第42話
「あ、来た来た。先輩を待たせるなんて、いけない後輩だなぁ」
昼休み。今は使われていない文芸部の部室のドアを開けると、頬杖をついてそう言う奈那子先輩の姿があった。
「奈那子ちゃんが早すぎるんだよー」
「なーんてね。私も今着いたところだし、いけない後輩なんて思ってないよ~」
そう言って奈那子先輩は手招きで俺達を呼ぶ。
俺と小春、翔琉と奈那子先輩が隣同士になるように座る
「じゃあ全員揃った事だし、食べよっか!」
「そうだね。今日は奈那子ちゃんが手作りのお弁当作ってきてくれるって言ったから楽しみにしてたんだよ」
「翔琉のために朝早くから愛情込めて作ったんだからね!」
奈那子先輩はそう言って翔琉に弁当を渡す。
「おー! 美味しそう!」
翔琉は奈那子先輩からお弁当を受け取ると、直ぐに蓋を開け目を輝かせる。
それに続いて俺と小春も弁当を広げる。
今日は小春が作ってくれた弁当だ。
翔琉の弁当、奈那子先輩の手作りだという弁当は小春に負けないくらい美味しそうに見える。
翔琉のために頑張って作ったのだろう。
「これって小春ちゃんの手作り?」
奈那子先輩は俺と小春の弁当を見てそう聞いてくる。
俺と小春の弁当は中に入っている食べ物は全く同じだ。
見ればどちらかが作ったものだと分かってしまう。
「はい、私たち一日ごとにお弁当を作るようにしていて、今日は私で明日は悠斗くんが作ってくれるんです」
「へぇー、そうなんだ。私も明日翔琉に作ってきてもらおうかなぁ~」
そう言って奈那子先輩は翔琉の方を見る。
「な、奈那子さん。僕料理は本当に苦手なんです勘弁していただけないでしょうか」
翔琉は必死に奈那子先輩に手を合わせる。
今まで翔琉の手作り弁当は見たことがない。大抵親に作ってもらっているか、売店に売っているパンを食べている。
「えぇ~。私も彼氏の手作りのお弁当食べたいのに~。私は翔琉のために作ってあげたのになぁ~。翔琉が私の手作りのお弁当食べたい、食べたいって言うから愛情込めて作ったのに~」
「作ってあげなよ翔琉。奈那子先輩もこう言ってるし」
「いや、マジで料理なんてしたことないんだよ」
「ネットで作り方の動画くらい載っているだろ。それ見て作れよ」
「そうだよ、ネット見れば作り方なんて普通に載っているからね~」
翔琉は俺と奈那子先輩の二人から言われ、「分かりました。頑張ります……」と言い、諦めた。
「それよりも私のお弁当食べてみてよ」
「うん。いただきます」
翔琉はお弁当に入っている玉子焼きを口に運ぶ。
その様子を奈那子先輩はじーっと見つめる。
「どう? 美味しい?」
「うん! めちゃくちゃ美味しい!」
「うん! 良かった! まぁ、美味しくないなんて言われたら今すぐに別れちゃうかもね」
「そんなこと言わないでよ……」
「だって彼女が頑張って彼氏のために愛情込めて作ったお弁当を不味いなんて言ってきたら嫌でしょ?」
「はい。嫌です。でもそんな事言わないから。本当に美味しいからね」
「わかってるよ。もしもの話しをしてただけだから」
二人がそんな会話をしていると、小春が俺の制服を少し引っ張る。
「私達も食べよ?」
「そうだね、食べようか」
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