第3話
電話番号を入手してから10日が過ぎた。
僕は今、病院の中庭にいる。
手に電話番号をメモした紙を持って。
スマホをズボンのポケットから取り出しメモした電話番号を入力、通話のマークをタップした。
呼び出し音が3回鳴った後、スマホから女性の声が聞こえた。
話しかけてきたのだがまったく聞き取れない。
外国語?
「あの・・・ネットで見たんですけど」
そう僕が話すと女性は少し沈黙した後、
「ネットを見たんですか?」
と日本語で返答してきた。
日本語もしゃべれるんだと安心し、
「はい」
と僕が返事をすると、
「それではこれから言うアドレスをメモして下さい」
と女性が言う。
「ちょっと待って下さい」
スマホの通話をスピーカーホンに切り替える。
「どうぞ」
そう返事を返すと女性は僕がメモを取りやすいようにアドレスをゆっくりと丁寧に教えてくれた。
「次はパスワードを言いますね」
「スピーカーホンにしているんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、それではパスワードを言いますね」
彼女が伝えてくれたパスワードをメモした。
「ここからはスピーカーホンを止めてもらえますか?」
その言葉に少し緊張が走る。
「分かりました」
「お客様からの質問には私は一切答えることが出来ません。詳しいことはホームページをご覧になって確認してください。尚、そのパスワードの有効期限は7日間になっておりますのでご注意ください。パスワードはご本人様のみ有効です、他人が使用した場合パスワードは無効になりますのでご注意下さい」
「分かりました」
「それとこのことはなるべく他言しないようお願いします。それでは失礼致します」
通話は切れた。
僕は緊張感から少し解放され深く息を吸って病院の中に入った。
病室に戻るとパソコンに電源を入れインターネットに接続し、メモを取ったアドレスを打ち込んでエンターキーを押す。
するとパスワードを入力する画面が現れた。
パスワードを入力すると、今までとは違うページが画面に表示された。
只今連絡を取ることが出来ません、本日は11時~12時、17時~20時の時間帯に担当者と連絡が取れる予定となっております。
上記の時間帯でご都合の良い時間を入力して再度アクセスしてください。
担当者から説明がございます。
質問もその時にお願いします。
そう書かれていた。
僕は19時に予約を入れてパソコンを閉じた。
昼過ぎに母さんが見舞いに来てくれたが、僕は何事もなかったかのようにやり過ごした。
そして、夕飯を済ませた僕は19時が来るのを待った。
気持ちが落ち着かない。
10分前にパソコンに電源を入れた僕は、アドレスとパスワードを入力した。
すると、本日の受付は終了しました。
予約を入れた方はそのままお待ちください。
と画面に表示されていた。
19時になると画面が切り替わり、Entrannce(入口)という文字が現われた。
僕はそこにカーソルを合わせてクリックする、するとチャットをする画面になり、
「お待ちしておりました。ここからはチャットでのやり取りになりますことをご了承ください」
そう相手が書き込んできた。
僕は画面に打ち込まれた文字列を見て、少しの間だがフリーズしてしまった。
僕が何も打ち込まずにいると、
「質問があればどうぞ」
と相手が書き込んできた。
僕は委縮してる気持ちを少し前に出してキーボードを打ち始めた。
「100億円で人生を続けてみませんか?ってどういう意味ですか?」
そう打ち込むとすぐに返答が返ってくる。
「そのままの意味です」
「どうやってでしょうか?」
「某国で死人に魂を移植することに成功したという話をお客さんは知っていますか?」
それは2年前にニュースで騒がれ話題になった話だった。
死人に魂を移植するなんて死を冒涜している。
倫理に反する事を許してはならない。
世間の非難を浴びた某国政府は、調査の結果完全なデマだったと説明し火消しにかかったのだが、某国はまた隠蔽しようとしていると世界中から叩かれた。
しかし、魂を移植するという現実離れしたこの話は1週間も経つとメディアも取り上げなくなり次第に人々の記憶から消えていった話だった。
「あれはデマだったのでしょう?」
「今ではそういうことになっていますね」
「デマじゃなかったということですか?」
「そういうことになりますね」
「そんな話信じられる訳ないじゃないですか!」
「お客さん?」
「何でしょうか?」
「怪しいサイトだと思ってますよね?」
「当り前じゃないですか!」
「表の世界で堂々とやり取り出来ないからこのサイトで取引をしているのですが・・・このサイトにたどり着くには随分と苦労なされたでしょう?」
「まあそうですけど」
「このサイトは普通の生活をしている人には見られてはいけないサイトです。死人に魂を移植するなんて誰でも閲覧できるようにしていたらどうなるか想像がつくでしょう?このサイトは興味のある人、又は必要としている人しか閲覧してはいけないサイトなんです。そしてあなたは今このサイトを見て私とチャットをしている。それは何故でしょうか?」
「それは・・・」
僕が言葉に詰まると、
「まあ答えなくていいです、説明だけさせて下さい。お客さんには時間が許す限り自分に合ったドナーを選んでもらい決めてもらいます」
「ドナーとは死んだ人のことですよね?」
僕は恐る恐る聞いてみた、
「そうです、死人という表現をしたらあなたの気が引けてしまうと思ったので。話を続けますね。お客さんがドナーを決めましたら魂を移植する手術を受けてもらいます。お客さんの立場になって優しい表現に置き換えると、魂の抜けた体にお客さんの魂を注入するということです」
死人をあくまでもドナーと言い切る。言い方を変えれば少し、ほんの少しだけど罪悪感が遠のくものだなと思ってしまった。
「お客さんにはまだ考える時間が必要のようですね。今日はここまでにしておきましょう。7日間ありますからじっくり考えてください」
「7日間しかないと思うのですが」
そう僕が書き込むと、
「移植を本気で考えてる人にとってはそうではないみたいですよ、むしろ7日間で決められないならやめた方がいいと言うことです。あと大事なことを書き忘れました。移植できるのは一度だけですのでご注意下さい」
「それは倫理・・・に反することだからですか?」
「そうですね、気に入らなかったから別の体に交換してくれ、または元の体に戻してほしいと言うお客様が稀にいらっしゃいます。私から見ればそれはかなり命を軽く見ているとそう思います。ですがそれとは違う理由で出来ないのです」
「どういうことですか?」
「移植をする際に魂を構成している精神体の40%が失われてしまうからです」
「精神体・・・ですか」
「精神体とは私達が勝手に使っている呼称で、肉体で言ったら細胞みたいものと言えばいいでしょうか。でも安心して下さい、60%残っていれば魂を維持出来ると立証されています。それに3年後には100%まで回復します」
「立証済みってことは既に移植した人がいるということですよね?」
「正確な数字は言えませんが数十人いらっしゃいますよ。それでは良い返事をお待ちしております」
相手はそう書き込んでログアウトしてしまった。
するとチャット画面が消えて、今日の受付は終了しましたと画面が切り替わったのだった。
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