら彼女のぬくもりを感じていた。
10秒くらい経っただろうか、沈黙を破って僕がしゃべりだす。
「この紅茶本当にお店に出そうね」
すると彼女は僕の背中に回していた手をほどき、その手を僕の両肩に乗せ至近距離で僕と顔を見合わせ、
「有難う」
と嬉しそうにそう言った。
「それじゃあ帰るね」
「うん」
彼女は玄関まで見送りに来てくれた。
「また家に来てくれる?」
「うん」
僕はそう返事をして彼女の家を後にした。
帰り道、僕は抱きしめられた後彼女と顔を見合わせた時の彼女の表情を思い浮かべていた。
それ以来僕は彼女と職場で顔を合わせると意識してしまうようになってしまった。
それは多分彼女にも伝わっていたのだと思う。
1週間後、彼女から夕飯をご馳走したいと誘われた僕は今彼女の住むマンションにいる。
プライベートでもすっかり下の名前で呼ばれるようになった。
彼女は僕の横に座り、体を密着させて僕に尋ねてきた。
「ひかるさんは私のことどう思ってるの?」
「職場の仲間かな」
「職場以外では?」
「友達かな?」
「そっか・・・」
彼女はソファから立ち上がりキッチンで食器を洗い始めた。
「僕も手伝うよ」
彼女の洗った食器を拭いた。
何枚か食器を拭いた後、彼女の手が僕の手に触れる。
そして彼女はその流れから僕の指先を軽く握ってきた。
「どうしたの?」
と少し緊張しながら尋ねる僕。
「私ね、ひかるさんのことが好きなの」
キッチンでは湯沸し器からお湯を沸かす音とお湯が流れる音がしている。
「女性にこんなことを言うなんておかしいわよね」
そう言って彼女は湯沸し器を止め、僕の唇にやさしいキスをした。
そして彼女に手を握られた僕はソファへと導かれると、向き合って座った僕達はお互いに見つめ合っていた。
「もう一回キスしてもいい?」
彼女にそうつぶやかれると僕はゆっくりと頷いた。
初めはソフトだったキスも徐々に激しくなり、彼女は僕の胸を優しく揉み始める。
僕は彼女の気持ちを受け入れた。
僕も彼女が好きだったから。
その夜は彼女と激しく愛し合った。
翌朝、彼女は僕におはようのキスをすると裸のままキッチンに飲み物を取りに行き、飲み物の入ったグラスを手渡してくれた。
ああ僕は彼女と愛し合ったんだと不思議な気持ちになっていた。
「私ね、中学生の時に女の人が好きなんだって気づいちゃったんだ。だから女の人としか付き合ったことがないの」
たった今、中学生の時に川村さんにフラれた理由が判明した。
「ひかるさんは初めて?」
「そうだね、初めて」
「そっか」
彼女はそう言って僕に体をあずけてきた。
僕は彼女の体を抱き寄せて僕から優しくキスをした。
「川村さん、僕のことひかるって呼び捨てにしていいんだよ。僕より年上だし」
「じゃあそうする、年上は余計だったけどね」
「あ、ごめん」
申し訳なさそうな顔をした僕に、
「私のことも千夏って呼んで!」
彼女は笑顔でそう言った。
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