第8話
「もうそろそろ届くはずなんだけどな」
私は急いで自分のお家へと帰って来た。
私は悠斗くんに嘘をついてしまった。私は家に忘れ物なんてしていない。
昨日ネットで注文したあるものが届くため、一度家に戻って来たのだ。
悠斗くんのお家に届けてもらっても良かったんだけど、悠斗くんには内緒にしたいから私のお家に届けてもらうことにした。
少しだけいなかっただけなのに懐かしい気持ちがする。それだけ悠斗くんのお家が私にとって居心地が良いっていうことなんだろう。
「たまに帰ってきて掃除しなきゃ」
この家に帰って来ることは今後少なくなるだろう。
そうなれば家は誰も居なくなる。必然に埃は溜まっていく。
荷物が届くまで本当に忘れ物がないか一度確認してみることにした。
「この服はもう着れないし」
悠斗くんのお家にもっていかなかった服を見ながらもう着れなくなった服を何着も見つけた。
急いで悠斗くんのお家に持っていくものを決めたから良い服がまだ残ってるかもしれないもん。
「特に無いかな。あ、このぬいぐるみどうしようかな」
初めて友達から貰ったプレゼントのぬいぐるみ。でも持っていっても良いかな?」
悠斗くんは好きにしていいって言っていたけど、でも持っていきすぎは良くないもんね。
一度聞いてからの方が良さそうだよね。
一通り自分の部屋の物を見終わり、リビングに戻ると直ぐに呼び鈴が鳴った。
モニターを確認して配達員の人かどうかを確認してから荷物を受け取った。
箱に入っている品を持ってきたカバンの中に綺麗に仕舞い、悠斗くんのお家へ戻る。
「あ、鍵ちゃんと閉めなきゃ」
しっかりと鍵を閉めたことを確認して、少し早歩きで悠斗くんのお家へ帰る。
「もうすこし厚着してきた方が良かったかな」
私は今日もスカートを穿いて手袋もしていない。相変わらずマフラーだけがしている。
だってこのマフラーはお父さんが久しぶりに日本に帰ってきたときに買ってもらったものだから。
「あれ? 一之瀬さん?」
そう話しかけてきたのは悠斗くんの前の席で悠斗くんの友達の篠原くんだった。
「篠原くん? どうしたの?」
「部活の帰りだよ。そういえば一之瀬さんって悠斗と仲良いの?」
突然の言葉に私は少し驚く。
確かに私は最近までは悠斗くんとそこまで仲が良かったわけじゃない。
休み時間も全く喋った事も無かった。授業中に分からない事を悠斗くんに聞くくらい。
「どうして?」
「いや、同じ部活の奴から聞いたんだけど、朝悠斗と一緒に歩いて登校してたらしいからさ」
「あ、それは、ちょうど悠斗くんと会ったから」
「そうなんだ。それに今日の昼休みに一之瀬さん悠斗の事結構見てた気がして」
悠斗くんにはバレてないと思ったけど篠原くんにはバレていたらしい。
自分が作ったお弁当を美味しそうに食べてくれていたら嬉しくて見てしまう。
「あいつ良い奴だし、仲良くなって損は無いと思うよ。じゃあ」
そう言って篠原くんは私の横を通って去っていった。
今日の昼休みの悠斗くんと篠原くんの会話は全て聞いていた。
篠原くんは悠斗くんと私が付き合っているのを知らないから、悠斗くんが私の事を狙っていると勘違いしていた。だから私に悠斗くんは良い人だから仲良くなった方が良いと言ってきたのだろう。
私は再び悠斗くんのお家を目指して歩き出した。
もうすぐ冬休みが始まる。そしたら悠斗くんと初めてのデート、それも普通のデートじゃない。クリスマスデートができる。
プレゼントはまだ決めてないけど、悠斗くんが喜んでくれそうなプレゼントは絶対に渡したい。
毎年クリスマスは家で一人だった。けれど、お父さんとは電話越しにだけれど話をしていた。
お父さんと電話することで少しは寂しさを紛らわしていた、けれど今年はお父さんとも通話できて悠斗くんと一緒に過ごせる。
私が一人になってからのクリスマスで一番楽しいクリスマスになりそう。
今からクリスマスの日の事を想像していると悠斗くんのお家に着いた。
「ただいま、悠斗くん」
私はそう言いながらリビングに向かった。
「あれ? 悠斗くん寝ちゃってる?」
リビングにはソファーの上で、スマホを握りながら眠っている悠斗くんの姿があった。
気持ちよさそうに眠っているので起こすのは申し訳ないと思ってしまう。
悠斗くんは普段朝早く起きていなかったみたいだし、急に早起きは辛かったかな? そうだとしたら申し訳ないことしちゃったかな、せめてもう三十分は寝かせてあげても良かったかも。
私は悠斗くんの部屋から毛布を持ってきてソファーで眠っている悠斗くんにかけて頭をそっと撫でた。
「悠斗くんの髪、結構サラサラだね」
勿論返事は返ってこない。
私は今のうちに届いた荷物をクローゼットの中にしまった。
「悠斗くん、喜んでくれるかな?」
リビングに戻り、スマホで悠斗くんに渡すクリスマスプレゼントの候補を探す。
「やっぱり日常で使える物の方が嬉しいかな?」
視線をスマホから悠斗くんに移し、そう呟く。
しばらく悠斗くんを見つめていると、悠斗くんが手に握っているスマホがゆっくりと床に近づき始め、落ちそうになった。
私は落ちそうになっているスマホを取った。
「あっ!」
スマホを取る際に悠斗くんの手に触れてしまい、悠斗くんの瞼がゆっくりと開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます