第10話

「で? クリスマスイヴに先輩をデートに誘いたいと」

 

 昼休み、俺はいつも通りに篠原と昼食をとっている。

 目の前には俺が今日の朝早くに起きて作った弁当が置いてある。

 小春の手作り弁当に比べたらまだまだ美味しそうには見えないけど。


「そうなんだよ。クリスマスと言えばやっぱりクリスマスデートだろ?」

「いや、そうとは限らないけど」

「まぁともかく、俺は先輩をデートに誘いたいんだよ」

「誘えばいいじゃん」


 そんなの俺に相談してきたからと言って俺にできることなんてない。

 篠原が動かなければどうしようもない事だ。


「そうなんだけどさぁ、なんか誘うの緊張するじゃん?」


 誘ったことのない俺に言われても困る。


「直接じゃなければいいんじゃないか? メッセージで誘うとかすれば。流石にデートに誘うくらいなんだから面識はあるんだろ?」

「ああ、連絡先も持ってる」

「ならメッセージで誘えよ。直接誘うよりは緊張しないだろ」

「確かにそうだな。…………なんて送ればいいんだ?」


 篠原は告白されたり、デートに誘われる経験は結構あるが、自分から告白したり誘ったりする経験はほとんどない。


「普通にその日空いてるか聞いてみたら?」


 相手がその日に予定が無く、空いている事がまず重要だ。


「そうだな」


 篠原そう言ってスマホを操作し始める。

 篠原がスマホの操作を終えて直ぐに篠原のスマホに通知が来た。


「お、来た」

「早くね?」


 本当に数秒しか経っていない。


「どうだった? 空いてるって?」

「ああ、空いてるって」

「良かったな」


 篠原がデートに誘いたいというなら、相手は相当な美少女なのだろう。ならクリスマスイヴに予定があってもなんら不思議ではない。

 小春から聞いたが、小春もいろんな男子からクリスマスの誘いが来たらしい。


「いや、まだデートをオッケーされたわけじゃないから」

「そうだな、早く聞いてみろよ。二日後だろ?」


 クリスマスイヴまで残り二日となった。

 明日が終われば冬休みが始まる。


「今聞いてみた」


 篠原はスマホの画面を俺に見せてきた。

 画面には『クリスマスイヴに俺とデートしませんか?』とメッセージがあった。既に既読も付いている。


「おー! オッケーだって!」

「良かったな。一人にならなくて」


 篠原は嬉しそうな表情をしながら「ああ」と答えた。

 

「で? どこに行くことにするんだ?」

「まぁ、やっぱり冬と言えばイルミネーションだよなぁ~。うん、イルミネーション見に行こう」


 篠原は俺の顔を見ながらそう言った。


「いや、それは俺に言うんじゃなくて一緒に行く相手に言えよ」


 篠原もイルミネーションを見に行くのか。同じ場所になったら厄介だな。

 とはいえ、この辺りでイルミネーションがあるのは一か所しかない。

 俺の家から最寄りの駅で十分先にある場所だ。他の場所に行こうとすると三十分以上はかかってしまう。


「それとさ、先輩にクリスマスプレゼント渡したいんだけど何が良いと思う?」

「それは俺が聞きたいよ……」


 篠原には聞こえないように小声でそう呟く。

 俺も篠原と同じことで悩んでいるのにそのことについて相談されても本当に困る。


「なんか言ったか?」

「いや、何も言ってない。プレゼントなら俺よりも女子に聞いた方が良いんじゃないか?」


 実際に貰うのは男ではなく女子だ。男の俺の意見よりも女子の方が多少はいいアドバイスが貰えるのではないだろうか。


「そうか……あ、一之瀬さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 篠原は俺の隣の席に座る小春に声をかけた」


「は、はい! な、何かな?」


 急に声をかけられてびっくりしたのか、小春の表情は驚いていた。


「小春さんがクリスマスに貰って嬉しいプレゼントって何?」

「私がもらって嬉しいプレゼント?」


 小春は「うーん」と首を傾げる。

 今俺が一番聞きたいことを篠原が聞いてくれた。マジでナイス、篠原大好き。


「私は好きな人がくれたものなら何でも嬉しいけど、日常で使えるものとかが良いんじゃないかな? アクセサリーとか?」

「マフラーとか? そういうのってこと?」

「うん。マフラーとかだと私の場合は使うたびに貰った時の事を思い出せるから良いなぁって思うよ」


 篠原は小春の言う通りにマフラーにするそうだ。

 小春は既にマフラーを持っているので、マフラーをプレゼントするのは賢明ではないな。


「ありがとう一之瀬さん。助かったよ」

「うん。篠原くん、クリスマスプレゼント彼女に渡すの?」

「彼女ではないけど、一緒にクリスマスイヴにデートする先輩にプレゼントしようと思って」

「そうなんだ。喜んでもらえると良いね!」


 小春は篠原に笑顔でそう言う。


「あー、やっぱり緊張するな~。あと二日あるけど」

「篠原なら大丈夫だって。一押二金三暇四男五芸の中の四つもあるんだから」

「な、何それ? 何言ってんの?」

「ことわざだよ。女子にモテるために必要なものの順序で、押しが強くて金を持ってて、時間に余裕があって容姿端麗で面白いことが必要って事。篠原が金持ちかは分からないからとりあえず四つって言ったけど」

「あー、今月ピンチな俺にそれ言うか」

「知らねぇよ」

「とりあえず頑張ってみるわ」

「そうしろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る