第13話 急襲

「やっとか・・・」


 片道4時間、俺たちは東京に入った。時刻は10時過ぎ。ここから俺たちは原宿へ向かう。

なぜ原宿なのか。それは俺たちが逃げ切るための秘策がそこにあるから。とは言っても逃げ切れる確率はそう高くない。警察や自衛隊・・・これからは敵と称そう。敵にこの秘策が通じるかも微妙なところだ。そして何より、今日逃げ切れたとして、今後の方針が全く決められていない。今日は良くても明日は捕まるかもしれない。前日に今日を乗り越えることだけに専念することを心のなかで決めたはずだが、やはり心配になる。二人の意見も聞きたいところだ。それにまだ車内だし、依然、ドローンは追ってきて入るが、まだ襲われることはないだろう。ここで考えを共有しておくほうががなにかと効率がいい。


「今日、逃げ切れたとしてこの先ずっと逃げられるとは思うんだ」


「そうね。逃げているだけじゃ根本的な解決にならないわね」


「二人の意見を聞きたい。今後、どうするか。それこそ、追手がこなくなるような解決策が必要だと思う。」


 何かいい案はないかと俺は二人に尋ねる。うーんと二人は唸ってから考えを口に出す。やはり、全員が同じ意見のようだった。


「研究所を徹底的に壊すしかないんじゃないかなぁ」


 荒っぽい策だがそれしかないだろうと思っていた。世間に公表する手も考慮はしたが、他の研究所との争奪戦になったり、外国が絡んできたりする可能性は高い。やはり大本である研究所に潜入して、実験データを削除するしか方法が思いつかない。


「そうだな。俺もそれに賛成だ。とりあえず今日くる敵をまいたら、東京のどこかに潜伏しよう。潜伏と言ってもホテルでも旅館でも、身を隠せる場所ならどこでもいい。潜入作戦はその時考える。」


「未成年だけでもホテルって泊まれるものなの?」


「泊まれるところもあれば泊まれないところもある。それは調べればすぐ出てくるから安心してくれ。」


「ところで、君に研究所の場所は伝えていたっけ?」


 そういえば聞いていなかった。彼らが昨日、家に戻ってきた時間から予想するに、俺の家から2~3時間程度の距離にあると思うのだが、彼ら、“神の子”の存在は極秘中の極秘だろう。一般の研究所のように、誰でも見える場所にあるとは思えないけど・・・



「場所は、上里山」


「な・・・」



 次の瞬間、パアンと発砲音がなった。窓ガラスが勢いよく飛び散る。

 狙撃された。幸い銃弾は身体のどこにも命中はしなかったが、飛び散ったガラスの破片が俺の顔や首、腕をかすめる。


「いっ・・・」


「光!!」


 静流が慌てて背後から乗り上がって俺の傷の手当を施そうとする。


「だめだ!撃たれる!!!かがんでろ!!」


 俺は後部座席にいる静流だけでなく助手席にいる朱記さんに向けても叫ぶ。左右から次々と銃声が聞こえてくる。おいおい、ここ、東京の中心地だぞ?道路の端で悲鳴が上がる。しかしどうやら怪我人は出ていないようだった。クソ、プロじゃねえか!ここはまずい。タイヤを撃たれてスリップさせられる前に射線を切らなくては。

 

 現在地は表参道。目的地はかなり近い。普段は人通りが多いのだが、まだ表参道に入ったばかりということもあり、人はそう多くはない。このままじゃやばい。とにかくまずは射線を・・・


 だめだ。ここは大通り。射線を切れるところはほとんどない。俺は力強くアクセルペダルを踏む。スピードを加速させて、振り切るしかない。頼む。このまま行ってくれ。


 いきなりの出来事で判断力を失ってしまった。速度は150kmオーバー。このまま真っ直ぐ進めば衝突してバッドエンドだ。



>ピロリン!



 「はっ!」


 スマホの音で我に返る。そこには「左」と表示されていた。誰だ?だけど今確認している余裕はない。どこを左なのかはわからなかったが、とにかくスピードを緩め、曲がれそうな道を左に曲がる。とたん、銃声はやんだ。


 猛スピードで曲がってきた車に道行く人が悲鳴を上げる。周りからすれば危険行為なのだが、その悲鳴や怒声を聞いて安堵する。どうやら着いたようだ。正確にはまだ少し距離があるのだが、人通りの多い道に出た。俺たちはすかさず車を乗り捨て、周りの注目を浴びながらも、近くのファッション雑貨店に駆け込む。


「なんとか、なったぁ・・・」


 俺たちは各々試着室に入って着替えをすませる。とりあえずは一安心だが、これからどうなってしまうんだろう・・・

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