第9話
目を開けると目の前には小春の姿があった。
いつの間にか
「ごめんね、起こしちゃって」
凄く申し訳なさそうな表情してそう言う小春に「良いよ、逆に今寝すぎると夜眠れないからありがたいよ」と返した。
それは小春を庇う言葉などではない。俺は小春が家に忘れ物を取りに戻ると家を出て直ぐに眠ってしまっていたはずだ。それを考えると結構な時間眠っていたことは分かる。
「毛布かけてくれたんだ、ありがとう」
俺はふと、小春が握っている物に視線が行った。
小春の手には俺のスマホがあった。
俺は眠る直前までスマホを見ていた。多分スマホを握ったまま眠ってしまい、落ちそうになったスマホ、もしくは落ちていたスマホを取ってくれたのだろう。
「もしかして、スマホの画面見た?」
「え? いや、見てないよ。画面は真っ暗だもん」
そう言って小春は俺のスマホの画面を見せてきた。
小春の言う通り画面が真っ暗だ。
「良かった……」
俺は無意識にそう呟いてしまった。
「もしかして……えっちな動画見てたの…………?」
顔を赤らめながらそう言う小春に、俺は「違う、違う。篠原と連絡してたからさ、トーク見られちゃったかなって思って」と誤解を解く。
「本当に?」
「本当だよ」
小春は俺の言うことを信じてくれたのか、スマホを返してくれた。
だけど俺の言っていることは嘘だ。篠原に遊びの誘い何てされてない。
俺がスマホで見ていたのは小春へのクリスマスプレゼントだ。
だから小春には見られたくなかったから嘘をつくしかなかった。
小春の欲しいものが全く分からないので、ネットで『彼女、クリスマスプレゼント、人気』で調べていたのがバレたら恥ずかしくて死ぬ。
他にも履歴には『デート、NG行動』等も残っている。
「それより忘れ物は持ってこれた?」
「う、うん」
小春は続けて「そろそろ夕飯の準備するね」と言って台所へ向かった。
スマホに表示されている時間を確認すると六時半だった。
俺は小春が夕飯を作ってくれている間に冬休み課題を進めておこうと、机に課題を広げる。
「悠斗くん、まだ冬休みに入ってないのに課題やるんだ」
「早く終わるに越したことはないからね」
「そうだね、悠斗くん頭良いから私に勉強教えてほしいな」
別に俺はそこまで頭が良いわけでは無いが、教えることくらいならできる。
「良いよ」
それに断る理由なんてない。分からないことは考えるより分かる人に聞いたり調べたりして理解する方が効率的だ。
「ありがとう」
小春は笑顔でそう返す。
俺の通っている学校では、定期テストの上位三十位の生徒の名前が張り出される。
そこに小春の名前が入っているのは二回見た。
それなら別に俺が勉強を教える意味なんてないんじゃないかと思ってしまう。
冬休みが終われば定期テストが待っている。今回のテストはどの科目の教師も難しくすると言っていた。
小春もそのせいで勉強を頑張りたいのだろう。
「悠斗くん。今日はハンバーグで良いかな?」
「俺はなんでも良いよ。小春の作りたい料理で」
作ってもらえるだけでありがたい。それに小春の作る料理は美味しい。
「じゃあハンバーグにしようかな」
小春はそう呟いた。
俺は筆箱からシャーペンを取り出し、計算を解いていく。
最初の方のページは一ページほんの数分で終わらせられる。
全部これくらいの簡単な問題にしてほしい。
「悠斗くんの得意教科って何?」
小春はハンバーグの空気抜きをしながらそう聞いてきた。
「うーん。得意教科とかは特に無いかな」
特にこれといって他と比べて点数の高い教科は無い。
「でも社会は暗記するだけだから楽だね」
「私は暗記苦手だな~。あ、数学は得意だよ!」
小春は元気よくそう言う。
「そうだったね」
小春は前回の数学で九十点以上を取っていた。
小春は、ハンバーグの空気抜きの工程を終え、フライパンでハンバーグを焼き始める。
キッチンからハンバーグの焼ける良い音が聞こえてくる。
「そういえば帰ってくる途中に篠原くんに会ってね、悠斗くんの事、良い人って言ってたよ」
「篠原が?」
小春は「うん」と首を縦に振りながら答えた。
誰であろうと、他人から良い人と言われて悪い気分はしない。
「そうなんだ」
「今日の昼休みに悠斗くん、篠原くんに私を狙ってるって勘違いされてたでしょ? だから多分友達として私に悠斗くんと仲良くさせようとしてくれたんじゃないかな?」
「篠原は俺達の関係を知らないからね」
俺と小春は笑いながら話す。
「できたよ~」
それから数分が経ち、小春は美味しそうな沢山のハンバーグが乗った大皿を運んできた。
俺は、机の上に広げられている課題を直ぐに仕舞い、飯椀に米を盛った。
俺と小春は同時に「いただきます」と手を合わせながら言い、箸をハンバーグに運んだ。
小皿にハンバーグを乗せ、小春が作ってくれたソースをかけて食べる。
案の定めちゃくちゃ美味しい。
「どうかな? 美味しい?」
「うん。めちゃくちゃ美味しいよ」
「本当? 良かった!」
小春は胸の前で手を合わせながら笑顔でそう言った。
小春もハンバーグを一口食べた。
「悠斗くん」
「どうしたの?」
小春は持っていた箸を置き、俺の名前を呼んだ。
「クリスマスイヴは一緒にデートしてくれるんだよね?」
「う、うん。勿論」
「ク、クリスマス当日も一緒に過ごしてくれる?」
小春は可愛らしい声と表情で聞いてきた。
「小春が良いなら俺も一緒に居たい」
俺の返事に小春は嬉しそうな表情を浮かべて「じゃあクリスマスも一緒に居てね!」と言った。
逆に小春とクリスマスを過ごしたくないという男子がいるなら、いったいどれだけ可愛い彼女が居るのだろうか。
「うん。ケーキも買わないとね」
クリスマスを小春と過ごすなんて思ってもいなかったため、クリスマスケーキの予約などはしていなかった。
小春と恋人同士になって初めてのクリスマスなんだ、クリスマスケーキくらい用意しないとな。
「あ、でもクリスマスツリーは無いんだ」
「良いよ、悠斗くんが居ればクリスマスツリーなんて要らないよ」
「ごめんね」
小春は「謝らなくても良いのに」と言いながら再びハンバーグを食べ始めた。
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