第7話

 放課後、何処の部活にも所属していない俺は寄り道もせずに真っすぐ家に向かう。

 だが、今日の下校はいつもとは違う。隣に小春が居るからな。

 俺の家への帰り道には同じ高校の生徒はそういないし誰かに見られる心配もあまりないし、そもそも一緒に登校してる時点でそんな心配しても意味ないけどな。

 

「悠斗くんのお家って学校から近いから良いよね。私のお家は学校から遠いから大変だったんだ~」


 俺が今通っている高校を選んだ理由は家から近いからだ。

 家から近ければその分睡眠がとれる。まぁ小春と同棲することになって結局早起きしなければならなくなったけど。

 

「近いから今の高校を受験したからね」

 

 登校時とまではいかないものの、下校時も結構寒い。

 夏は熱い中、冬は寒い中、家に帰るために長い時間歩きたくはない。


「そうなんだ。近いって良いね」


 昨日までは一人寂しく帰っていたが、小春が居るだけでこんなにも変わるんだな。

 いつもと同じ帰り道のはずなのに違う道を歩いているみたいだ。

 でも一つ気になった事があった。

 

「小春って部活入ってないのか?」


 俺とこうして帰っているということは、どの部活にも所属していないか今日が休みだったのかどちらかだ。

 

「私運動も苦手だし、楽器もできないし、絵も上手じゃないからどこの部活も入ってないんだ」

 

 俺が通っている高校には運動部以外に吹奏楽部と美術部、パソコン部がある。


「文芸部があったら入ってたんだけどね」

「二年前までは文芸部と手芸部があったらしいけどね」


 どちらとも部員が居なくなって廃部になったらしい。

 

「悠斗くんは何で部活入らないの?」

「たまにやるから面白いと思うからかな。それに練習とか嫌いだし」


 それに俺は運動を楽しみたい派なのだ。勝敗などもまったく気にしない。楽しくやれればいいと思っている。けれど部活を真剣にやっている人にとって勝敗は大事な事だ。そんな中に俺が行ったら迷惑になってしまうかもしれない。

 他にも吹奏楽とかもあるが、俺も小春と一緒で楽器は何もできないし絵も上手くない、美術センスは皆無。パソコンは目が悪くなりそうで入部を辞めた。

 

「それは私も分かるかも。中学生の頃はなんか部活やってたの?」

「中学も帰宅部だったよ」


 中学は高校と一緒で部活は強制ではない。小学校では三年間だけサッカーをやっていた。


「そうなんだ。でも悠斗くんって運動できたよね? 体育の授業で悠斗くんの事を見ただけだけど」


 確かに俺は運動があまりできないわけではない。むしろできる方だと思っている。

 でも運動ができるからといって部活に入らないといけないわけでは無い。


「できる方ではあると思うけど」

「私は運動が全然ダメだから羨ましいな」

「羨ましがるようなことじゃないよ」

「そうかな?」


 今までの俺の経験だが、運動ができるからといってあまり良いことはなかった。

 そんな会話をしていると家が見えてきた。

 いつもはもっと早く家に着くのだが、小春と話していると歩くペースが遅くなってしまう。

 小春と一緒なら家でも一緒に入れると分かっていても、もう少し歩いていたいと思ってしまう。

 俺は閉まっている家の鍵を開け、小春を先に家に入れた。


「私お嬢様じゃないんだからドアくらい自分で開けれるよ?」

「でもなんとなくやっちゃうんだよ」

 

 小春が自分でドアを開けれることくらい知っている。だけどついやってしまう。


「でもありがとう」


 小春は笑顔でそう返してくれた。

 小春に続き俺も家に入り、寒い部屋を暖めるために暖房をつける。

 

「悠斗くん、着替えたいんだけど部屋借りていい?」


 制服から私服に着替えるために俺の部屋に行こうとする小春。

 

「ちょっと待って」


 それを俺は止める。

 

「何? 悠斗くん」

「ちょっと来て」


 俺は小春にそう言って俺の部屋の隣の部屋に連れて行った。

 

「この部屋全く使ってないから持ってきたものとか置いといて良いよ。服もこのクローゼットにしまっておけるし」


 小春が持ってきた服や荷物はリビングの端に置いてある。

 勿論それでも良いのだが、やはりしまっておける場所があった方が良いだろう。

 それに着替える場所もここでいいだろう。


「良いの? 一部屋使っちゃって」

「使ってない部屋だから小春に使ってもらった方が良いし」

「じゃあ使わせてもらうね」


 そう言って小春はリビングから荷物を運んできた。

 

「悠斗くん、着替えたいから少し部屋から出ててくれないかな?」


 俺は「分かった」とだけ返して自分の部屋に移動した。

 俺も制服から私服に着替えなければいけない。

 クローゼットから私服を取り出し着替える。

 着替え終えるとリビングに戻り弁当箱を洗う。

 弁当箱は各自で洗うことに決めた。

 

「悠斗くん。私ちょっと家に忘れ物しちゃったから取りに行ってくるね。ちょっと遠いから帰って来るの遅くなるね」

「分かった、気を付けてね。あ、小春の弁当箱洗っておくから」

「ごめんね。ありがとう」


 小春はそう言って家を出た。

 前までは小春のいないこの空間が普通でなんとも思わなかったけど、小春が来て一日しか経っていないのに、小春が居ないと寂しいと思ってしまう。

 テレビを付けていないため、リビングには小春の弁当箱を洗うために流している流水の音のみが響く。

 弁当箱を洗い終えた俺は静テレビをつけてソファーでくつろぐ。

 もうすぐ冬休みなので、明日提出する課題は出されていない。変わりに冬休みの課題は配られた。

 早めに終わらせたいけどなかなか手は動かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る