第11話
「ごめん小春、今日ちょっと行きたい場所あるから先に帰っててくれないか?」
帰りのホームルームが終わり、教室には俺と小春の二人だけが残っている。
俺はカバンから家の鍵を取り出し、小春に渡した。
まだ小春用の合鍵を作っていないので早めに作らなければならない。
「行きたい場所? 私も着いてくよ?」
「いや、篠原のデートの事でちょっとね」
というのは嘘だ。
「そうなんだ、じゃあ先に帰っておくね。なるべく早く帰ってきてね」
「ああ、わかった」
そう言って小春は俺に手を振りながら教室を後にした。
俺もその後に教室を出た。
何時も帰る道とは反対の道を歩く。
向かう場所は、電車で十分先にあるショッピングモール。
もうクリスマスイヴまでそんなに時間がない。小春へのプレゼントを買うなら今日か明日しかない。
ネットで買っても良いのだが、お届け予定日が延期されたら困るので直接買うのが賢明だ。
駅に着くと、直ぐに電車へ乗り込む。
小春は今日の昼休みに、好きな人から貰ったプレゼントならなんでも嬉しいと言っていた。小春の好きな人は俺のはずだ。自分で言って恥ずかしいけど。
そう言われて少しハードルは下がったが、小春がその後言っていた、日常で使えたりするアクセサリーなどが良いという言葉を受け、ショッピングモールにアクセサリーを買いに行くことにした。
もし篠原が今日小春に質問をしていなかったら、今頃何をプレゼントしたらいいのか分からず、頭を抱えて悩んでいたことあろう。とはいえ、今でもどんなアクセサリーをプレゼントしたらいいのか悩んでいる。
電車の中でも、スマホを使って女子に人気のアクセサリーなどを検索して調べている。
「小春に似合いそうなアクセサリーがあればいいな」
一度も女子にプレゼントを渡したことのない俺は、しっかりとしたプレゼントを選べるのか? やっぱり困ったら店員に聞くのが一番だよな。
色々と考えていると目的であるショッピングモール前の駅に着いた。
平日ながら、ショッピングモールの中は人が沢山いる。
俺は直ぐに目的のアクセサリーの置いてある店に向かった。
「確か三階にあったはず」
何度も利用しているショッピングモールなので、どの階にどういった商品が売られているかなどはなんとなく分かる。
俺は目の前にあるエスカレーターで三階まで上がり、良さそうな店に入る。
店内の照明は物凄く明るい。ディスプレイケースには照明に照らされて輝くネックレスや指輪が並んでいる。
店内を二周してもどういった物が良いのか分からない。
もう店員さんにお勧めの物を聞くしかないな。
「何かお探しでしょうか?」
そんな俺に店員さんがそう声をかけてくれた。
「えーっと、彼女へのクリスマスプレゼントで、お勧めのアクセサリーとかってあります?」
俺がそう聞くと、店員さんは「でしたら」と俺を案内してくれた。
「こちらがお勧めです」
そう店員さんがお勧めしてきたのは、銀色に輝くハート形のネックレス。
大きなハートの中にさらに小さなハートがあり、ダンシングストーンと言われるものも付いている。
俺は一度想像する。小春がこのネックレスをつけている姿を。
案の定俺の脳内では似合っている。
今ここでこのネックレスを買わずに別の物を探そうとするとさらに時間がかかって帰るのが遅くなってしまう。
それにこのネックレスは絶対小春に似合う。
「じゃあこれ買います」
俺はディスプレイケースで綺麗に輝くネックレスを指さしてそう言った。
「ありがとうございます。可愛く包装させていただきますね」
「ありがとうございます」
俺は会計を済まし、可愛く綺麗に包装された小春へのプレゼントを受け取った。
とりあえず目的を果たしたが、もう一つ寄りたい場所があるのでショッピングモールを直ぐに後にしてそこへ向かった。
電車で最初の駅まで戻り、学校まで戻って来た。
俺が向かう場所は、学校から俺の家を更に奥へ向かった場所にあるケーキ屋だ。
あまり行ったことはないが、評判は良いと聞いている。
白を基調とした綺麗でお洒落なケーキ屋へ一人入店する。
店内には俺以外に客は居ない。
店内に入ると「いらっしゃいませ」とお洒落なコックシャツを着ている店員さんは言う。
「どれがいいかな」
ショーケースに飾られているケーキはどれも美味しそうだ。
「ホールケーキは流石に量が多いよな」
ホールケーキでも良いのだが、俺と小春の二人で食べることを考えると、量が多い。
それに小春の好きなケーキの種類も分からない。聞いておけば良かったな。
やはり無難にショートケーキかな。でももし食べられなかった時のためにザッハトルテも買っておこう。
「すいません。ショートケーキとザッハトルテを二つずつ下さい」
俺は会計を済ませ商品を受け取り、スマホで今の時刻を確認した。
「やば、もう六時半過ぎてる」
そろそろ帰らないと夕飯の時間になってしまう。
俺は早歩きで家に向かった。走ってしまうとケーキが傾いてしまうかもしれないからな。
ケーキ屋から俺の家まではそんなに遠くない。急いで向かえば五分くらいで着く。
近くにケーキ屋があると買いに行ってしまうかもしれないが、俺はそこまでケーキが好きなわけでは無いからそんなに通わなくても良い。もし俺が物凄いケーキ好きなら毎日でも通っていたのだろうか。
「ただいま」
俺は小春に向かってそう言い、リビングへ向かった。
少し前までは家に帰ってきても、ただいまなどは言わなかったからまだ少し新鮮な気持ちだ。
「おかえり、悠斗くん。も~、遅いよ~」
小春はそう言って俺の元へ近づいてくる。
「ご、ごめん。少し寄り道もしてて」
「あれ? 悠斗くん、それ何?」
小春は視線を俺の手元へと移した。
「明後日一緒に食べるケーキだよ。それまで食べちゃダメだからね」
「分かってるよ。私そんなに食いしん坊じゃないもん!」
「冗談だよ、冗談」
「も~。あ、夕飯の準備するね」
「ああ、ありがとう」
小春がキッチンへ向かったので、今のうちに小春へのクリスマスプレゼントを自分の部屋に隠しに行く。
俺の部屋とは言え、寝るときは小春も俺の部屋で眠るため、普通に置いておいたら絶対に見つかってしまう。しっかりと鍵の着いた引き出しにしまうことにしよう。
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